1 2023年10月7日、ハマス等パレスチナ武装勢力によるイスラエルへの武力攻撃が行われ、それ以降、ガザ地区において深刻な戦闘状態が継続している。

 ハマス等の攻撃によるイスラエル側の死者数は1200人を超えたとされ、約30人の子どもを含む240人を超えるイスラエル市民及び外国人が人質にされ、現在も多数が解放されていない。

 他方、この間、イスラエルからの攻撃により、ガザ地区でのパレスチナ側の死者数は2万6400人を超え、負傷者数は6万5000人を超えたと報道されている(ガザ地区保健省2024年1月28日発表)。これらガザ地区における死傷者のうちの70%は女性及び子どもであるとみられ、1万人以上の子どもが死亡し、1000人以上の子どもが片足又は両足を失い、そのほとんどが麻酔なしで切断されたと報告されている(国際NGOセーブ・ザ・チルドレン2024年1月11日発表)。攻撃の対象は病院や学校にも及び、少なくとも250人を超える医療従事者が犠牲になったとされる。ガザ地区の住民は、水や電気の供給も遮断されて、避難移動することを余儀なくされ、さらに移動先の環境も劣悪で医療や生活に必要な物資も不足している。

2 ハマス等パレスチナ武装勢力が市民を巻き込んだ攻撃によりイスラエル側に多くの犠牲を出したこと及び一般市民の人質をいまだに解放しないことは、国際人道法に反する違法行為である。

 他方、イスラエルがガザ地区に対し市民の住居や文民病院を含む無差別攻撃を継続し、これによって子どもや医療従事者を含む多数の一般市民の死傷者を出し、住民に強制移動を余儀なくさせていることは、看過できない国際人道法違反の行為である。

3 このようなイスラエル・ガザ地区での深刻な人道状況を受けて、2023年12月12日、国連総会臨時特別会合において、人道上の即時停戦、国際人道法を含む国際法上の義務(特に文民保護)の遵守、すべての人質の無条件即時解放、人道的アクセス確保を求める総会決議が採択された。また、同月23日に国連安全保障理事会(安保理)において、ガザ地区に対する人道支援の拡大と監視に関する安保理決議第2720号が採択された。

4 東北弁護士会連合会は、犠牲となったすべての方々に哀悼の意を表し、ガザ地区における即時停戦と平和的解決を心から願うとともに、国連はじめ平和的解決に向けて尽力されている方々に連帯の意思を表明する。また、日本国憲法の「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」との理念を実現すべき日本国政府に対し、ガザ地区における即時停戦、人質の解放、人道危機の解消を目指して外交努力を尽くすよう求める。


  2024年(令和6年)2月2日

                    東北弁護士会連合会     

会 長  虻 川 高 範

 1 仙台高等裁判所第2民事部(小林久起裁判長)は、2023(令和5)年10月25日、旧優生保護法に基づく優生手術を強制された被害者に対し損害賠償を命じた原審仙台地方裁判所の判決(本年3月6日)に対する控訴人(国)の控訴を棄却する判決を言い渡した。

 本判決は、原判決に引き続き、旧優生保護法が、立法当時から、憲法13条、14条1項、24条2項に明白に違反することを認めた。その上で、国が違法な立法を行った上、それに基づく政策を継続し、差別や偏見を固定化することによって、被害者が損害賠償請求権を行使することを著しく困難にさせたと認め、このような重大な人権侵害の政策を推進してきた国が被害者の損害賠償権の消滅を主張することは、正義・公平の観点からも、権利の濫用として許されない、と判断し、被害者の請求を認めたものである。

2 これまでも、2022(令和4)年2月22日に大阪高等裁判所、同年3月11日に東京高等裁判所、そして、2023年(令和5年)3月16日に札幌高等裁判所が、いずれも国に損害賠償を命ずる判決を下し、また、各地方裁判所においても、熊本地方裁判所、静岡地方裁判所、そして本件の原審仙台地方裁判所も、それぞれ国に損害賠償を命ずる判決を下してきた。

3 この度の仙台高等裁判所の判決は、これらの多くの全国の裁判例と同様に、被害者の請求を認めたものである上、さらに旧優生保護法の違憲性を一層明確に認め、重大な人権侵害を行なってきた国が被害者の請求権の消滅を主張するのは権利の濫用として許されないと明確に判断した点において、高く評価できるところであり、本判決及びここに至るまでの上記判決の集積によって、長年にわたり重大な人権侵害を受けてきた旧優生保護法の被害者に対し、消滅時効や除斥期間の適用を制限すべきであるとの司法の判断は、大方固まったと言うべきである。また、本判決が、優生手術を受けた上に提訴に至るまでの長年の精神的苦痛を全体として評価し、一時金支給法で定められた一時金の額320万円を大幅に上回る額の慰謝料を認めたことからも、同法による救済が不十分であったことが一層明らかになったところである。

4 したがって、当連合会は、国に対し、本判決に対して上告せず一刻も早く本判決を確定させて被害者を救済することを求めるとともに、改めて一時金支給法を抜本的に見直し全ての被害者に対して被害を償うに足りる補償金を支払い、被害者救済のための制度を確立することを強く求めるものである。

2023年(令和5年)10月30日

東北弁護士会連合会     

                     会 長  虻 川 高 範 


  えん罪は国家による最大の人権侵害の一つであり、起きてはならないことであるが、万が一、えん罪が起きてしまったときは、えん罪被害者は速やかにかつ確実に救済されなければならない。しかし、えん罪被害者の救済手段となるはずの刑事事件の再審制度は、「開かずの扉」とも言われるほど、再審が認められることがまれであり、えん罪被害者の救済は遅々として進まない状況にある。現在の再審制度は、えん罪被害者の救済手段としての意義・役割を十分に果たせていないと言わざるを得ない。

 

 21世紀に入って以降、足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件、松橋事件、湖東事件の6事件で再審により無罪判決が確定し、さらに、本年(2023年(令和5年))に入ってからも袴田事件について再審開始決定が確定するなど、近年、再審をめぐる動きは活発化している。

 しかし、現行刑事訴訟法では、再審手続に関する規定が旧刑事訴訟法から内容を引き継いだ19か条しかなく(刑事訴訟法435条ないし453条)、とりわけ再審請求手続における審理の在り方については、刑事訴訟法445条において、事実の取調べを受命裁判官又は受託裁判官によって行うことができる旨が定められているだけで、裁判所の広範な裁量に委ねられている。そのため、再審請求事件の審理の進め方は裁判所によって区々であり、再審をめぐる動きが活発化する中で、いわゆる「再審格差」と呼ばれる裁判所ごとの格差が目に見える形で現れるようになり、制度及び規定の不備が看過できないものであることが明らかとなっている。

 

 その中でも、とりわけ大きな問題となっているのが、再審における証拠開示制度の不備である。再審開始決定を得た事件の多くにおいて、再審請求手続の中で初めて開示された検察官の手持ち証拠の中に、再審開始を導く重要な証拠が含まれていた。これは、再審請求手続における証拠開示の重要性を端的に示すものである。

 しかし、現行刑事訴訟法には再審における証拠開示について定めた明文の規定は存在せず、裁判所の訴訟指揮に基づいて証拠開示が行われる。証拠開示が裁判所の裁量に委ねられることから、再審開始を導く重要な証拠が再審請求人に開示される保証はない。

 えん罪被害者の救済という再審の理念を実現するためには、再審請求手続において証拠開示が十分に行われ、通常審段階で公判に提出されなかった裁判所不提出記録を再審請求人に利用させることが不可欠であり、再審請求手続における証拠開示制度の整備が急務である。

 

 また、再審開始決定に対して検察官の不服申立てが許容されていることも看過できない問題である。再審開始決定に対する検察官の不服申立てが、えん罪被害者の速やかな救済を阻害していることはかねてより指摘されている。近時の再審開始決定を得た事件の多くにおいて、再審開始を認める即時抗告審の決定に対し、検察官が最高裁判所に特別抗告を行っており、えん罪被害者の救済が長期化することにつながっている。このように、検察官の不服申立てが許容されていることによる弊害は顕著であり、速やかに是正する必要性が高い。


 このような点を踏まえ、当連合会は、えん罪被害者を速やかに、かつ、確実に救済するため、国に対し、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止、及び、再審請求手続における手続規定の整備を中心とする再審法の抜本的な改正を速やかに行うよう求める。




                                                                                2023年(令和5年)9月9日  

                                                   東北弁護士会連合会      

                                                     会 長  虻 川 高 範

  仙台高等裁判所・仙台簡易裁判所判事の岡口基一裁判官(以下「岡口裁判官」という。)は、性犯罪についてSNS・記者会見・ブログ・週刊誌のインタビューで発言したこと、犬の返還を求める訴訟についてSNS及びブログで発言したことを理由として、2021(令和3)年6月に裁判官弾劾裁判所に訴追され、現在、同裁判所での審理が進められている。一方、岡口裁判官は、同年7月、同裁判所から、裁判官弾劾法(以下「法」という。)39条により、職務停止決定が出され、現在まで2年以上も裁判官としての職務が停止されている。

 憲法は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(76条3項)と定め、裁判官の職権行使の独立を明記するとともに、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない」(78条前段)として裁判官の身分を強く保障している。これは、司法による権利救済・人権擁護が他の権力からの影響を受けずに行うことができるためは、「司法の独立」を制度的に保障し、憲法の根本原理である三権分立を具体化し、もって、国民の人権保障を全うするためとされている。

 これを受けて裁判官弾劾法も、罷免事由を「その他職務の内外を問わず裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき」(法2条2号)と定め、懲戒事由としての「品位を辱める行状」(裁判所法49条)と比較しても、罷免事由を極めて限定している。

 裁判官の罷免事由が厳しく限定されているのは、司法権とは別の国家機関である国会議員の裁判員によることから、弾劾裁判が安易に行われれば、司法権の独立を犯しかねないからである。また、罷免が裁判官から法曹資格すら失わせる重大な効力を有するからでもある。このため、過去に弾劾裁判所に訴追された9件のうち罷免の判決がされた7件は、収賄や公務員職権濫用、児童買春、ストーカー行為、盗撮等の犯罪行為に該当する事案であり、いずれも犯罪行為又はそれに匹敵する著しい不正行為に及んだものばかりで、司法権の独立、裁判官の身分保障への懸念もない事案であった。

 これに対して、本件訴追は、本件投稿等、岡口裁判官の私的な表現行為を理由とするもので、過去の罷免事例とは著しく事案を異にしている。

 表現の自由は、何人にも保障される重要な人権であり(憲法21条1項)、その保障は裁判官にも及び、裁判官も一市民として表現の自由を有する。仮に、裁判官の表現行為を理由に罷免の裁判がなされた場合には、裁判官の一市民としての表現活動に強い萎縮効果をもたらすほか、裁判官の身分保障(憲法78条)、ひいては裁判官の独立(憲法76条3項)に対する重大な脅威となり、三権分立のバランスを崩す契機となりかねない。したがって、表現行為を理由に罷免という重大な結果をもたらすには、それに見合うだけの重大な違法性が存在しなければならない。

 確かに、本件訴追の対象となる投稿等の中には、被害者遺族の感情を傷つけるなど不適切と評価されうる内容もある。また、この投稿の一部については、遺族からの損害賠償請求訴訟の一審判決において、「(遺族に対する)侮辱的表現であって、原告らの名誉感情をその受任限度を超えて侵害するもの」と認定され、慰謝料請求が認められてもいる。このため、岡口裁判官のこれらの行為について、懲戒事由としての「品位を辱める行状」(裁判所法49条)に該当するとも考えられる。しかし、これらの行為が、過去に罷免されたような、犯罪行為又はそれに匹敵する著しい不正行為に該当するとは認められない。したがって、裁判官の職を失わせ、法曹資格さえも失わせるほど重大な非違行為である「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当するとは言えないものである。

 よって、当連合会は、本件訴追が、司法権の独立と表現の自由の保障など、憲法上極めて重大な問題を有していることから、現在、弾劾裁判の審理をしている裁判官弾劾裁判所に対し、慎重な審理を行い、罷免事由を厳格に解釈して、岡口裁判官を罷免しないとする裁判をされるよう求める。


                                                                                     2023年(令和5年)9月9日                                                                                                                東北弁護士会連合会                                                                                                                    会 長  虻 川 高 範


  政府は、2022年12月16日、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画(以下、「安保三文書」という。)を閣議決定し、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃するための敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を進めようとしている。

 しかし、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は、以下のとおり、従来の政府の憲法9条解釈に基づく専守防衛政策を逸脱し、憲法9条に違反するものであるから、当連合会は、これに強く反対するものである。

1.政府は、これまで、自衛隊が憲法9条2項で禁止される「戦力」にあたらず合憲であるのは、自衛隊が自衛のための必要最小限度の実力であり、その実力行使も武力行使の三要件、すなわち、①我が国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち武力攻撃が発生したこと②これを排除するために他の適当な手段がないこと③その武力攻撃を排除するための必要最小限度の武力行使にとどまるべきこと、という3つの要件を満たす場合に制限されるからであるとしてきた。

2.①の要件から、自衛隊の武力行使は、相手国から我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとされ、相手国よりも先に攻撃することはできないとされてきた(時的限界)。

 このため、敵基地攻撃能力(反撃能力)を行使するには、少なくとも相手国がミサイル発射に着手したことが必要である。

しかし、移動式発射台等のミサイル技術の発達した現在では着手の判断は極めて困難である。仮に判断を誤れば相手国より先に攻撃することになって時的限界を逸脱するのみならず、国際法上も違法な先制攻撃となってしまう。

 また、③の要件から、自衛隊の武力行使は、相手国の軍隊を我が国から排除する限度でのみ認められるとされ、原則として相手国の領域に対する武力行使は禁止されるとされてきた(地理的限界)。

 しかし、敵基地攻撃能力(反撃能力)は、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃するためのものであり、いわば相手国を攻撃する「矛」であるから、地理的限界を逸脱している。

3.さらに、今回の安保三文書では、安保法制に基づく集団的自衛権の行使の場合にも敵基地攻撃能力(反撃能力)を行使することを認めている。

 集団的自衛権は、他国に対する武力攻撃が発生した場合に行使されるものであり、我が国に対する武力攻撃の発生という①の要件に反して違憲であることは、当連合会も繰り返し指摘してきた。

 特に、「存立危機事態」における集団的自衛権の行使は、我が国に対する武力攻撃が発生していないにも関わらず、政府が「存立危機事態」が発生したと認定すれば、相手国に対する武力攻撃を行うものであるから、武力行使の範囲を時的にも地理的にも大幅に拡大する危険をはらむものである。

 このような集団的自衛権行使に敵基地攻撃能力(反撃能力)が組み合わされると、武力行使の範囲を時的にも地理的にもはるかに拡大することになり、時的限界及び地理的限界を大幅に逸脱するから、憲法9条に反することは一層明らかである。

4.これに加えて、相手国の領域に直接攻撃を加える敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は、かえって近隣諸国に脅威と不信を呼び起こし、際限のない軍拡競争を招くことになり、このような軍拡競争は、我が国と近隣諸国との緊張関係を高め、現実の戦争を招くことにもなりかねない。

5.以上のとおり、安保三文書の閣議決定は、憲法9条に反し、単に閣議決定により憲法違反の施策を進めることは立憲主義及び国民主権に反することから、当連合会は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に対して、強く反対するものである。


                    2023年(令和5年)7月7日

                         東北弁護士会連合会





                       提案理由


第1 はじめに

 東北弁護士会連合会(以下、「当連合会」という。)は、立憲主義及び日本国憲法(以下、「憲法」という。)の基本理念(国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義)を堅持する立場から、集団的自衛権の行使を容認した閣議決定に強く抗議し、その即時撤回を求める決議(2014年7月4日)、憲法違反である「平和安全法制整備法案」及び「国際平和支援法案」の国会提出に抗議し、その廃案を求める決議(2015年7月3日)、安全保障関連法案の採決強行に抗議する会長声明(2015年9月26日)を発してきた。

 当連合会は、このような立場から、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を進めようとしている政府の方針に対し、憲法の恒久平和主義の原理を損ね、日本の平和国家としてのありようを根本から変容させてしまう危険を指摘し、反対するものである。

第2 安保三文書の閣議決定と敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有

1 政府は、2022年12月16日、新たな「国家安全保障戦略」、従来の防衛計画の大綱(防衛大綱)に代わる「国家防衛戦略」及び従来の中期防衛力整備計画(中期防)に代わる「防衛力整備計画」(以下、「安保三文書」という。)を閣議決定し、その中で、「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」としての「反撃能力」を保有することを決定した。

 この閣議決定に至る経過は、概要、以下のとおりである。 

 すなわち、岸田文雄首相(以下、「岸田首相」という。)は、2021年12月6日の臨時国会における所信表明演説において、「いわゆる敵基地攻撃能力を含め、あらゆる選択肢を 排除せず現実的に検討」し、防衛力を抜本的に強化する、そのために概ね1年をかけて、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱及び中期防を策定すると述べ、その後も同様の方針を表明してきた。

 さらに、2022年1月7日の日米安全保障協議委員会(2+2)の共同発表及び同年5月23日の日米首脳共同声明においても、日本は米国に対し、「ミサイルの脅威に対抗するための能力」を含めあらゆる選択肢を検討する決意を表明し、併せて日本の防衛力を抜本的に強化する決意をも表明している。同時に、この共同発表及び共同声明でも、国際秩序と整合しない中国の行動に対する懸念や反対が表明され、台湾海峡の平和と安定の重要性が強調されている。

 また、自由民主党は、同年4月26日付けで取りまとめた「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を政府に提出したが、これは「敵基地攻撃能力」という用語に代えて「反撃能力」との呼称を用いつつその保有を求め、しかも反撃能力の対象範囲は相手国のミサイル基地に限定せず「指揮統制機能等」をも含むものとした。なおこの提言は、国家安全保障戦略等の2022年末の改定に向けて、中国を「重大な脅威」と位置付けた上、防衛費のGDP比2%以上の予算水準の5年以内の達成を目指すことを含め、「脅威対抗型の防衛戦略」に焦点を当てて防衛政策の在り方全体の見直しを求めるものとなっている。

 そして、同年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)でも、新たな国家安全保障戦略等の検討の加速、防衛力の5年以内の抜本的な強化が唱われ、特にスタンド・オフ防衛能力の強化等が挙げられた。

 これらと並行して政府は、新たな国家安全保障戦略等の策定に向け、同年1月から7月まで17回にわたり有識者を招いて意見交換を行い、さらに同年9月30日「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を設けた。この有識者会議は、「我が国を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るためには、 我が国が持てる力、すなわち経済力を含めた国力を総合し、あらゆる政策手段を組み合わせて対応していくことが重要である」との観点から、「自衛隊の装備及び活動を中心とする防衛力の抜本的な強化」をはじめとした「総合的な防衛体勢の強化」をどのように行っていくかを議論する場とされた。(※1) そして同年11月22日に提出された同有識者会議報告書は、「5年以内に防衛力を抜本的に強化しなければならない」とし、それをやり切るために必要な水準の予算上の措置をこの5年間で講じなければならない等としつつ、有事をも想定した政府としての様々な対応を提言するとともに、「インド太平洋におけるパワーバランスが大きく変化し、周辺国等が核ミサイル能力を急速に増強し、特に変速軌道や極超音速のミサイルを配備しているなか、我が国の反撃能力の保有 と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠である」とし、さらに「国産のスタンド・オフミサイルの改良等や外国製のミサイルの購入により、今後5年を念頭にできる限り早期に十分な数のミサイルを装備すべきである」とまで踏み込んだ。 (※2)

 これらを受けて、前記の安保三文書が策定されるに至ったものである。

2 敵基地攻撃能力、反撃能力という言葉について

 ところで、安保三文書では、従来慣用されてきた「敵基地攻撃能力」という言葉に代えて、「反撃能力」という言葉が使われている。

 しかし、いずれも相手国の領域を攻撃する能力である点に変わりないにもかかわらず、問題点を覆い隠すことにもなりかねないことから、今回の決議本文及び提案理由においては、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」という記載で一貫することとした。

第3 敵基地攻撃能力(反撃能力)と憲法9条

1 日本国憲法の平和主義

 日本国憲法は、その前文において、日本国民は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」、恒久の平和を念願し、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と規定した。これは、人類史上かつてない第二次世界大戦の惨禍を受け、とりわけ国の内外に310万人というおびただしい犠牲者を出し、人類史上初めての原爆をも経験した日本が、二度と戦争を起こすことなく、国際協調主義の下で恒久平和を実現する決意を示したものである。

 憲法9条は、これを受けて、第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」、戦争及び武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄するとし、さらに第2項で、「陸海空軍その他の戦力」を保持せず、交戦権を否認することを定めた。この憲法9条の、世界で初めて軍事力を排した徹底した恒久平和主義は、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有し、現実の社会や政治との深刻な緊張関係を強いられながらも、 平和主義の基本原理を確保するための現実的な機能を果たし、日本は戦後の80年近くにわたって一度も戦争の惨禍に見舞われることなく、平和な国家を築いてきたと評価し得る。

2 自衛隊の武力行使の限界と専守防衛

 憲法9条と朝鮮戦争等の現実との大きな緊張関係の中で、1954年7月に発足したのが自衛隊であった。

 政府は、自衛隊が憲法9条2項で禁止される「戦力」にあたらず合憲であるのは、自衛隊が自衛のための必要最小限度の実力であり、その実力行使も以下に述べる武力行使の三要件を満たす場合に制限されるからであるとしてきた。

 すなわち、従来の(2015年成立した安保法制で変更される前の)武力行使の三要件とは、①我が国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち武力攻撃が発生したこと②これを排除するために他の適当な手段がないこと③その武力攻撃を排除するための必要最小限度の武力行使にとどまるべきこと、という3つの要件である。

 ①の要件から、自衛隊の武力行使は、相手国から我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとされ、相手国よりも先に攻撃することはできないとされた(時的限界)。

 また、③の要件から、自衛隊の武力行使は、相手国の軍隊を我が国から排除する限度でのみ認められるとされ、相手国の領域に対する武力行使は禁止されるとされてきた(地理的限界)。

 このように、相手国の攻撃に対してあくまで受動的な防衛に徹すること、すなわち「盾」に徹する姿勢が、憲法9条に基づく従来の専守防衛政策であった。

3 武力行使の時的限界と敵基地攻撃能力(反撃能力)

(1) 先述のように、武力行使の三要件のうち、①の要件から、自衛隊の武力行使は、相手国から我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとされ、相手国よりも先に攻撃することはできないとされている(時的限界)。

(2) ここで「我が国に対する武力攻撃の発生」とはいかなる時点を指すかという問題があるが、武力攻撃のおそれがあるというだけでは、いまだ武力攻撃は発生していないが、武力攻撃の発生は必ずしも被害の発生を意味するわけではなく、相手国が武力攻撃に着手した時点が武力攻撃の発生時点であると解されてきた。(※3) 

(3) そうすると、敵基地攻撃能力(反撃能力)の行使により相手国の敵基地等の攻撃が許されるためには、少なくとも相手国が日本に向けてミサイル発射の着手をしたことが必要となる。

  しかし、現在のミサイルの発射は、地上固定基地の発射台から把握の難しい車載移動式発射台へ、更に水上艦艇・潜水艦・航空機等からの発射へと多様化し、それも発射準備に時間を要する液体燃料から発射まで時間を要しない固体燃料使用のミサイルへと変化し、その発射準備を把握することはほとんど不可能な状態になっている。

  したがって、ミサイル発射の着手を判断することは極めて困難であって、時によっては判断を誤る可能性が高く、仮に判断を誤った場合は、時的限界を逸脱して相手国より先に攻撃することになり、憲法9条に違反する。さらに、これは国際法上違法な先制攻撃にもあたる。

4 武力行使の地理的限界と敵基地攻撃能力(反撃能力)

(1) 先述のように、相手国の領域に対する武力行使は禁止されるところ(地理的限界)、敵基地攻撃能力(反撃能力)は、まさに相手国の領域である敵基地等に対する攻撃であり、地理的限界を逸脱しているから、憲法9条に基づく従来の専守防衛政策に反することは明らかである。

(2) この点、政府は、過去の答弁において、「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨ではあるまい」から、「たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに他に全然方法がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくということは法理的には自衛の範囲に含まれており、また可能である」と述べ、一定の条件において地理的限界の例外としての敵基地攻撃を認めていた。(※4) 

 しかし、「他に全然方法が無い場合」として上記答弁で具体的にあげていたのは、「国連の援助もなし、また日米安全保障条約もないというような、他に全く援助の手段がない」場合であった。

 現実には、国連も、日米安全保障条約(以下、「日米安保条約」という。)もあるため、「憲法上の解釈の設例としてのお話」と断った上での答弁だったのである。

 このため、上記答弁の結論部分においては「このような事態は今日においては現実の問題としては起こりがたいのでありまして、こういう仮定の事態を想定して、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない。」と述べ、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は憲法上認められないとしたのである。

(3) 現在においても、国連や日米安保条約が存在することに変わりないから、憲法上

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  当連合会は、再生可能エネルギーの導入が急激に促進された結果、地域の生活環境や自然環境・景観などの悪化への懸念から、全国各地で住民の反対運動が生じており、その実情は東北地方でも同様であることから、再生可能エネルギーの導入と地域の環境との調和が必要であり、そのためには住民参加の制度の拡充が必要かつ有効との認識に立ち、国及び地方公共団体に対し、以下のとおりの法制度の改正等を求める。


1 国は、オーフス条約に加入し、それに伴い、環境に関する意思決定への市民参加を権利として認め、その実効性を確保するための国内法制の整備をすべきである。

2 国は、オーフス条約に加入するまでに、以下の法制度の改正等をすべきである。

(1)環境影響評価法について

ⅰ)配慮書手続における意見聴取や説明会開催を義務とすること、また、第二種事業についても配慮書手続を義務とすること

ⅱ)風力発電について、環境影響評価の対象となる規模要件を、同法施行令改正前の、第一種事業については1万kW以上、第二種事業については0.75万kW以上1万kW未満とすること

ⅲ)環境影響評価図書の公表・縦覧について、謄写及びダウンロードができる形での実施を義務とすること

(2)地球温暖化対策の推進に関する法律について

 地域脱炭素化促進事業計画の認定事業であっても、環境影響評価配慮書手続を実施すべきとすること

(3)再生可能エネルギー電気の利用の促進にかかる特別措置法について

 住民説明会の開催等、住民への事業内容の周知措置を取ったことを固定価格買取制度(FIT制度)の認定要件とする改正法について、住民の意見が反映される手続として機能する運用をすること

(4)海洋再生エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律について

ⅰ)促進区域の指定案の縦覧期間を、環境影響評価法における図書の縦覧期間に準じて1か月に伸長すること

ⅱ)協議会を構成する「利害関係者」に、住民や環境問題に関心がある者も含まれることをガイドラインに明記し、それに沿った運用をすること

3 地方公共団体は、以下の法制度の対応をすべきである。

(1)環境影響評価条例に配慮書手続を導入すること

(2)抑制区域や保全区域などを設定することも含んだ再生可能エネルギー発電設備の設置等を規制する条例の制定を積極的に進めること


                    2023年(令和5年)7月7日

                            東北弁護士会連合会



                     提案理由

第1 はじめに

 1 再生可能エネルギー導入促進の経緯

 地球温暖化防止のため、二酸化炭素排出量を抑制していくことが国際的な共通目標とされる中で、2011年に東日本大震災が発生した。地震により発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は、広い地域に甚大な人権侵害を生じさせ、原子力の利用に対する限界を強く印象付けた。

 そのような時代背景の中、新たな電源として、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー(※1)に注目が集まるようになり、現在、国は、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)を制定し、固定価格買取制度(FIT制度)を導入するなど、再生可能エネルギーの導入(※2)を強く促進している。

 2 再生可能エネルギーに関する当連合会の立場

 当連合会も、2015年7月3日、福島県で開催した定期弁護士大会において、原子力及び化石燃料利用には問題があり、最終的には社会に必要なエネルギーは全て自然エネルギーから生み出すこと(「自然エネルギー100%」)による持続可能なエネルギー社会構築の必要性があるとして、その実現のために「自然エネルギー100%」を目標として、地域別(市町村別)・種類別(自然エネルギー別)に、期間及び数値目標を明確にした自然エネルギー導入計画を策定すること、地域主体の取組を推進する観点から、固定価格買取制度における効果的な買取価格の設定・優先接続の実質的保障、自然エネルギー利用に関する許認可手続の規制緩和、自然エネルギー事業に対する助成支援制度の構築などの取組を進めることなどを求める「『自然エネルギー100%』による持続可能なエネルギー社会実現に向けた施策を求める決議」を採択した。

 3 環境との調和の必要性

 こうした再生可能エネルギー導入促進の結果、日本では、太陽光発電所や風力発電所は大規模化し、それら事業の導入が進むにつれ、景観や健康問題、野生生物に関する問題や土砂災害の危険性など生活環境や自然環境・景観等の悪化、災害の懸念を理由に、発電所の設置計画に対する地域住民の反対運動が全国各地でみられるようになった。

 地球温暖化対策や持続可能なエネルギー政策のために、再生可能エネルギーの導入促進が必要なことは理解できるところである。

 しかしながら、一方で、良好な環境の中で生活を営む権利、いわゆる環境権が憲法上保障されるとする考え方はほぼ通説となっており、環境基本法も、「環境を健全で恵み豊かなものとして維持することは人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであり、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるよう、環境保全は適切に行われなければならない」としている(同法3条)。また、再生可能エネルギーの導入のために森林を含む自然環境を破壊したり土砂災害が発生したりするのでは、本末転倒である。

 4 以上のとおり、再生可能エネルギーの導入促進は必要と言えども、地域の生活環境や自然環境・景観などへの配慮も必要不可欠であり、両者の調和をどのように実現していくのかが課題となっている。

第2 再生可能エネルギーを巡る東北地方の現状

 1 再生可能エネルギーの導入状況(※3)

 日本における電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は、大規模水力発電を含めても2012年ころまでは10%程度で推移していたが、2021年度には約22%と倍増した。特に、太陽光発電の累積導入量は、2011年から2021年までの10年間で約12倍となっている。また、風力発電の累積導入量も、2021年までの10年間で1.9倍となった。

 2021年までの再生可能エネルギーの累積導入量の都道府県ランキングにおける東北地方の順位は、福島県が5位、宮城県が14位、青森県が22位、岩手県が24位、秋田県が28位、山形県が43位である。福島県と宮城県では太陽光発電が占める割合が高く(80%以上)、青森県と秋田県では風力発電が占める割合が全国的に見ても突出して高い(青森県40%以上、秋田県60%以上)。ちなみに、2022年9月における出力20kW以上の風力発電の導入量は、東北地方が日本全体の約4割を占める(※4)。

 なお、再生可能エネルギーを主力電源化するための切り札として近年導入が進められている洋上風力発電であるが、現在、促進区域として指定されている8か所のうち4か所が秋田県沖である(他は、長崎県沖が2か所、千葉県沖と新潟県沖が各1か所)。

 2 東北地方における地域住民の反対運動等

 (1)青森県では、県内の山林に120から150基の風力発電機を設置するという大規模な「(仮称)みちのく風力発電事業」を巡り、資材搬入ルートの開発などに伴って、大規模な森林伐採がなされれば、地元の水資源や農林水産業そのものに影響しかねないとの懸念から、住民から反対の声が上がり、当時の青森県知事が開発への懸念を表明し、青森市議会も中止要請の意見書を全会一致で可決するなどしている。

 (2)岩手県では、遠野市で大規模太陽光発電所の建設現場を発生源とする濁水が周辺河川に流れ込んでいるのが確認され、2019年以降、住民らが、濁水により河川の環境や生態系に影響が出ているとして、事業者に改善を求め、市も、事業者に行政指導を繰り返し行って改善を求めている(※5)。

 (3)宮城県と山形県にまたがる蔵王連峰に計画された風力発電事業について、約1,600haの区域にブレード(羽根)の上端が最大地上約180m、回転直径が最大約160mの風車を最大23基設置する計画だったが、予定地の一部が蔵王国定公園に指定されているほか、重要野鳥生息地や生物多様性重要地域が含まれていることなどから、予定地の川崎町の町長を始め、蔵王町長、山形市、宮城県知事、山形県知事などの地元自治体や首長らからの反対意見が続出した結果、2022年7月に設置計画は撤回された。

 また、石巻市でも、風力発電所設置計画が同年8月に撤回されている。

 (4)福島県では、昭和村等で計画された会津大沼風力発電事業について、予定区域のほぼ全域が「会津山地緑の回廊」に指定されていることや、イヌワシやクマタカなどの国内希少動物種に指定されている鳥類のバードストライクのおそれがあることから、地元首長らが反対の意見を表明し、日本自然保護協会が反対の意見書を提出するなどしていたが、2022年8月に撤回された。

 (5)山形県では、出羽三山の一つである羽黒山周辺で40基の風車を設置する風力発電事業計画が事業者から公表されたが、「修験道の聖地として知られる出羽三山の景観を損なう」といった住民や地元首長の反対意見などから、2020年9月に撤回された。

 (6)秋田県では、鳥海国定公園に隣接する由利本荘市で計画されていた風力発電事業が、鳥海山の景観や生態系への悪影響を懸念する住民の反対や地元自治体の厳しい意見などから、2018年に撤回されている。

 また、由利本荘沖で計画されている洋上風力発電は、約13,000haの対象区域に、ブレードの上端が海面250m、回転直径が230mの風車65基を設置するというものであるが、景観破壊や騒音・低周波音による健康被害を懸念する住民から反対の声が上がっている。

第3 環境問題の解決における市民参加の必要性と有効性

1 リオ宣言とオーフス条約

(1)再生可能エネルギーの導入と地域の環境との調和をどのように実現していくかを考える上で忘れてならないのは、1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」で採択され、日本も署名した「環境と開発に関するリオ宣言」である。

 なぜなら、リオ宣言において、環境問題の最も適切な解決のために、関係市民の参加が必要であること、そして、そのためには、①環境情報の入手の権利、②意思決定過程への参加の権利、③司法・行政手続への参加権を各国が確保すべきことが国際的に合意されたからである(※6)。

(2)リオ宣言の上記合意内容は、1998年にデンマークのオーフスで採択されたオーフス条約(「環境に関わる、情報の入手、意思決定への公衆参加及び司法の利用に関する条約」)に具体化された。同条約は、2001年10月30日に発効したが、日本は未だにオーフス条約に加入していない(同条約は、国連欧州経済委員会の枠組みで採択されたものであり、日本を含む国際連合加盟国は締約国会議の承認により加入することができる)(※7)。

2 環境問題の解決における市民参加-日本の状況

(1)日本においても、リオ宣言の採択の影響もあり、環境権の解釈において、従来の私権的・人格権的な側面だけではなく、公的な意思決定過程において住民又は市民の参加を認めようとする手続的・参加的な側面もあるとの見解が有力に提唱されている。また、リオ宣言に署名し、バリガイドライン策定に関与していることからすれば、日本は、環境問題の最も適切な解決のためには関係市民の参加が有効かつ必要であるとの国際合意を是認しているはずである。

(2)もとより、自然環境とともに暮らし生活の基盤としている住民は、開発によって自然環境が失われたり変動したりすれば、生活の基盤に影響を受ける利害関係人なのであり、開発行為に対する意見表明の機会が与えられるべきである。また、地域における自然的、地理的、文化的な事情を、地域住民や関心のある市民から学ぶべき点も少なくないはずである。地域の環境保全と開発行為を含む経済活動を調整し、軋轢を回避するためにも、住民等を交えた議論が必要かつ重要なはずである(※8)。

(3)しかしながら、日本においては、環境に関わる意思決定への市民参加を権利として明文で認めた法律はなく、環境影響評価法に基づく市民の意見提出制度や再生可能エネルギー導入に関連した法律における住民参加の制度は極めて不十分と言わざるを得ない。

 この状況が、住民による開発行為への反対運動に繋がっていることが、少なからず存在するのであり、また、それは、昨今東北地方を始めとする日本全国で導入が進んでいる再生可能エネルギーの導入においても、何ら変わるところはない。

(4)したがって、再生可能エネルギーの導入と地域の環境との調和を図るためには、日本がオーフス条約に加入し、それに伴い、環境に関する意思決定への市民参加を権利として認め、その実効性を確保するための国内法制の整備、例えば、環境影響評価法に、すべての実施主体は、環境アセスメント手続の実施に際し、市民参加、説明責任及び情報公開の徹底を図るべきことを手続上の原則として明示するなどの規定整備を行うべきである(※9)。

(5)もっとも、オーフス条約への加入前であっても、目下急速に導入が進んでいる再生可能エネルギーに関し、住民参加のための制度を拡充させていくことが必要かつ重要である。以下では、再生可能エネルギーの導入に関連した法律及び条例に、どのような住民参加制度があるのか、その問題点は何かなどを検討し、あるべき制度について提案したい。

第4 再生可能エネルギー導入に関連した法制度における住民参加

 1 環境影響評価法

(1)環境影響評価法は、一定の事業の実施にあたりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要との前提に立って、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続を定め、関係機関や国民等の意見を求めつつ、環境影響評価の結果を当該事業の許認可等の意思決定に適切に反映させることを目的としているとされ、国民や地方公共団体等からの意見提出や事業者による関係地域内での説明会の制度が規定されている。

(2)しかしながら、環境影響評価の対象となるのは、一定規模以上の事業に限られる。しかも、対象事業であっても、計画立案段階において実施される配慮書手続においては、国民等からの意見聴取は努力義務に過ぎず、説明会も不要である。また、一定規模以下の事業(第二種事業)については、配慮書手続自体が不要(任意)とされている。

 加えて、風力発電に関しては、政府が、2021年に、対象となる規模要件をそれまでの0.75万kWから3.75万kWに引き上げたため(※10)、3.75万kW未満の規模の風力発電については、それを対象とする条例がない限り、環境影響評価手続が不要となった。

(3)開発事業や開発計画について、市民の意見が反映されるためには、選択肢が存在する初期段階での参加が有効である。したがって、配慮書手続において意見聴取や説明会が義務とされていないのは「市民参加」の制度として不十分と言わざるを得ない。また、規模は第一種事業に準じるものの、第二種事業も、「環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある」と認められるのであるから、配慮書手続を任意とするのは「市民参加」の点からして不十分な制度と言わざるを得ない11。

 加えて、風力発電の上記規模要件の緩和は、「脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギーの最大限の導入」が求められている等を理由になされたものであるが

・・・ 続きを読む

1 現在、法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「本部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進められている。

 本部会では、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(電子データ化された書類の授受を含む。以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)39条1項の接見として位置付けることが検討されている。


2 憲法34条前段は、何人も弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受けて刑訴法39条1項は、弁護人あるいは弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができる接見交通権を定めている。被疑者・被告人にとって、身体拘束の当初から、弁護人等の援助を受けることは憲法上保障された極めて重要な権利である。

 特に、逮捕直後の初回の接見は、身体拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。今日においても、弁護人等との接見前に、逮捕された被疑者に対して取調べが実施され、自白や被疑者に不利な供述を強要されるなどの実態があることを考慮すれば、逮捕直後に弁護人等が迅速な接見を実現する必要性は極めて高い。

 また、裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件において、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することで起訴後の接見が十分に受けられない、あるいは、公判手続等の遅延を招くといった事態も生じているところであり、こうした場合においても、弁護人による継続的な接見を実現することが不可欠となっている。

 

3 弁護人等による機動的な接見を実現するのに障害の一つとなるのが刑事施設・留置施設までの距離と移動時間である。

 特に、当連合会管内においては、遠隔地に刑事施設・留置施設がある場所も多く、そのような施設に留置されている被疑者・被告人との接見に多大な負担と時間を要することも少なくない。それに加え、冬期になれば積雪や吹雪等によって移動自体が困難となり、接見交通に重大な支障を生じる地域もある。

 地理的条件を問題としないオンライン接見は、こうした障害をクリアし、弁護人等による機動的な接見を実現する制度として極めて重要な意義を有するものである。現代のIT化社会では、弁護人等が被疑者・被告人とビデオ会議システムを用いて対面したり、電子データ化された書類の授受を行うことも現実的な手段である。

 ゆえに、対面による速やかな接見が重要であることは言うまでもないが、被疑者・被告人の弁護人等の援助を受けるという憲法上の重要な権利の保障を充実させるため、オンライン接見は、権利性を有する法律上の制度として、法制審議会を経て制定され、国家予算を投じて運営されなければならない。

 

4 本部会においては、捜査機関側から、オンライン接見について、実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題が指摘されている。

 しかし、新たな設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。捜査機関の利便性のみではなく、被疑者・被告人の人権保障を最大限に拡充する観点で、人的物的対応体制・予算措置の拡充の議論が尽くされなければならない。

 また、これまでアクセスポイント方式を採用した現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、例えば第三者が弁護人になりすましたり、罪証隠滅を図ったという事例は報告されておらず、捜査機関側の指摘する危険は抽象的なものに過ぎない。現代のITの進歩は目覚ましく、こうした弊害を除去するための現実的な措置は、アクセスポイント方式を例として十分に存在しているといえる。


5 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。

 よって、当連合会は、法制審議会にて更に具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が実現されることを強く求める。



2023年(令和5年)7月6日   

東北弁護士会連合会       

会 長  虻 川 高 範  


 本年6月3日から5日にかけて、大阪弁護士会所属の弁護士の事務所のホームページに、「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎」「メッタ刺しにして殺害する」などと書いた殺害予告のメッセージが匿名の者から断続的に送られてくるという事件が発生した。

 同弁護士は、LGBTなど性的マイノリティの問題に取り組み、自身もトランスジェンダーと公表しているところ、上記メッセージは、同弁護士の属性に対する差別意識や憎悪感情を示し、さらにその活動を妨害するものである。

 当連合会及び東北各弁護士会では、これまでも、性的マイノリティへの理解と支援を求める活動を行い、2021年12月には、当連合会において、性的指向、性自認にかかわらず、すべての人が尊重される社会を目指し、同性婚を認めることなどを求める決議をあげてきた。

 同弁護士へのメッセージは、弁護士の業務を妨害する行為として見過ごすことができないのは勿論のこと、社会における全てのトランスジェンダー当事者の人々の存在そのものを否定するヘイトクライム(憎悪犯罪)にほかならず、当連合会として、断じて許すことはできない。そして、このような性的マイノリティへの差別意識と憎悪感情に基づく言動が広がれば、さまざまな属性を持つ人々に対する敵視、偏見並びに憎悪が増長され、社会の分断を招き、何人も個人の尊厳が尊重される社会を実現するという憲法の理念を阻むもので決して見過ごすことはできない。

 当連合会は、このような妨害と差別的言動が繰り返されないことを求め、トランスジェンダー当事者を含む全ての性的マイノリティの人々が個人の尊厳を持って差別されず生きることができる社会を実現すべく、活動を尽くすことを決意し、ここに表明するものである。


                 2023年(令和5年)6月10日

                    東北弁護士会連合会   

                     会 長  虻 川 高 範 


 仙台高等裁判所第1民事部(石栗正子裁判長、鈴木綱平裁判官、竹下慶裁判官)は、2023年6月1日、旧優生保護法に基づく優生手術を強制された被害者に対し、除斥期間を適用して被害者の請求を棄却した原審判決を維持し、控訴を棄却する判決を言い渡した。

 本件は、2018年1月30日、旧優生保護法に関する被害に関し、全国で初めて国家賠償法に基づく損害賠償を求める訴訟を仙台地方裁判所に提起した事件で、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)が2019年4月24日に成立する契機となった事件であり、その後に続く同種訴訟の先鞭となったものである。しかも、当事者の一人は、長年にわたり被害回復を求め、日弁連に人権救済申立を行うなどして、本件を世に問うた最初の勇気ある被害者であった。

 ところが、本件訴訟の一審判決は、一時金支給法が成立した翌月の同年5月28日に、旧優生保護法は憲法違反であることを認めたものの、除斥期間を理由に原告の請求を棄却した。

 しかし、その後、2022年2月22日には大阪高等裁判所が、同年3月11日には東京高等裁判所が、いずれも国に損害賠償を命ずる判決を下し、また、各地方裁判所においても、2023年1月23日には熊本地方裁判所が、同年2月24日には静岡地方裁判所が、同年3月6日には仙台地方裁判所が、同月16日には札幌高等裁判所が、同月23日には大阪高等裁判所が、それぞれ国に損害賠償を命じる判決を下している。

 これらの判決の積み重ねによって、優生手術により尊厳を奪われた被害者に対し、除斥期間を適用することは著しく正義・公平の理念に反するという司法の判断は大方固まったというべきである。また、これらの判決が、一時金支給法で定められた一時金の額を大幅に上回る賠償額を認めていることからすれば、同法による補償が不十分であることも明らかである。

 それにもかかわらず、本判決が、甚大かつ過酷な被害実態を認定しながら、除斥期間の適用について各地の高等裁判所・地方裁判所が示した一連の判断の流れと逆行する結論を導いたことは、国が被害者の人権と尊厳を蹂躙し、かつ優生思想に基づく差別や偏見を放置して被害者の権利行使を抑制し続けてきた事実から目を背けたものというほかない。しかも、前記の通り、日弁連への人権救済申立などを行い、被害実態を訴え続け、それによって多くの被害者の救済の道を開いた当事者について、その救済申立などの行動を理由にして除斥期間の適用を容認した判断は、勇気ある行動を起こした者が逆に救済の道を閉ざされるという不合理な事態を生じさせ、被害者を救済される者と救済されない者とにいわば分断するものであり、到底容認できない。

 被害者の多くは高齢であり、すでに亡くなられた方も多い現実を前にして、一刻も早い救済が求められている。旧優生保護法による被害が重大な人権侵害であることはもはや自明の事実である以上、国の損害賠償責任を否定した本判決にかかわらず、すべての被害者に対し、一刻も早い全面的解決が図られるべきである。

 よって、当連合会は、国に対し、改めて被害者に対する謝罪を求めるとともに、一時金支給法の抜本的な見直しなどにより、全ての被害者に対して迅速かつ十分な被害回復の措置を行き渡らせることを強く求めるものである。


                 2023年(令和5年)6月10日

                    東北弁護士会連合会   

                     会 長  虻 川 高 範 


 政府は、本年3月7日、現在開催中である通常国会に、2021年(令和3年)の通常国会において事実上廃案となった入管法改定案(以下「旧法案」という)の骨格を維持したままの改定案(以下「法案」という。)を提出した。
 日本の現在の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)では、地方出入国在留管理官署(以下「入管」という。)に広範な裁量を認め、全件収容主義を採用し、収容にあたっては収容期間の上限が定められておらず、かつ司法審査が導入されていない。また日本は、諸外国と比して難民認定率が極端に低い。こうしたことから、上記入管法は、外国人の人権を不当に制約するものであるとして、国連人権理事会から自由権規約等の国際法規範に適合するよう入管法の改正をするよう求められるなど、かねてより国際社会から繰り返し批判を浴びていた。
 にもかかわらず、法案は、これらの問題点を是正するどころか、それに逆行するものである。まず、法案には、3回目以上の難民認定申請者については強制送還を可能とする、送還停止効の例外の定めがある。しかし、諸外国に比べて難民認定率が極端に低い日本では、なかなか難民認定されないため、やむを得ず難民認定申請を複数回行い、ようやく認定されたという例も相当数ある。このような状況において、3回目以上の申請であることを理由として送還停止効の例外を認めることは、難民条約上保護が認められるべきにもかかわらず適切に保護されていない者を強制送還して迫害に直面させるという事態を招きかねず、誰一人として迫害を受けるおそれのある領域に送還してはならないという「ノン・ルフールマンの原則」(難民の地位に関する条約第33条1項)に抵触する可能性が極めて高い。
 また、法案には、退去命令に従わない者に対して刑事罰を科す定めがある。しかし、退去命令に従えない者の中には、日本で生まれ育ったり日本に居住する家族がいたりすることなどから在留特別許可を求める者や、上記のようになかなか難民認定されないためにやむを得ず難民認定申請を複数回行っている者など、様々な事情を抱えている者がいる。刑事罰の設定は、このような本来保護されるべき者が不当に刑罰の対象となってしまう危険性を孕む。そればかりか、上記のような様々な事情のある人々を人道上の観点から支援する者や弁護士、行政書士等の専門家が共犯とされ、刑罰の対象とされる可能性も否定できず、ひいては、これらの者による人道的な行為や権利擁護活動までをも著しく萎縮させるおそれがある。
 更に、法案では収容体制に関し、収容と監理措置制度との選択制にして3ヶ月ごとに収容の必要性を見直す規定を創設するなどの修正を一部しているものの、収容か監理措置かの決定権を持つのは入管の主任審査官のみであって、収容に関する司法審査の導入はなく、また期間の上限は相変わらず設定されておらず、現行の収容制度を抜本的に改善し得るものとは到底言えない。
 旧法案に対しては、国連人権理事会の特別報告者らが自由権規約をはじめとする国際法に違反しているとの声明を発表したほか、国内においても、国際法研究者や法律家、関係各市民団体等が反対の声を次々とあげ、反対の世論が高まった。その結果として、旧法案は2021年(令和3年)の通常国会において事実上廃案となったものである。
 その後、国内外から、政府に対し、入管収容に当たっての司法審査や収容期間の上限設定の導入や、適正な難民認定等、難民認定・入管体制の抜本的改革を求める声があげられているが、政府はそうした改革を何ら行っていない。2022年(令和4年)11月3日には、国連人権委員会から、日本に対する第7回政府報告書審査の総括所見において、日本の被収容者の手続的権利及び健康について懸念が示され、被収容者の処遇改善が求められるなど、国内外から継続的に強い非難を浴びているところである。
 そうした状況の中で、今回、政府が上記の重要な問題点につき何ら是正されていない旧法案の骨格を維持したままの法案を提出したことは到底是認できるものではない。
 当連合会は、旧法案の骨格を維持したままの法案の提出に強く抗議し、改めて法案に反対すると共に、政府に対して、早急に国際的な人権擁護基準に則った難民認定制度、入管体制を新たに構築することを強く求めるものである。

 

                   2023年(令和5年)3月18日   

                    東北弁護士会連合会       

                     会 長  遠 藤 凉 一  


  岸田内閣は、国会閉会後の2022年12月16日、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画(安保関連3文書)を閣議決定した。この安保関連3文書は、相手国の領域を攻撃する能力(敵基地攻撃能力、反撃能力)を保有し活用していく方針を明記するものである。


 しかし、憲法9条の下での個別的自衛権行使に関する従前の政府見解に立ったとしても、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有・行使は、以下に指摘するとおり、憲法9条に反する。

 憲法9条は、1項で「日本国民は、・・・国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、・・・永久にこれを放棄する。」とし、2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」としている。

 政府は、憲法9条の規定を踏まえ、1972年の政府見解において、「平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、それは、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るために止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。」として、自衛権の行使が憲法上許される場合を限定した(自衛権発動の三要件)。自衛隊の自衛行動も基本的に日本の領域及び必要な範囲の公海・公空に限られるとされてきた(専守防衛政策)。

 その上で、政府は、自衛力は他国に脅威を与えるものであってはならず、個々の兵器に関しても、他国の領域に対して直接脅威を与えるような攻撃的兵器(ICBM、中距離・長距離弾道弾、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母等)の保有は、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため許されないとして、保持しうる実力の程度を限定する憲法解釈を確立してきた。

 憲法9条の解釈については諸説あるものの、この従来の政府の憲法解釈においても、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有・行使は、他国の領域における武力の行使は基本的に許されないという原則に反し、また、相手国の領域に直接的な脅威を与える攻撃型兵器の保有として「戦力」の保持に該当することも明らかであって、憲法9条に違反する。

 さらに、安保法制が施行されている現状においては、我が国が敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有した場合、我が国が他国から武力攻撃を受けていないにもかかわらず、政府が「存立危機事態」と判断すれば、他国のために集団的自衛権が行使され、他国を攻撃することになり、戦争に突入してしまう危険性が増大することも明らかである。

 また、相手国の領域内にある基地ないし指揮統制機能などを直接攻撃可能な能力を保持した場合は、相手国の軍事増強を招き、際限なき軍拡競争に繋がる危険性がある。さらに、個別的自衛権の行使であれ、集団的自衛権の行使であれ、相手国の領域内にある基地ないし指揮統制機能などを直接攻撃した場合は、当然に相手国の反撃を招いて武力の応酬(戦争)に直結するものであり、多大な国民の犠牲と広範な国土の荒廃という結果を招きかねない。そのような危険性を内在する敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は、日本国憲法前文及び9条で掲げる恒久平和主義の原理と相容れないことは明らかである。

 そのような結末を避け、我が国の存立を維持するためには、近隣諸国との武力紛争を防止して、平和的な外交関係を構築する以外に方法はないのであり、政府は、憲法前文及び9条の恒久平和主義の趣旨に鑑み、武力に依拠するのではなく、関係諸国との間で関係改善に主体的な役割を果たし、国際平和維持のために最大限の外交努力を尽くすべきである。

 

 2023年1月14日の日米首脳会談では、岸田首相が、国会での議論も始まらないのに、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有など新たな安全保障戦略を説明し、バイデン米大統領が日本の防衛力強化を歓迎したと報じられている。

 しかし、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有及び行使は、上記のとおり憲法9条に違反するうえ、これまでの我が国の安全保障政策を根本から大きく転換するものである。政府は憲法9条に違反しないとするが、このような重要な政策転換をするのであれば、国民主権原理に基づき、少なくとも国会承認を得るなどの民主的手続を経るべきである。相手国領域内の軍事施設を攻撃することが憲法9条1項に違反しないのか、相手国領域内の軍事施設を攻撃するための兵器の保持が「戦力不保持」を定める憲法9条2項に違反しないのかなど、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有・行使と憲法9条との関係について、主権者たる国民を代表し、国権の最高機関である(憲法41条)国会での議論すら経ないままに、単なる一内閣の閣議決定によって敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有・行使を容認し、対外的な約束までして強行しようとしていることは、立憲主義・法の支配及び民主主義を著しく破壊する行為と言わざるを得ず、到底許されないものである。


 よって、当連合会は、立憲主義、法の支配及び民主主義を堅持する立場から、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を、国会での議論すら経ずに、閣議決定のみで強行しようという政府の行為に対し強く抗議するとともに、我が国が日本国憲法に反する敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有すること及びその行使のための準備を進めることに強く反対する。


                 2023年(令和5年)3月18日

                    東北弁護士会連合会

                     会 長  遠 藤 凉 一

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2012-07-06決議・声明|東北弁護士会連合会
原子力発電と核燃料サイクルの廃止を求める決議
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2011-07-08決議・声明|東北弁護士会連合会
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2011-07-08決議・声明|東北弁護士会連合会
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2011-05-21決議・声明|東北弁護士会連合会
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2009-07-03決議・声明|東北弁護士会連合会
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