えん罪は国家による最大の人権侵害の一つであり、起きてはならないことであるが、万が一、えん罪が起きてしまったときは、えん罪被害者は速やかにかつ確実に救済されなければならない。しかし、えん罪被害者の救済手段となるはずの刑事事件の再審制度は、「開かずの扉」とも言われるほど、再審が認められることがまれであり、えん罪被害者の救済は遅々として進まない状況にある。現在の再審制度は、えん罪被害者の救済手段としての意義・役割を十分に果たせていないと言わざるを得ない。

 

 21世紀に入って以降、足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件、松橋事件、湖東事件の6事件で再審により無罪判決が確定し、さらに、本年(2023年(令和5年))に入ってからも袴田事件について再審開始決定が確定するなど、近年、再審をめぐる動きは活発化している。

 しかし、現行刑事訴訟法では、再審手続に関する規定が旧刑事訴訟法から内容を引き継いだ19か条しかなく(刑事訴訟法435条ないし453条)、とりわけ再審請求手続における審理の在り方については、刑事訴訟法445条において、事実の取調べを受命裁判官又は受託裁判官によって行うことができる旨が定められているだけで、裁判所の広範な裁量に委ねられている。そのため、再審請求事件の審理の進め方は裁判所によって区々であり、再審をめぐる動きが活発化する中で、いわゆる「再審格差」と呼ばれる裁判所ごとの格差が目に見える形で現れるようになり、制度及び規定の不備が看過できないものであることが明らかとなっている。

 

 その中でも、とりわけ大きな問題となっているのが、再審における証拠開示制度の不備である。再審開始決定を得た事件の多くにおいて、再審請求手続の中で初めて開示された検察官の手持ち証拠の中に、再審開始を導く重要な証拠が含まれていた。これは、再審請求手続における証拠開示の重要性を端的に示すものである。

 しかし、現行刑事訴訟法には再審における証拠開示について定めた明文の規定は存在せず、裁判所の訴訟指揮に基づいて証拠開示が行われる。証拠開示が裁判所の裁量に委ねられることから、再審開始を導く重要な証拠が再審請求人に開示される保証はない。

 えん罪被害者の救済という再審の理念を実現するためには、再審請求手続において証拠開示が十分に行われ、通常審段階で公判に提出されなかった裁判所不提出記録を再審請求人に利用させることが不可欠であり、再審請求手続における証拠開示制度の整備が急務である。

 

 また、再審開始決定に対して検察官の不服申立てが許容されていることも看過できない問題である。再審開始決定に対する検察官の不服申立てが、えん罪被害者の速やかな救済を阻害していることはかねてより指摘されている。近時の再審開始決定を得た事件の多くにおいて、再審開始を認める即時抗告審の決定に対し、検察官が最高裁判所に特別抗告を行っており、えん罪被害者の救済が長期化することにつながっている。このように、検察官の不服申立てが許容されていることによる弊害は顕著であり、速やかに是正する必要性が高い。


 このような点を踏まえ、当連合会は、えん罪被害者を速やかに、かつ、確実に救済するため、国に対し、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止、及び、再審請求手続における手続規定の整備を中心とする再審法の抜本的な改正を速やかに行うよう求める。




                                                                                2023年(令和5年)9月9日  

                                                   東北弁護士会連合会      

                                                     会 長  虻 川 高 範