最高裁判所大法廷(戸倉三郎裁判長)は、2024(令和6)年7月3日、旧優生保護法国家賠償請求訴訟において、旧優生保護法が憲法13条及び14条1項に違反することを認めた上で、国が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないとして、被害者に対する損害賠償を命じる判決を言い渡した(なお、唯一、除斥期間の適用が認められていた2023(令和5)年6月1日の仙台高等裁判所の判決については破棄した上で差し戻した。)。

 本件は、15歳のときに優生手術を強制された宮城県在住の60代の女性が全国で初めて国家賠償法に基づく損害賠償請求訴訟を仙台地方裁判所に提起し、その後の同種事件の先駆けとなった事件を含む全国5つの同種事件の上告審判決である。

 1948(昭和23)年6月に制定された旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」こと等を目的として、特定の障害ないし疾患を有するとされた者を一律に「不良」と断定し、1996(平成8)年に母体保護法に改正されるまでの約48年間、不妊手術約2万5000件、人工妊娠中絶約5万9000件、合計約8万4000件に及ぶ優生手術を強制した。

 これまでも、2022(令和4)年2月22日に大阪高等裁判所が、同年3月11日に東京高等裁判所が、いずれも国に損害賠償を命ずる判決を言い渡し、その後も、2023(令和5)年3月16日の札幌高等裁判所、同月23日の大阪高等裁判所、同年10月25日の仙台高等裁判所、2024(令和6)年1月26日の大阪高等裁判所判決等、国に損害賠償を命じる判決が相次いで出されていた。

 本判決は、最高裁判所として、旧優生保護法が憲法13条及び14条1項に違反すると明確に判断した。その上で、旧優生保護法の立法行為にかかる国の責任が極めて重大であること、被害者に国に対する損害賠償請求権の行使を期待することが極めて困難であったこと、適切な補償の措置が講じられてこなかったこと等に照らし、除斥期間の主張の要否に関する最高裁判例を変更した上で、国が除斥期間の主張をすることが信義則に反し、権利の濫用として許されないとした。これは、旧優生保護法による被害について除斥期間の適用を制限することについて統一的判断を示したものである。優生手術が極めて非人道的かつ差別的であり重大な人権侵害行為であることを直視し、除斥期間の適用を否定して国の賠償責任を認めたことは、人権保障の砦としての司法の役割を果たすものであり高く評価される。

 もっとも、本件の背景にある旧優生保護法に基づく優生手術は、約8万4000件に及ぶにもかかわらず、全国において国家賠償訴訟の提起に至った被害者はわずか39名に過ぎない。旧優生保護法一時金支給法に基づく一時金の支給認定の状況についても令和6年5月末時点で1100件が認定されたにとどまり、大多数の被害者は様々な理由により未だ声を上げられない状態が続いている。そして、被害者の多くは高齢となっており、既に亡くなられた方も少なくない。

 このため、訴訟提起に至った被害者のみならず優生手術のすべての被害者に対し、一日も早く本判決の趣旨を踏まえた全面的な謝罪と速やかな被害回復が図られることが必須である。

 よって、当連合会は、国に対し、本判決を受けて、すべての被害者に対する謝罪と速やかな被害の全面的回復を行うことを強く求めるものである。

2024(令和6)年7月4日 

東 北 弁 護 士 会 連 合 会                    

会 長 竹 本 真 紀