1 2021年に社会福祉法が改正され、重層的支援体制整備事業(以下「重層事業」という。)が創設された。
重層事業は、福祉のニーズが多様化、複雑化、複合化する中、縦割りの分野別支援では対応が困難となる事例が生じていることから、市町村内の支援機関や地域の関係者が、相談を断らずに、ワンストップで受け止め、つながり続ける支援体制の構築をコンセプトに、「相談支援(属性を問わない相談支援、他機関協働による支援、アウトリーチ等を通じた継続的支援)、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施し、包括的な支援体制を整備する事業である。
従来、日本の福祉制度は、子ども、障がい者、高齢者というような対象者の属性や、要介護、虐待被害、生活困窮というような問題毎に制度を設けることで対処してきた。支援にあたる体制も、そうした分野別に構築され、発達してきた。
一方で、実際に社会で生活する人々に目を向ければ、個人や世帯が、複数の生活上、社会上の課題を抱えており、課題全体を捉えて関わっていくことが必要であったり、社会的孤立等、困難は抱えているが、既存の制度の中では対象となりづらかったりすることが少なくない。
そのような状況の中で、これまでの縦割りの福祉制度、支援体制では、人々が抱える多様なニーズに対応することは困難だと言わざるを得ない。課題が支援の狭間にあり、適当な支援制度がないために、何ら支援を受けることができず、生きづらさを抱えたままでの生活を余儀なくされる人や、自らの抱える課題毎に異なる相談先を探さなければならず、結果として支援を受けることを諦めたり、支援を敬遠するようになったりすることで、困難を抱えたままで生活している人などが生まれている。
福祉制度は、人々を支援することにより、その人が、自律的で、自己決定に基づく生活を送ることができるようにすることを目的とする。支援の狭間に陥ったり、支援体制に問題があったりすることによって、福祉的支援を受けることができず、そのために人が自律的で、自己決定に基づく生活を送ることができないとすれば、福祉制度の目的に適っていない。
そして、そのような状況は、その人の幸福追求の権利、自己決定権、生存権等を中心とする基本的人権が制限されているということに他ならない。
重層事業は、これまで支援の届かなかった人を含めて、すべての住民を支援の対象とするものと位置づけ、本人と支援者が継続的に関わるための相談支援を重視し、同時に、住民同士が気に掛け合う関係性を育むため、地域づくりへの支援を重視し、それらをつなぐものとして、一人ひとりのニーズを前提に、様々な関係者に働きかけ、本人にとって必要な資源を生み出していく参加支援を設けるものであり、まさに、すべての人が支援を受けることで、その基本的人権を擁護し、尊厳が守られる中で生きていくための事業である。
これまで、弁護士は、こうした福祉的支援との関わりとしては、高齢者、障がい者の成年後見人等として関わること、生活困窮者について債務整理等で関わることなど、個別の課題毎に提供される福祉的支援と同じく、課題毎に提供される専門的支援を中心にしてきた。
重層事業の中でも、弁護士が提供しうる支援としては、これまでと変わらないかもしれないが、重層事業に積極的に関わることで、他の支援者らと協働して、重層支援の一角として、支援を展開することができるほか、多機関協働の場面におけるコーディネーターや問題の整理を担当することもできる。
加えて、重層事業全体についても、基本的人権や個人の尊厳の擁護の観点から市町村の事業計画に意見を述べたり、市町村と支援機関との中心にたって、繋ぎ役として活動したり、重要な立ち位置で関わりを持つことができる。
私たち弁護士は、弁護士法第1条第1項により、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としているが、重層事業に積極的に関わることは、その地域の住民の基本的人権の保障を十分なものとする活動の一環として、弁護士の使命と合致する。
よって、当連合会は、東北各地において、重層事業が実効的なものとなるよう、重層事業の実施に積極的に関与し、同事業の拡充に努力していくことを宣言する。
2 重層事業が、人権擁護の制度である以上、居住している自治体によって、事業が行われておらず、支援が受けられないという状況は望ましくなく、どの自治体においても、属性を問わない相談支援、多機関協働による支援、アウトリーチ等を通じた継続的支援、参加支援、地域作りに向けた支援が一体的に実施され、包括的な支援体制が整備されることが望ましい。
当連合会は、2019年7月12日、被災者支援のために「災害ケースマネジメント」の制度化に向けた法改正等を求める決議を発出し、被災者一人ひとりの生活再建のために、行政、民間を問わず、様々な支援者が連携して、被災者一人ひとりに寄り添った支援を提供する「災害ケースマネジメント」の法制度化の必要性を指摘し、実効化のために、平時から支援者間の連携を築いていかなければならないことを述べた。
重層事業は、まさに、災害ケースマネジメントで求められる、支援者間の連携により、困り事を抱える地域住民に対して、必要な支援を検討して提供して行くものであり、重層事業が実施され、支援体制が構築されている自治体においては、災害発生時には、災害ケースマネジメントを展開していく下地ができているということができる。
よって、重層事業は、人権擁護の観点からも、災害ケースマネジメントを実行するという視点からも、すべての自治体において実施されることが望ましく、現在、実施に至っていない自治体は、できる限り重層事業を実施すべきである。
3 重層事業を実施していくためには、弁護士をはじめとする各種専門家を積極的に活用することが支援体制の充実につながっていく。
しかし、自治体によっては、専門家を活用する場合の経済的負担への不安から専門家の活用を躊躇したり、特定のケースで特別な支援を必要とする場合のみ、専門家に声をかけるという対応に留まったりすることが考えられる。
国は、関連事業に関する補助金の一体化や重層的支援体制の強化に資する新たな機能を追加した上での一括交付など、重層事業を進めるための財政整備を進めているが、その中に、専門家の積極的活用のための費用は検討されていない。
よって、国は、重層事業を実施する自治体が、弁護士をはじめとする専門家を積極的に活用することができるよう、財政的整備を進めるべきである。
4 以上述べてきたとおり、重層事業は、今後の地域共生社会の実現を目指す重要な事業であり、地域住民の権利擁護のために、広く進められるべき施策である。
当連合会は、基本的人権の擁護を使命とする法律専門家団体として、東北管内の自治体が実施する重層事業に対し、積極的に関わり、同事業をより効果的なものとすべく、尽力していくことを宣言すると共に、国及び自治体に対し、以下のとおり要請する。
(1)重層事業未実施の自治体は、早期に同事業の実施を決定し、包括的な相談・支援体制を構築していくこと。
(2)国は、自治体が重層事業を進めて行くに当たり、経済的な不安なく、弁護士をはじめとする専門家を活用できるようにするための財政的措置を講ずること。
以上、決議する。
2025年(令和7年)7月4日
東北弁護士会連合会
提案の理由
第1 重層的支援体制整備事業について
1 重層的支援体制整備事業とは
重層的支援体制整備事業とは、市町村において、地域住民の複合化・複雑化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を整備するため、①相談支援(属性を問わない相談支援、多機関協働による支援、アウトリーチ等を通じた継続的支援)、②参加支援、③地域づくりに向けた支援を一体的に実施する事業をいう(社会福祉法第106条の4第2項)。
2 重層事業が必要とされる背景
従来、日本の福祉制度は、子ども、障がい者、高齢者というような当事者の属性や、要介護状態、虐待被害、生活困窮というような当事者の抱える問題別に、支援制度を設けることで対処してきた。
そして、支援の体制も、それに併せて、分野別に構築され、発達してきた。
一方で、実際に、社会内で生きている人々を見れば、個人や世帯が、複数の生活上、社会上の課題を抱えており、課題全体を捉えて関わらなければ、問題解決に至らなかったり、社会的孤立等、困難は抱えているが、既存の制度の中では対象となりづらかったりすることが少なくない。
例えば、高齢者に至らない年齢で、軽度の知的障がいを有している方は、生きづらさを感じながらも、高齢の支援者にも障がいの支援者にもつながることなく、生活しているということがあった。
認知症を抱える高齢の夫婦、その子であり障がいを抱える娘、その娘の子が同居している世帯において、高齢の夫婦には高齢の支援者が、娘の日常生活の範囲では障がいの支援者が、子どもに関する部分では子育て関連の支援者が関わりつつも、それぞれが自分の支援の範囲での活動に終始し、世帯全体を見ることがないために、支援の継続性がなく、世帯全体としての困り感の解消につながっていかないということもあった。
こうした福祉ニーズの複雑化、多様化が進む中で、これまでの縦割りの福祉制度、支援体制のままでは、複合的な課題を有する場合や分野横断的な対応を要する場合などには、対応が困難となる事例が生じている。
かつては、こうした問題であっても、血縁、地縁などの共同体が受け止めることができていた部分もあったが、近年の日本の状況は、高齢化が進み、人口減少が顕著となっていることから、地域の実情に応じた体制整備や人材確保にも課題が生じている。
そこで、国は、制度・分野毎の「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が「我が事」として参画し、人と人、人と資源が、世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域を共につくっていく社会の実現を推進することとした。このような社会を「地域共生社会」という。
地域共生社会の実現に向けた過程の中で生まれてきたのが、重層事業である。
3 重層事業の具体的内容
重層事業は、上記のとおり、社会福祉法第106条の4第2項で定義されており、同条項で掲げる事業を一体のものとして実施するものである。
具体的な事業としては、以下のとおりである。
(1)包括的相談支援事業(同条項第1号)
属性や世代を問わず、地域生活課題を抱える地域住民及びその家族その他の関係者からの相談に包括的を受け止め、介護保険法、障害者総合支援法、子ども・子育て支援法、生活困窮者自立支援法の各事業を一体的に行う事業。その相談には、支援機関のネットワークで対応することとし、複雑化・複合化した課題については適切に多機関協働事業につなげることになる。
(2)参加支援事業(同条項第2号)
社会生活を円滑に営む上での困難を有する者に対して、社会とのつながりをつくる事業。対象者のニーズを踏まえた丁寧なマッチングやメニューをつくった上で支援する必要があり、つながりができた後も、そこでの定着を支援すると共に、受け入れ先の支援も行うことになる。
(3)地域づくり事業(同条項第3号)
地域住民の自立した日常生活や地域社会への参加を確保のために、交流場所、居場所を整備し、交流・参加・学びの機会を生み出すために、利用者にあった活動や相手をコーディネートし、地域のプラットフォームの形成や、地域における活動の活性化を図る事業。
(4)アウトリーチ等を通じた継続的支援事業(同条項第4号)
長期間、地域社会から孤立していた者等、支援が届いていない人に支援を届ける事業で、会議や関係機関とのネットワークの中から、潜在的な相談を見つけ、訪問などによって状況を把握し、本人との信頼関係を構築して、継続的に支援を行っていく事業。
(5)多機関協働事業
複数の支援関係機関が、相互に有機的な連携をして、対象者の抱える地域生活課題の解決に向けた支援を行う事業。
市町村全体で包括的な相談体制を構築し、かつ、具体的な問題に対しては、支援関係機関の役割分担を図って対応していくこととなる。重層事業において中核を担う役割である。
(6)上記の事業を行うため、市町村は、重層事業を実施するに当たっては、こども家庭センター、地域包括支援センター、基幹相談支援センター、生活困窮者自立支援事業者、その他の支援関係機関相互間の緊密な連携が図られるように努めることになる(同条第3項)。
4 重層事業と弁護士の関係性
これまで確認してきたとおり、重層事業は、福祉のニーズが多様化、複雑化、複合化する中で、縦割りの分野別支援では対応が困難となる事例が生じていることから、市町村内の支援機関や地域の関係者が、相談を断らずに、ワンストップで受け止め、つながり続ける支援体制の構築をコンセプトに、「相談支援(属性を問わない相談支援、他機関協働による支援、アウトリーチ等を通じた継続的支援)、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施し、包括的な支援体制を整備する事業ということができる。
これまでの縦割りの福祉制度、支援体制では、課題が支援の狭間にあり、適当な支援制度がないために、何ら支援を受けることができず、生きづらさを抱えたままでの生活を余儀なくされる人や、自らの抱える課題毎に異なる相談先を探さなければならず、結果として支援を受けることを諦めたり、支援を敬遠するようになったりすることで、困難を抱えたままで生活している人などが生まれており、人々が抱える多様なニーズに対応することは困難だった。
福祉制度により、人々が支援を受けるのは、支援を受けることで自律的で、自己決定に基づく生活を送るためであり、支援の狭間や支援体制の問題により、福祉的支援を受けることができないとすれば、それにより自律的で、自己決定に基づく生活を送ることができなくなっているということである。
そのような状況は、その人の基本的人権が制限されているということに他ならない。
重層事業は、これまで支援の届かなかった人を含めて、すべての住民を支援の対象とするものと位置づけ、本人と支援者が継続的に関わるための相談支援を重視し、同時に、住民同士が気に掛け合う関係性を育むため、地域づくりへの支援を重視し、それらをつなぐものとして、一人ひとりのニーズを前提に、様々な関係者に働きかけ、本人にとって必要な資源を生み出していく参加支援を設けるものであり、まさに、すべての人が支援を受けることで、その基本的人権が擁護され、個人の尊厳が守られる中で生きていくための事業である。
これまで、弁護士は、こうした福祉的支援との関わりとしては、高齢者、障がい者の成年後見人等として関わること、生活困窮者について債務整理等で関わること等、個別の課題毎に提供される福祉的支援と同じく、課題毎に提供される専門的支援を中心にしてきた。
重層事業の中において弁護士が提供しうる支援としては、これまでと同様の法的支援が中心となることは間違いないが、それらに加えて、困難ケースにおいて事案を確認し、関係者の法的関係性を含め、問題状況を整理し、必要な支援を検討する、あるいは検討する土台をつくる、ケース会議において、議論を整理し、意見を調整するなどして会議を進めていく、支援者として、あるいは第三者的な立場から、行政に対して重層事業のあり方や事業に対する行政の執るべき態度などに関する意見を述べて、事業の改善を図る、相談支援や居場所づくりなどにおいて、法的問題がないかをチェックし、必要な法的助言をする等、弁護士がその能力を提供できる場面は多い。
重層事業が、基本的人権を擁護し、尊厳が守られる中で生きていくための事業なのであれば、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする私たち弁護士には、積極的に重層事業に関わっていく責務がある。
第2 東北地方における重層事業と弁護士の関わりの状況
岩手弁護士会では、東北地方で重層的支援体制整備事業に取り組んでいる27市町村(2023年度)に対し、弁護士の関与についてアンケート調査を行った。
22市町村から回答が得られたが、そのうち、同事業について、弁護士の関与があるとの回答は9市町村のみであった。そして、残り13の市町村の内、今後弁護士が関与する予定はないとする市町村が10、検討中だとする市町村が3であった。
弁護士の関与があるとする市町村では、ケースの課題の解きほぐしや支援機関との連携に係る助言、重層事業全体の評価などを行う「重層支援アドバイザー」として協力しているという自治体や、多機関協働事業において、生活相談会に包括化推進アドバイザーとして協力を得ているという自治体があったほか、重層的事業推進会議の委員を委嘱し、会議に出席してもらっているが、個別支援会議においては、必要時に出席を求め、助言や意見を求めているとする自治体、研修会において事例検討を行った際に、講師として参加を求め、事例対応に関する法的視点について助言を求めたとする自治体など、重層事業の中で、一定の立場で活動している例があった。
一方、弁護士の関与があるとする市町村においても、債務整理や成年後見などで個別ケースの中で、必要が生じた際に、個別に相談しているとする回答も多く見られた。
現状、弁護士の関与がない市町村については、弁護士の関与を検討中であるとする市町村においても、「具体的なケースについて意見を聞きたいことがあるが、どのように関与をしてもらえばよいのかわからないでいる。」という回答もあった。
重層事業を実施している自治体であっても、弁護士の活用方法がわからないというような事情で、弁護士の関与に踏み切れない場合があることが明らかとなった。
第3 盛岡市における重層事業の展開
1 盛岡市は、2016年度から、多機関の協働による包括的支援体制構築モデル事業の指定を受け、具体的な運営を盛岡市社会福祉協議会に委託し、各分野の専門家が1つのチームとして支援できる体制を構築するとともに、地域のボランティア団体等と協力して、課題解決に必要な社会資源の発掘と育成に取り組み、地域課題の解決を目指すこととした。
具体的な相談や支援に対応するために、盛岡市内の様々な分野に相談支援包括化推進員を配置し、相談会の開催、問題事例についてのケース会議等を継続して行ってきた。
包括化推進員は、地域福祉、高齢分野、障がい分野、子ども分野、生活困窮者支援分野、ひとり親家庭支援分野、職能団体、共生の場づくり、若者・まちづくり支援、医療分野と多岐にわたる分野に配置され、更に、弁護士や日本司法支援センター岩手支部などがオブザーバーとして関わることで、包括的な相談、支援体制を構築してきた。
同モデル事業が、2021年4月の改正社会福祉法施行に伴い、重層事業へと変容した際も、盛岡市は引き続き、重層事業を実施することとし、支援体制を維持したまま活動を継続している。
盛岡市においては、地域福祉課が主幹となり、地域包括支援センター(長寿社会課)、機関相談支援センター等(障がい福祉課)、盛岡市くらしの相談支援室(生活困窮者自立支援、生活福祉課)、子ども家庭センターが連携すると共に、健康増進課、消費生活センター、教育委員会等の関係部署が広く連携を取って包括的相談支援事業が進められている。
盛岡市社会福祉協議会を中心として構築してきた、相談、支援体制については、「まるごとよりそいネットワークもりおか」と称する、ワンストップ相談窓口として、従来の包括化推進員やアドバイザーは、重層的支援アドバイザーとして、同ネットワークに所属し、これまでどおり、具体的な包括的相談、支援にあたる。
そして、地域づくり事業として、一般介護予防事業、生活支援体制整備事業、地域活動支援センター事業、地域子育て支援拠点事業等を、生活支援コーディネーター、ソーシャルサポートセンターもりおか、地域子育て支援センターの連携の下、一体的に展開していく。
まるごとよりそいネットワークもりおかでは、社会との繋がりを作るための支援として、これまでBBM[1]、住まいるプロジェクト[2]、畑づくりなどの参加支援事業を展開し、そうした活動や地域作り事業との連携の中で、支援が届いていない人に支援を届けるためのアウトリーチ等を通じた継続的支援事業を進めている。
具体的な問題事例については、ケースアセスメント会議やよりそい会議と題する多機関協働事業としての対応をし、それらの会議を踏まえて、対象者に必要な支援プランを作成して、実行していくことになる。
盛岡市のこれらの事業には、当初は包括化推進事業オブザーバー、現在は重層的支援アドバイザーとして、弁護士が参加しており、問題事例の整理、解きほぐし、相談会での対応、具体的な法的支援を行ってきたほか、地域づくりや参加支援事業における法的助言、重層事業全般に関し、基本的人権や個人の尊厳の擁護の観点から意見を述べる等、様々な場面で活動してきた。
第4 重層事業の全国的な展開の必要性
1 地域によっては、あえて重層事業と言わなくとも、庁内にて各部署の連携ができており、包括的な相談、支援体制が確立しているということもあり得る。
一方で、そうした包括的体制を作りたくとも、社会資源の少なさなどの理由で、事業としての展開を躊躇する自治体が存在することも想像に難くない。
しかしながら、上記のとおり、重層事業は、地域住民の基本的人権を擁護し、個人の尊厳が守られる中で生きていくための事業なのであるから、地域によって、事業が行われたり、行われなかったりすることは望ましくない。
2 災害ケースマネジメントと重層事業の関係
当連合会の管内である、三陸沿岸を中心とした東北各県は、東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故の被災地であり、被災地単位会を中心に、これまで被災者一人ひとりの「人間の復興」を実現するために、被災者支援活動を継続している。
そうした活動の中で、被災者支援のあり方について検討を重ねてきた結果、当連合会は、2019年7月12日、被災者支援のために「災害ケースマネジメント」の制度化に向けた法改正等を求める決議を発出した。
同決議においては、被災者一人ひとりの生活再建のためには、「災害ケースマネジメント」を制度化し、地域や災害を問わず、被災者一人ひとりに寄り添った支援を可能とする必要があるとし、「災害ケースマネジメント」を実効的にするには、様々な専門性を持った支援者が連携して支援にあたる必要があるとしている。
支援者の連携については、複数の民間団体や行政との連携が是非とも必要であるとし、そのような連携は、防災基本計画、地域防災計画に規定することで、平時からの関係づくりが進み、災害時に充実した支援が可能となるのだと指摘した。
重層事業は、困難を抱える地域住民に対し、行政も地域の支援者らも協働して、その相談を受け止め、必要な支援を検討し、支援を継続して行っていくというものであるところ、災害ケースマネジメントの考え方と極めて近いものである。
平時に、重層事業により、支援者らの連携が構築されていれば、それらの支援者は、いずれも被災者支援にも対応できることになるのであるから、重層事業が根付いた地域においては、災害発生時には、そのまま災害ケースマネジメントを展開する下地ができているということになる。
災害が発生すれば、被災により困難を抱える地域住民が多数発生することになるのであって、属性を問わない相談支援を中心的な活動とする重層事業は、「被災者」もまた、その対象者として対応して行かなければならないはずである。
以上からすれば、災害ケースマネジメントを実効的なものとしていくために、重層事業は中核的な役割を担う事業ということになる。
3 重層事業の重要性や、災害ケースマネジメントの全国各地での実施を考えれば、あらゆる自治体において重層事業が実施され、地域住民の権利擁護の体制が整備されることが必要である。
第5 重層事業における専門家の活用
以上のとおり、重層事業は、地域住民の権利擁護のために極めて重要な事業であり、そこには、基本的人権の擁護を使命とする弁護士が積極的に関わっていくべきである。
しかし、重層事業を進める自治体においては、弁護士をはじめとする専門家を活用することによる経済的負担を理由に、専門家の積極的な活用を躊躇することもあり得るところである。
弁護士についても、そもそも弁護士の活用を検討しない自治体や、債務整理、成年後見等の、一見して弁護士の職務に合致する部分のみについて、弁護士に繋ぐという形でしか、重層事業に弁護士を活用しようとしない自治体が増えてしまうおそれもある。
上記のとおり、重層事業において弁護士の果たしうる役割は幅広く、弁護士が、継続性を持って、事業全般に広く協力しうる体制づくりが望ましい。
国は、「重層的支援体制整備事業交付金」について、介護、障がい、子ども、生活困窮の分野の相談支援や地域づくりにかかる既存事業の補助金を一体化し、参加支援、アウトリーチ等を通じた継続的支援、他機関協働といった、重層的支援体制の強化に資する新たな機能を追加して一括交付する等して、重層事業を進めるための財政的整備をしているが、その中で、専門家を活用するための費用を踏まえた検討はなされていない。
事業としての持続性を維持し、自治体が専門家を積極的に活用することができるようにするためには、国において、専門家活用のための財政的措置を執ることが必要である。
第6 終わりに
重層事業は、地域の実情を踏まえつつも、困り事を抱える地域住民が適切に支援を受け、その人権が擁護され、尊厳を持って生活していくために、相談支援、参加支援、居場所づくり支援を一体として実施していく事業である。
私たち弁護士は、基本的人権の擁護を使命とする法律専門職として、同事業に積極的に関わり、充実した事業としていくことが求められている。
事件毎の対処に留まらず、重層事業の中で行われる各種事業に対し、法的な観点から、必要な関わりを持って行かなければならない。
そのために、当連合会は、私たち弁護士が、積極的に重層事業に関わっていく決意を明らかにすると共に、居住する地域によって支援体制に差が生じることのないよう、各地域で重層事業が実施されること、専門家を活用するために必要な財政措置を講ずることを求めることを提案する次第である。
以上
[1] Book
and Bookenergy in Morioka 読み終えた本の寄付を募り、その本をクリーニングした上で、再販売する事業。クリーニング作業は、福祉就労の場として展開し、売上げは、作業者への工賃のほか、福祉活動を行う団体等への寄付として活用される。新書購入額全国1位になったこともある、「本のまち盛岡」の特徴を活かした居場所づくりの事業。
[2] 認知症や障がい等により家庭ゴミが捨てられない状況となり、いわゆる「ゴミ屋敷」状態になっている世帯に対し、ゴミの片付けと併せて、その世帯が抱える潜在的な課題の解決にも対応することで、自宅での生活を続ける事ができるよう、住まいの再生と笑顔を取り戻すためのプロジェクト。
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