政府は、本年3月7日、現在開催中である通常国会に、2021年(令和3年)の通常国会において事実上廃案となった入管法改定案(以下「旧法案」という)の骨格を維持したままの改定案(以下「法案」という。)を提出した。
日本の現在の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)では、地方出入国在留管理官署(以下「入管」という。)に広範な裁量を認め、全件収容主義を採用し、収容にあたっては収容期間の上限が定められておらず、かつ司法審査が導入されていない。また日本は、諸外国と比して難民認定率が極端に低い。こうしたことから、上記入管法は、外国人の人権を不当に制約するものであるとして、国連人権理事会から自由権規約等の国際法規範に適合するよう入管法の改正をするよう求められるなど、かねてより国際社会から繰り返し批判を浴びていた。
にもかかわらず、法案は、これらの問題点を是正するどころか、それに逆行するものである。まず、法案には、3回目以上の難民認定申請者については強制送還を可能とする、送還停止効の例外の定めがある。しかし、諸外国に比べて難民認定率が極端に低い日本では、なかなか難民認定されないため、やむを得ず難民認定申請を複数回行い、ようやく認定されたという例も相当数ある。このような状況において、3回目以上の申請であることを理由として送還停止効の例外を認めることは、難民条約上保護が認められるべきにもかかわらず適切に保護されていない者を強制送還して迫害に直面させるという事態を招きかねず、誰一人として迫害を受けるおそれのある領域に送還してはならないという「ノン・ルフールマンの原則」(難民の地位に関する条約第33条1項)に抵触する可能性が極めて高い。
また、法案には、退去命令に従わない者に対して刑事罰を科す定めがある。しかし、退去命令に従えない者の中には、日本で生まれ育ったり日本に居住する家族がいたりすることなどから在留特別許可を求める者や、上記のようになかなか難民認定されないためにやむを得ず難民認定申請を複数回行っている者など、様々な事情を抱えている者がいる。刑事罰の設定は、このような本来保護されるべき者が不当に刑罰の対象となってしまう危険性を孕む。そればかりか、上記のような様々な事情のある人々を人道上の観点から支援する者や弁護士、行政書士等の専門家が共犯とされ、刑罰の対象とされる可能性も否定できず、ひいては、これらの者による人道的な行為や権利擁護活動までをも著しく萎縮させるおそれがある。
更に、法案では収容体制に関し、収容と監理措置制度との選択制にして3ヶ月ごとに収容の必要性を見直す規定を創設するなどの修正を一部しているものの、収容か監理措置かの決定権を持つのは入管の主任審査官のみであって、収容に関する司法審査の導入はなく、また期間の上限は相変わらず設定されておらず、現行の収容制度を抜本的に改善し得るものとは到底言えない。
旧法案に対しては、国連人権理事会の特別報告者らが自由権規約をはじめとする国際法に違反しているとの声明を発表したほか、国内においても、国際法研究者や法律家、関係各市民団体等が反対の声を次々とあげ、反対の世論が高まった。その結果として、旧法案は2021年(令和3年)の通常国会において事実上廃案となったものである。
その後、国内外から、政府に対し、入管収容に当たっての司法審査や収容期間の上限設定の導入や、適正な難民認定等、難民認定・入管体制の抜本的改革を求める声があげられているが、政府はそうした改革を何ら行っていない。2022年(令和4年)11月3日には、国連人権委員会から、日本に対する第7回政府報告書審査の総括所見において、日本の被収容者の手続的権利及び健康について懸念が示され、被収容者の処遇改善が求められるなど、国内外から継続的に強い非難を浴びているところである。
そうした状況の中で、今回、政府が上記の重要な問題点につき何ら是正されていない旧法案の骨格を維持したままの法案を提出したことは到底是認できるものではない。
当連合会は、旧法案の骨格を維持したままの法案の提出に強く抗議し、改めて法案に反対すると共に、政府に対して、早急に国際的な人権擁護基準に則った難民認定制度、入管体制を新たに構築することを強く求めるものである。
2023年(令和5年)3月18日
東北弁護士会連合会
会 長 遠 藤 凉 一
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