当連合会は、裁判所支部管内の司法基盤の整備・拡充を重要課題と位置づけ、これまで、2005年(平成17年)「裁判を受ける権利の保障を実質化するためにすべての裁判所及び検察庁に裁判官及び検察官を常駐させることを求める決議」、2012年(平成24年)「すべての裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」、2015年(平成27年)「裁判所支部管内における司法機能の整備・拡充を求める決議」、2016年(平成28年)「地域司法の基盤整備に関する協議結果を受けて、改めて裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」を採択し、地方・家庭裁判所支部、地方検察庁支部への裁判官・検事の常駐や、地方裁判所支部における労働審判の実施など、裁判所支部管内の司法の機能充実を求めてきた。
しかし、仙台高等裁判所管内において、裁判官の常駐していない地方・家庭裁判所支部が8カ所存在する状況に変わりはなく、地方裁判所は、合議事件、不動産競売事件、債権執行事件等を本庁に集約化する意向を持ち続けているうえ、仙台高等裁判所管内において地方裁判所支部での労働審判はいまだ実施されていない。
そればかりか、近年、家事事件数が増加しているものの、家事事件において重要な役割を果たす家庭裁判所調査官が家庭裁判所支部や家庭裁判所出張所に常駐していないことが多く、填補や調査のための移動に時間を取られているため、家庭裁判所調査官が関与するまでの時間や調査そのものに時間がかかる状況が生じている。また、面会交流を求める調停事件等も増加しているが、家庭裁判所支部や家庭裁判所出張所には、面会交流を試行できるような児童室等の設備が十分ではなく、調査の長期化や設備が整っている本庁への移動といった不利益や負担も生じている。さらに、管内の家庭裁判所出張所は開廷日は月1回から2回程度と極めて限られているうえ、独立簡易裁判所があるものの家庭裁判所出張所が設置されていない地域においては、当該地域に簡易裁判所という裁判所施設があるにもかかわらず、家事事件に際して管轄のある家庭裁判所まで出向いて家事事件の手続きを行わなくてはならず、利用する者にとって遠距離の移動や移動時間がかかるという負担が生じている。
このように、仙台高等裁判所管内において、裁判所支部管内の司法基盤の整備や拡充は進んでおらず、司法の機能充実は実現していない。
また、仙台高等検察庁管内において、近時、秋田地方検察庁横手支部、仙台地方検察庁気仙沼支部に検事が常駐するなど一定の前進はあるものの、他方で検事が常駐しなくなった支部もあり、検事が常駐していない地方検察庁の支部が多数存在する状況は今も続いているし、支部管内の事件であっても事案によっては本庁の検事が担当し本庁に起訴したり、地方検察庁の支部庁舎や区検察庁の庁舎が使用されなくなるなど、検察庁の支部機能の縮小化傾向は顕著である。そのため、裁判所支部管内に居住する住民は、本庁管内に居住する住民に比べ、司法サービスを受ける機会が制約されており、その格差はますます広がっている。裁判所支部管内に居住する住民の裁判を受ける権利が十分に保障されているとは言い難い現状がある。
本庁管内に居住する住民だけでなく、裁判所支部管内に居住する住民にとっても、使いやすい、利用しやすい司法を目指すべきであって、上記のような現状は、即刻改める必要がある。
このような現状を踏まえ、当連合会は、裁判所支部管内に居住する住民の裁判を受ける権利を実質的に保障するため、これまで採択してきた決議に加え、国に対し、裁判所支部管内における司法の機能充実を求めて、以下の事項を強く要求する。
1 すべての地方・家庭裁判所支部に裁判官を常駐させること。
2 すべての地方検察庁支部に検事を常駐させること。
3 すべての家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所に家庭裁判所調査官を常駐させること。
4 すべての家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所に面会交流試行のための児童室等の設備を設置すること。
5 家庭裁判所出張所の開廷日を増やすこと。
6 家庭裁判所出張所が併設されていない独立簡易裁判所に家庭裁判所出張所を設置すること。
7 裁判所支部管内の事件の本庁への集約化傾向を改め、合議事件、労働審判、不動産競売、債権執行事件、少年審判等を含め、支部管内の事件は当該支部において扱えるよう、裁判所等の人的・物的基盤を整備・拡充すること。
8 裁判所支部管内における司法基盤の整備・拡充のための財源を確保するため、司法予算を増額すること。
以上のとおり決議する。
2019年(令和元年)7月5日
東北弁護士会連合会
提案理由
第1 裁判所支部管内の現状について
1 裁判を受ける権利(憲法第32条)は、市民が司法を通じてその権利を実現するための重要な権利である。その権利の保障は、裁判所支部管内に居住する住民と本庁管内に居住する住民とで何らの差異はない。
ところで、現代社会においては、少子高齢化、家族観の多様化、都市部への人口の集中とそれに伴う過疎化、情報通信技術のめざましい発展といった構造的な変化が生じている。
そのような状況の下でも、司法は、具体的事件・争訟を契機に、法の正しい解釈・適用を通じて、当該事件・争訟の適正な解決、違法行為の是正や被害を受けた者の権利救済を行い、あるいは公正な手続の下で適正かつ迅速に刑罰権を実現して、法規の違反に対して的確に対処する役割を担い、これを通じて法の維持・形成を図ることが、その役割として期待されている。
このような司法の役割を確実に果たしていくためには、司法機能の充実を計ることが重要である。
2001年(平成13年)の司法制度改革審議会の意見書においても、21世紀の司法制度の姿として、国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とすることが掲げられている。具体的には、国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができること、家庭裁判所・簡易裁判所についてその機能の充実を図ること、民事執行制度改善のための新たな方策などが提言されている。
この司法機能の充実の要請は、裁判を受ける権利の保障と同様に、裁判所支部管内に居住する住民と本庁管内に居住する住民とで何ら異なるものではなく、裁判所支部管内に居住する住民と本庁管内に居住する住民とで、その受ける司法サービスに格差があってはならない。
2 現在、仙台高等裁判所管内には、以下の29カ所の地方・家庭裁判所支部がある。
仙台地方・家庭裁判所
大河原支部、古川支部、登米支部、石巻支部、気仙沼支部
福島地方・家庭裁判所
郡山支部、白河支部、会津若松支部、いわき支部、相馬支部
山形地方・家庭裁判所
新庄支部、米沢支部、鶴岡支部、酒田支部
盛岡地方家庭裁判所
花巻支部、二戸支部、遠野支部、宮古支部、一関支部、水沢支部
秋田地方・家庭裁判所
能代支部、本荘支部、大館支部、横手支部、大曲支部
青森地方・家庭裁判所
五所川原支部、弘前支部、八戸支部、十和田支部
残念ながら、上記裁判所支部管内に居住する住民と本庁管内に居住する住民とで、その受ける司法サービスに格差が生じているのが、現状である。
そこで、以下のとおり、地域司法の人的・物的基盤の整備を行い、裁判所支部管内における司法機能の充実を求める。
第2 裁判官・検事の支部への常駐化について
1 裁判官の支部への常駐化について
上記29支部のうち、裁判官が常駐していない支部は、登米支部、新庄支部、水沢支部、二戸支部、宮古支部、本荘支部、五所川原支部、十和田支部の8カ所である。
裁判官非常駐支部では、ただでさえ数少ない填補日に、様々な事件が処理されることになる。そのため、時間どおりに裁判が始まらなかったり、家事調停が成立しそうになったとしても裁判官が調停室に来ることができず長い時間待たされることもある。填補日に処理できる事件数にも限りがあるため、期日が入りにくい状況もある。また、裁判官が常駐していないため、民事保全、DV防止法の保護命令、刑事事件の保釈請求といった迅速さが要求される事件についても、期日や決定までに時間がかかる。
このような不利益を解消するため、すべての地方・家庭裁判所支部に裁判官を常駐させるべきである。
2 検事の支部への常駐化について
地方検察庁の支部において、検事が常駐していることが確認できるのは、以下の支部である。
古川支部、気仙沼支部、郡山支部、会津若松支部、いわき支部、米沢支部、酒田支部、一関支部、横手支部、弘前支部、八戸支部
このうち、横手支部は2018年(平成30年)4月から、気仙沼支部は2019年(平成31年)4月から検事が常駐している。
その他の地方検察庁支部では、副検事が常駐している支部においては、副検事が検察官事務取扱副検事として事件処理を担うものの、地方検察庁支部管内で複雑な事件があると、本庁の検事が担当し、本庁に起訴をすることもある。また、副検事も常駐していない支部(近時、副検事だけでなく検察事務官すら配置されていない地方検察庁支部も存在する。)においては、近隣の他支部において事件処理をしている。
検事が常駐していない地方検察庁支部では、地方検察庁支部管内にその地方検察庁支部の建物がありながら、本庁や近隣の地方検察庁支部まで取調べのために呼ばれたり、弁護人も本庁や近隣の地方検察庁支部まで刑事事件記録の閲覧謄写に行くなどの負担が生じている。
そこで、当該地方検察庁支部において事件処理をできるようにするため、すべての地方検察庁支部に検事を常駐させるべきである。
第3 家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所の人的・物的基盤の整備について
1 はじめに
家庭裁判所では、近時、家事事件手続に電話会議だけでなくテレビ会議を利用できるようにして当事者の利便性を高めたり、仙台家庭裁判所石巻支部に本庁から家事事件専任の裁判官を填補させるなど司法機能の充実に向けた人的・物的基盤の整備を進めている。
しかし、以下で述べる点については、いまだ不十分であり、さらなる人的・物的基盤の整備を進めるべきである。
2 家庭裁判所調査官の家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所への常駐化について
家庭裁判所支部に配置されている家庭裁判所調査官の数は、以下のとおりである。以下の家庭裁判所支部管内にある家庭裁判所出張所には、家庭裁判所調査官は常駐していない。
括弧内は、その家庭裁判所支部の2016年(平成28年)家事新受事件数である(家庭裁判所支部の家事新受事件数は管内の家庭裁判所出張所の家事新受事件数を含まない。)。
仙台家庭裁判所
大河原支部 0名 (1295件)
古川支部 4名 (1928件)
登米支部 0名 ( 542件)
石巻支部 3名 (1728件)
気仙沼支部 0名 ( 583件)
福島家庭裁判所
郡山支部 6名 (3615件)
白河支部 2名 ( 873件)
棚倉出張所 ( 381件)
会津若松支部3名 (2071件)
田島出張所 ( 160件)
いわき支部 5名 (2769件)
相馬支部 1名 ( 957件)
山形家庭裁判所
新庄支部 0名 ( 574件)
米沢支部 2名 (1442件)
赤湯出張所 ( 417件)
長井出張所 ( 511件)
鶴岡支部 2名 (1223件)
酒田支部 2名 (1026件)
盛岡家庭裁判所
花巻支部 2名 (1761件)
二戸支部 0名 ( 397件)
久慈出張所 ( 333件)
遠野支部 0名 ( 681件)
宮古支部 1名 ( 634件)
一関支部 2名 ( 998件)
大船渡出張所 ( 522件)
水沢支部 0名 ( 902件)
秋田家庭裁判所
能代支部 0名 ( 648件)
本荘支部 0名 ( 664件)
大館支部 1名 ( 853件)
鹿角出張所 ( 245件)
横手支部 1名 (1073件)
大曲支部 1名 ( 521件)
角館出張所 ( 225件)
青森家庭裁判所
五所川原支部0名 (1172件)
弘前支部 3名 (2572件)
八戸支部 5名 (2422件)
十和田支部 0名 (1407件)
このような家庭裁判所調査官の配置状況から、家庭裁判所調査官が多くの事件を担当していることが見て取れる。
また、家庭裁判所調査官が家庭裁判所支部に常駐していないため他から填補で来る、家庭裁判所支部に常駐していても公共交通機関を利用して移動するため時間をとられていたり、家庭裁判所の他支部や家庭裁判所出張所に填補に行っている現状がある。
そのため、家庭裁判所調査官に手続に関与してもらいにくい、関与してもらい調査になったとしても時間がかかる、期日が調整しづらい、といった不利益が生じている。家庭裁判所調査官が公共交通機関を利用するため、電車やバスの時刻に合わせて調停の途中であっても帰ってしまうこともある。家庭裁判所支部によっては、成年後見業務に対応するだけの家庭裁判所調査官の人員が足りていないとの声も聞かれる。
家事事件の増加傾向、成年後見事件の利用促進に伴い、ますます家庭裁判所調査官が担う役割の重要性は高まっている。
にもかかわらず、仙台高等裁判所管内では、家庭裁判所調査官が常駐していない家庭裁判所支部も多く、常駐している家庭裁判所支部についても人員は十分ではないし、家庭裁判所出張所に関しては全く常駐していない。特に、盛岡家庭裁判所管内は、面積が広く移動に時間がかかり、事件数もそれなりに多いにもかかわらず、家庭裁判所調査官が常駐していない家庭裁判所支部が複数あり、管轄する面積や事件数に対し家庭裁判所調査官の配置は十分とは言えない。
そこで、地域司法の人的基盤の整備拡充として、すべての家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所に家庭裁判所調査官を常駐させるべきである。
3 すべての家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所に児童室等の設備を設けること
近時、市民の権利意識の高まりなどから、面会交流申立事件が増加している。
面会交流申立事件では、当事者間の感情的な対立が激しいことも多く、そのような場合には家庭裁判所調査官の関与や調査を経ながら、解決を図っていくことになる。
その際、当事者の不安を解消し結論への納得を得るため、面会交流の試行をすることもある。家庭裁判所本庁では、児童室等の設備が整えられ、面会交流の試行に大いに役立っている。
ところが、家庭裁判所支部や家庭裁判所出張所においては、面会交流を試行するための設備がない、あるいはあっても部屋の片隅にプレイマットやぬいぐるみ等が置いてある程度でその設備が貧弱な現状がある。
そのため、家庭裁判所支部や家庭裁判所出張所において、面会交流を試行しようとしても実施できない、実施するため本庁まで出向くことになったり、支部において試行してみたもののその実効性に乏しいことがある。
面会交流申立事件は、事件数が増加する傾向にあり、申立てが減少する兆しは見られない。
そこで、すべての家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所に、面会交流の試行をするための児童室等の設備を設置するべきである。
第4 家庭裁判所出張所の物的基盤の整備について
1 家庭裁判所出張所の開廷日の拡充
仙台高等裁判所管内の各都道府県の面積は広く、家庭裁判所本庁や同支部の管内であっても、当該家庭裁判所本庁や同支部まで距離があり移動に時間がかかる地域には、別途家庭裁判所出張所が設けられている。
仙台高等裁判所管内には、現在10カ所の家庭裁判所出張所があり、当該地域の独立簡易裁判所がある場所に設置されている。第3で述べたとおり、10カ所のうち8カ所が家庭裁判所支部管内に設けられている。
家庭裁判所出張所管内の住民からすれば、家庭裁判所本庁や支部まで出向くことなく手続を進められるので利用がしやすくなるはずである。
しかし、実際には、家庭裁判所出張所の開廷日が、例えば2週間に1日などかなり限定されている。そのため、当事者がその開廷日に都合が合わなければさらに先の期日となるなど、せっかくの利用しやすさに水を差す状況となっている。
そこで、利用をしやすくするため、家庭裁判所出張所の開廷日を拡充すべきである。
2 家庭裁判所出張所が設置されていない独立簡易裁判所に、家庭裁判所出張所を設置すること
市町村によっては、当該市町村内に家庭裁判所支部がなく、住民は別の市町村にある家庭裁判所支部まで出向かなければならないが、当該市町村内に独立簡易裁判所は存在していることがある。
例えば、宮城県栗原市に居住する住民は、家事事件の管轄が、隣接する市である宮城県大崎市の仙台家庭裁判所古川支部となるが、栗原市内には築館簡易裁判所が存在する。岩手県釜石市に居住する住民も、岩手県遠野市にある盛岡家庭裁判所遠野支部に管轄があるものの、釜石市内には釜石簡易裁判所が存在する。
仙台高等裁判所管内において、家庭裁判所出張所が設置されていない独立簡易裁判所としては、築館簡易裁判所、釜石簡易裁判所以外に、男鹿簡易裁判所、湯沢簡易裁判所、鰺ヶ沢簡易裁判所があげられる。
このような地域では、当該地域に簡易裁判所という裁判所施設があるにもかかわらず、家事事件に際して管轄のある家庭裁判所支部まで出向いて家事事件の手続きを行わなくてはならず、利用する住民からすれば、遠距離の移動や移動時間がかかるという負担が生じている。
当該地域の簡易裁判所に家庭裁判所出張所が設置されれば、上記の負担は軽減されることになる。
そこで、家庭裁判所出張所が設置されていない独立簡易裁判所に、家庭裁判所出張所を設置すべきである。
第5 これまでの決議に関連する事項について
1 合議事件について
仙台高等裁判所管内において、上記29支部のうち、合議事件が行われている地方裁判所支部は、郡山支部、会津若松支部、いわき支部、鶴岡支部、大館支部、大曲支部、弘前支部、八戸支部の8カ所にすぎない。
また、仙台高等裁判所管内の合議事件を取り扱っていない多くの地方裁判所支部では、合議事件となれば、本庁や合議事件を取り扱う支部まで移動し時間をかけて裁判に臨まなければならず、その負担は大きい。
しかも、最高裁判所は、近時、民事裁判における審理判断の質の向上を図るため、各庁において、合議の充実を基礎に据えて部の機能を活性化させる等の取組みを進めてきた。当然のことながら、裁判所支部管内に居住する住民も、判断の質が高められた合議事件の審理を受けたいと考えている。
そこで、仙台高等裁判所管内においても、本庁や合議事件取扱支部まで出向くことなく、地方裁判所支部においても合議事件による審理を受けられるよう、地域司法の人的・物的基盤の整備拡充をするべきである。
2 執行事件の本庁への集約化
仙台高等裁判所管内においては、不動産競売事件や債権執行事件が本庁で取り扱われ、執行事件を取り扱わない地方裁判所支部が多数存在する。
具体的には、以下の13支部である。
大河原支部、古川支部、登米支部、石巻支部、気仙沼支部、白河支部、新庄支部、米沢支部、二戸支部、水沢支部、本荘支部、五所川原支部、十和田支部
執行事件の本庁への集約化の動きは、全国的には1999年(平成11年)頃から始まり、仙台高等裁判所管内においては、2000年(平成12年)4月、大河原支部の不動産競売事件が本庁に集約されたのを皮切りに、2006年(平成18年)から2009年(平成21年)にかけて、各地の地方裁判所支部の執行事件が本庁に集約された。
さらに、2018年(平成30年)、秋田地方裁判所から、すでに本庁に集約されている本荘支部以外の秋田地方裁判所支部について、執行事件を本庁に集約したいとの要求がなされた。
しかし、執行事件の管轄を債務者の住所地や不動産所在地として債務者側に認めているのは、債務者に対し適切に手続に参加できる機会を与えたためであるにもかかわらず、本庁に集約されると、債務者は本庁まで記録の閲覧に行き、本庁に書面を提出することになり、本庁への移動や時間がかかるという負担が生じている。
そこで、執行事件の本庁への集約化を改め、仙台高等裁判所管内の地方裁判所支部においても執行事件を取り扱えるようにすべきである。
3 地方裁判所支部での労働審判の未実施について
仙台高等裁判所管内においては、地方裁判所本庁でのみ、労働審判が取り扱われており、地方裁判所支部においてはこれを取り扱っていない。
そのため、裁判所支部管内にある会社やそこに居住する住民が、本庁までの移動や時間と交通費をかけてまで、本庁で労働審判を行うケースは少ない。裁判所支部管内にある会社やそこに居住する住民は、労働審判手続の利用を事実上諦めざるを得ない状況にある。
しかし、労働審判制度は、個別労働紛争を迅速かつ適切に解決できる、利用した当事者の満足度が高いと言われている制度であって、裁判所支部管内にある会社やそこに居住する住民も、そのようなメリットのある手続をとりたいと考えるのは当然である。
そこで、地方裁判所本庁だけでなく、地方裁判所支部においても労働審判が実施できるよう、地域司法の人的・物的基盤を整備拡充するべきである。
第6 司法予算の増額について
国や最高裁判所が地域司法の人的・物的基盤の整備拡充を実施するためには、その実施に要する司法予算を確保する必要がある。
しかし、裁判所関連予算の国家予算に占める割合は約0.3%台で推移しており、国や最高裁判所は、地域司法の人的・物的基盤の整備拡充のために積極的に予算措置を講じてきたとは言えず、むしろ、地域司法の人的・物的基盤の整備には目を向けてこなかったと言わざるを得ない。
国や最高裁判所は、司法を、国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とする必要があり、ここで言う国民には、当然、裁判所支部管内に居住する住民も含まれるのである。
そこで、国や最高裁判所は、これまでよりも積極的に、地域司法の人的・物的基盤の整備拡充のための予算措置を講じるべきである。
特に、近年、成年後見制度の利用促進が言われており、国はそのための財政上の措置を講じる責務を負っているところ、成年後見制度の利用促進には、家庭裁判所や家庭裁判所調査官が重要な役割を担うことは明白である。これを機に、家庭裁判所支部管内における地域司法の人的・物的基盤の整備に関する予算措置を講じるべきである。
第7 むすび
上記のとおり、裁判所支部管内に住む住民が受ける司法サービスと本庁管内居住する住民が受けるそれとを比べると、不公平で不合理な格差が生じている。裁判所支部管内に居住する住民の裁判を受ける権利を実質的に保障するため、このような不公平で不合理な格差は、即刻解消されなければならない。
以上のような状況を踏まえ、当連合会は、裁判所支部管内における司法機能の充実をはかるべく、国に対し、本決議本文に掲げた地域司法の人的・物的基盤の整備・拡充を早急に実施することを求め、本決議に及ぶものである。
以上
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