1 政府は、2024年2月27日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(以下「本法案」という。)を国会に提出し、本法案は、一部修正の上、同年4月9日に衆議院を通過し、同年5月10日の参議院本会議で可決成立した。

 本法案の概要は、①重要経済基盤保護情報であって、公になっていないもののうち、その漏洩が我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿する必要があるものを、重要経済安保情報として秘密指定する(特別防衛秘密及び特定秘密に該当する情報を除く)、②重要経済安保情報を漏洩した者と不正に取得した第三者を、最高5年の拘禁刑に処す、③重要経済安保情報を取り扱う業務は、適性評価により、重要経済安保情報を漏洩するおそれがないと認められた者に制限する、というものである。これは、特定秘密保護法を経済安全保障分野に拡大しようとするものであるが、本法案には以下に指摘するとおり、憲法上重大な問題がある。

2 まず、本法案には、特定秘密保護法と同様の憲法上の重大な問題がある。

(1)すなわち、特定秘密保護法同様、この法律には、まず、情報の非公開を広範に許容してしまうものである点で、国民の知る権利を不当に制限し、国民主権の原理が脅かされるという問題がある。また、処罰範囲が広範かつ不明確であるうえ、対象となる特定秘密の内容が明かされないまま刑罰が科されるおそれがあり、被告人の防御の機会が奪われかねない。さらに、同法律の定める適性評価制度は、評価対象者の精神疾患や信用情報をも調査事項とするものであり、評価対象者のプライバシーを侵害する危険性が高く、また、適性評価の名の下に評価対象者の思想調査がなされるおそれもあり、思想信条の自由を侵害する危険もある。

 当連合会は、2013年3月30日及び同年11月25日に、このような憲法上重大な問題をいくつも抱える特定秘密保護法の制定に反対する会長声明を発し、更に2014年7月4日には同法の廃止を求める決議を採択して、一貫して同法に反対してきた。

(2)また、国連の自由権規約委員会においても、第6回(2014年)及び第7回(2022年)の日本政府報告書審査で、特定秘密保護法について、①特定秘密の対象となる情報カテゴリーを明確にすること、②国家の安全という抽象的な概念により表現の自由を制約するのではなく自由権規約第19条第3項に則った制約となるようにすること、③公共の利益に関する情報を流布することにより個人が処罰されないことを保障することを、政府に求め続けてきている。

(3)しかしながら、今日まで、政府において上記のような同法の問題点を払拭しようという姿勢は全く見られないまま、今般、同法を経済安全保障分野に拡大する性質を有する本法案が国会に提出され、本法案提出からわずか1ヶ月と10日という短期間で衆議院を通過した。そして、衆議院通過から約1ヶ月という短期間で、十分な審議による問題点の解消すらなされずに参議院で可決成立するに至っている。なお、可決された修正案においては、重要経済安保情報の運用状況について国会に報告するものと修正されているが、これは、特定秘密保護法には規定がありながら同法案になかったものを加えたものであり、特定秘密保護法並みになっただけであって、特定秘密保護法の問題点を払拭するものではない。

3 さらに、以下のとおり、本法案には特定秘密保護法を上回る問題がある。

 まず、秘密指定される重要経済安保情報の範囲は抽象的で、極めて広範かつ不明確である。政府が作成した本法案の解説では、「経済安全保障上の重要な情報」のうち、漏洩等があることで「著しい支障」が生じるものを「特定秘密」とし、それには至らない「支障」相当のものを「重要経済安保情報」として区分したうえで、本法案は後者の「重要経済安保情報」を対象とするものとされているが、特定秘密保護法のように外交・防衛・テロ・スパイ活動の4分野に限定されているわけでもなく、特定秘密保護法以上に対象範囲が広範かつ不明確といわざるを得ず、これでは「重要経済安保情報」が恣意的に拡大される懸念がある。

 また、特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象であったが、本法案では広範な民間事業者や大学、研究機関等も対象とされ、当事者のみならず家族や同居人も対象とされるなど、対象範囲が極めて広い。調査内容も、精神疾患に関する事項や経済状況等も含む広範かつ私事性・秘匿性の高い高度なプライバシー事項が対象とされている。その結果、内閣総理大臣の下に設けられる新たな情報機関に適性評価対象者の膨大な情報が蓄積されることとなるが、適性評価のための調査の行き過ぎを抑止するための仕組みも想定されていないようであり、プライバシー保障の観点から疑問がある。

 4 結語

 以上述べてきたとおり、本法案についても、憲法上の重大な問題が複数あることは、特定秘密保護法と全く同様である。また、本法案は、同法以上に対象範囲が広範かつ不明確であり、秘密が恣意的に拡大するおそれがより高いと言わざるを得ない。同法の抱える憲法上の重大な問題を何ら改善しないまま、拙速な審議で本法案を可決成立させたことに、当連合会は強く抗議するとともに、今後、政府に対しては、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」により、国民の権利が不当に制限されることのないよう強く求める。


                        2024(令和6)年5月11日

                      東北弁護士会連合会        

                                 会 長  竹 本 真 紀