当連合会は、再生可能エネルギーの導入が急激に促進された結果、地域の生活環境や自然環境・景観などの悪化への懸念から、全国各地で住民の反対運動が生じており、その実情は東北地方でも同様であることから、再生可能エネルギーの導入と地域の環境との調和が必要であり、そのためには住民参加の制度の拡充が必要かつ有効との認識に立ち、国及び地方公共団体に対し、以下のとおりの法制度の改正等を求める。


1 国は、オーフス条約に加入し、それに伴い、環境に関する意思決定への市民参加を権利として認め、その実効性を確保するための国内法制の整備をすべきである。

2 国は、オーフス条約に加入するまでに、以下の法制度の改正等をすべきである。

(1)環境影響評価法について

ⅰ)配慮書手続における意見聴取や説明会開催を義務とすること、また、第二種事業についても配慮書手続を義務とすること

ⅱ)風力発電について、環境影響評価の対象となる規模要件を、同法施行令改正前の、第一種事業については1万kW以上、第二種事業については0.75万kW以上1万kW未満とすること

ⅲ)環境影響評価図書の公表・縦覧について、謄写及びダウンロードができる形での実施を義務とすること

(2)地球温暖化対策の推進に関する法律について

 地域脱炭素化促進事業計画の認定事業であっても、環境影響評価配慮書手続を実施すべきとすること

(3)再生可能エネルギー電気の利用の促進にかかる特別措置法について

 住民説明会の開催等、住民への事業内容の周知措置を取ったことを固定価格買取制度(FIT制度)の認定要件とする改正法について、住民の意見が反映される手続として機能する運用をすること

(4)海洋再生エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律について

ⅰ)促進区域の指定案の縦覧期間を、環境影響評価法における図書の縦覧期間に準じて1か月に伸長すること

ⅱ)協議会を構成する「利害関係者」に、住民や環境問題に関心がある者も含まれることをガイドラインに明記し、それに沿った運用をすること

3 地方公共団体は、以下の法制度の対応をすべきである。

(1)環境影響評価条例に配慮書手続を導入すること

(2)抑制区域や保全区域などを設定することも含んだ再生可能エネルギー発電設備の設置等を規制する条例の制定を積極的に進めること


                    2023年(令和5年)7月7日

                            東北弁護士会連合会



                     提案理由

第1 はじめに

 1 再生可能エネルギー導入促進の経緯

 地球温暖化防止のため、二酸化炭素排出量を抑制していくことが国際的な共通目標とされる中で、2011年に東日本大震災が発生した。地震により発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は、広い地域に甚大な人権侵害を生じさせ、原子力の利用に対する限界を強く印象付けた。

 そのような時代背景の中、新たな電源として、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー(※1)に注目が集まるようになり、現在、国は、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)を制定し、固定価格買取制度(FIT制度)を導入するなど、再生可能エネルギーの導入(※2)を強く促進している。

 2 再生可能エネルギーに関する当連合会の立場

 当連合会も、2015年7月3日、福島県で開催した定期弁護士大会において、原子力及び化石燃料利用には問題があり、最終的には社会に必要なエネルギーは全て自然エネルギーから生み出すこと(「自然エネルギー100%」)による持続可能なエネルギー社会構築の必要性があるとして、その実現のために「自然エネルギー100%」を目標として、地域別(市町村別)・種類別(自然エネルギー別)に、期間及び数値目標を明確にした自然エネルギー導入計画を策定すること、地域主体の取組を推進する観点から、固定価格買取制度における効果的な買取価格の設定・優先接続の実質的保障、自然エネルギー利用に関する許認可手続の規制緩和、自然エネルギー事業に対する助成支援制度の構築などの取組を進めることなどを求める「『自然エネルギー100%』による持続可能なエネルギー社会実現に向けた施策を求める決議」を採択した。

 3 環境との調和の必要性

 こうした再生可能エネルギー導入促進の結果、日本では、太陽光発電所や風力発電所は大規模化し、それら事業の導入が進むにつれ、景観や健康問題、野生生物に関する問題や土砂災害の危険性など生活環境や自然環境・景観等の悪化、災害の懸念を理由に、発電所の設置計画に対する地域住民の反対運動が全国各地でみられるようになった。

 地球温暖化対策や持続可能なエネルギー政策のために、再生可能エネルギーの導入促進が必要なことは理解できるところである。

 しかしながら、一方で、良好な環境の中で生活を営む権利、いわゆる環境権が憲法上保障されるとする考え方はほぼ通説となっており、環境基本法も、「環境を健全で恵み豊かなものとして維持することは人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであり、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるよう、環境保全は適切に行われなければならない」としている(同法3条)。また、再生可能エネルギーの導入のために森林を含む自然環境を破壊したり土砂災害が発生したりするのでは、本末転倒である。

 4 以上のとおり、再生可能エネルギーの導入促進は必要と言えども、地域の生活環境や自然環境・景観などへの配慮も必要不可欠であり、両者の調和をどのように実現していくのかが課題となっている。

第2 再生可能エネルギーを巡る東北地方の現状

 1 再生可能エネルギーの導入状況(※3)

 日本における電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は、大規模水力発電を含めても2012年ころまでは10%程度で推移していたが、2021年度には約22%と倍増した。特に、太陽光発電の累積導入量は、2011年から2021年までの10年間で約12倍となっている。また、風力発電の累積導入量も、2021年までの10年間で1.9倍となった。

 2021年までの再生可能エネルギーの累積導入量の都道府県ランキングにおける東北地方の順位は、福島県が5位、宮城県が14位、青森県が22位、岩手県が24位、秋田県が28位、山形県が43位である。福島県と宮城県では太陽光発電が占める割合が高く(80%以上)、青森県と秋田県では風力発電が占める割合が全国的に見ても突出して高い(青森県40%以上、秋田県60%以上)。ちなみに、2022年9月における出力20kW以上の風力発電の導入量は、東北地方が日本全体の約4割を占める(※4)。

 なお、再生可能エネルギーを主力電源化するための切り札として近年導入が進められている洋上風力発電であるが、現在、促進区域として指定されている8か所のうち4か所が秋田県沖である(他は、長崎県沖が2か所、千葉県沖と新潟県沖が各1か所)。

 2 東北地方における地域住民の反対運動等

 (1)青森県では、県内の山林に120から150基の風力発電機を設置するという大規模な「(仮称)みちのく風力発電事業」を巡り、資材搬入ルートの開発などに伴って、大規模な森林伐採がなされれば、地元の水資源や農林水産業そのものに影響しかねないとの懸念から、住民から反対の声が上がり、当時の青森県知事が開発への懸念を表明し、青森市議会も中止要請の意見書を全会一致で可決するなどしている。

 (2)岩手県では、遠野市で大規模太陽光発電所の建設現場を発生源とする濁水が周辺河川に流れ込んでいるのが確認され、2019年以降、住民らが、濁水により河川の環境や生態系に影響が出ているとして、事業者に改善を求め、市も、事業者に行政指導を繰り返し行って改善を求めている(※5)。

 (3)宮城県と山形県にまたがる蔵王連峰に計画された風力発電事業について、約1,600haの区域にブレード(羽根)の上端が最大地上約180m、回転直径が最大約160mの風車を最大23基設置する計画だったが、予定地の一部が蔵王国定公園に指定されているほか、重要野鳥生息地や生物多様性重要地域が含まれていることなどから、予定地の川崎町の町長を始め、蔵王町長、山形市、宮城県知事、山形県知事などの地元自治体や首長らからの反対意見が続出した結果、2022年7月に設置計画は撤回された。

 また、石巻市でも、風力発電所設置計画が同年8月に撤回されている。

 (4)福島県では、昭和村等で計画された会津大沼風力発電事業について、予定区域のほぼ全域が「会津山地緑の回廊」に指定されていることや、イヌワシやクマタカなどの国内希少動物種に指定されている鳥類のバードストライクのおそれがあることから、地元首長らが反対の意見を表明し、日本自然保護協会が反対の意見書を提出するなどしていたが、2022年8月に撤回された。

 (5)山形県では、出羽三山の一つである羽黒山周辺で40基の風車を設置する風力発電事業計画が事業者から公表されたが、「修験道の聖地として知られる出羽三山の景観を損なう」といった住民や地元首長の反対意見などから、2020年9月に撤回された。

 (6)秋田県では、鳥海国定公園に隣接する由利本荘市で計画されていた風力発電事業が、鳥海山の景観や生態系への悪影響を懸念する住民の反対や地元自治体の厳しい意見などから、2018年に撤回されている。

 また、由利本荘沖で計画されている洋上風力発電は、約13,000haの対象区域に、ブレードの上端が海面250m、回転直径が230mの風車65基を設置するというものであるが、景観破壊や騒音・低周波音による健康被害を懸念する住民から反対の声が上がっている。

第3 環境問題の解決における市民参加の必要性と有効性

1 リオ宣言とオーフス条約

(1)再生可能エネルギーの導入と地域の環境との調和をどのように実現していくかを考える上で忘れてならないのは、1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」で採択され、日本も署名した「環境と開発に関するリオ宣言」である。

 なぜなら、リオ宣言において、環境問題の最も適切な解決のために、関係市民の参加が必要であること、そして、そのためには、①環境情報の入手の権利、②意思決定過程への参加の権利、③司法・行政手続への参加権を各国が確保すべきことが国際的に合意されたからである(※6)。

(2)リオ宣言の上記合意内容は、1998年にデンマークのオーフスで採択されたオーフス条約(「環境に関わる、情報の入手、意思決定への公衆参加及び司法の利用に関する条約」)に具体化された。同条約は、2001年10月30日に発効したが、日本は未だにオーフス条約に加入していない(同条約は、国連欧州経済委員会の枠組みで採択されたものであり、日本を含む国際連合加盟国は締約国会議の承認により加入することができる)(※7)。

2 環境問題の解決における市民参加-日本の状況

(1)日本においても、リオ宣言の採択の影響もあり、環境権の解釈において、従来の私権的・人格権的な側面だけではなく、公的な意思決定過程において住民又は市民の参加を認めようとする手続的・参加的な側面もあるとの見解が有力に提唱されている。また、リオ宣言に署名し、バリガイドライン策定に関与していることからすれば、日本は、環境問題の最も適切な解決のためには関係市民の参加が有効かつ必要であるとの国際合意を是認しているはずである。

(2)もとより、自然環境とともに暮らし生活の基盤としている住民は、開発によって自然環境が失われたり変動したりすれば、生活の基盤に影響を受ける利害関係人なのであり、開発行為に対する意見表明の機会が与えられるべきである。また、地域における自然的、地理的、文化的な事情を、地域住民や関心のある市民から学ぶべき点も少なくないはずである。地域の環境保全と開発行為を含む経済活動を調整し、軋轢を回避するためにも、住民等を交えた議論が必要かつ重要なはずである(※8)。

(3)しかしながら、日本においては、環境に関わる意思決定への市民参加を権利として明文で認めた法律はなく、環境影響評価法に基づく市民の意見提出制度や再生可能エネルギー導入に関連した法律における住民参加の制度は極めて不十分と言わざるを得ない。

 この状況が、住民による開発行為への反対運動に繋がっていることが、少なからず存在するのであり、また、それは、昨今東北地方を始めとする日本全国で導入が進んでいる再生可能エネルギーの導入においても、何ら変わるところはない。

(4)したがって、再生可能エネルギーの導入と地域の環境との調和を図るためには、日本がオーフス条約に加入し、それに伴い、環境に関する意思決定への市民参加を権利として認め、その実効性を確保するための国内法制の整備、例えば、環境影響評価法に、すべての実施主体は、環境アセスメント手続の実施に際し、市民参加、説明責任及び情報公開の徹底を図るべきことを手続上の原則として明示するなどの規定整備を行うべきである(※9)。

(5)もっとも、オーフス条約への加入前であっても、目下急速に導入が進んでいる再生可能エネルギーに関し、住民参加のための制度を拡充させていくことが必要かつ重要である。以下では、再生可能エネルギーの導入に関連した法律及び条例に、どのような住民参加制度があるのか、その問題点は何かなどを検討し、あるべき制度について提案したい。

第4 再生可能エネルギー導入に関連した法制度における住民参加

 1 環境影響評価法

(1)環境影響評価法は、一定の事業の実施にあたりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要との前提に立って、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続を定め、関係機関や国民等の意見を求めつつ、環境影響評価の結果を当該事業の許認可等の意思決定に適切に反映させることを目的としているとされ、国民や地方公共団体等からの意見提出や事業者による関係地域内での説明会の制度が規定されている。

(2)しかしながら、環境影響評価の対象となるのは、一定規模以上の事業に限られる。しかも、対象事業であっても、計画立案段階において実施される配慮書手続においては、国民等からの意見聴取は努力義務に過ぎず、説明会も不要である。また、一定規模以下の事業(第二種事業)については、配慮書手続自体が不要(任意)とされている。

 加えて、風力発電に関しては、政府が、2021年に、対象となる規模要件をそれまでの0.75万kWから3.75万kWに引き上げたため(※10)、3.75万kW未満の規模の風力発電については、それを対象とする条例がない限り、環境影響評価手続が不要となった。

(3)開発事業や開発計画について、市民の意見が反映されるためには、選択肢が存在する初期段階での参加が有効である。したがって、配慮書手続において意見聴取や説明会が義務とされていないのは「市民参加」の制度として不十分と言わざるを得ない。また、規模は第一種事業に準じるものの、第二種事業も、「環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある」と認められるのであるから、配慮書手続を任意とするのは「市民参加」の点からして不十分な制度と言わざるを得ない11。

 加えて、風力発電の上記規模要件の緩和は、「脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギーの最大限の導入」が求められている等を理由になされたものであるが、その結果、5割以上の風力発電が法に基づく環境影響評価手続の対象外となったこと、実際には、5万kW未満の事業において厳しい環境大臣意見が14%も出ていたこと、0.15kWの規模でも健康被害の訴えがあること(※12)、環境影響評価条例で対応するとしても、配慮書手続を導入していない条例も少なくないことなどから、規模要件の緩和には問題があり、元に戻すべきである(※13)。

(4)また、環境影響評価図書(環境影響評価手続において作成される配慮書、方法書、準備書など)の公表や説明会開催の周知が十分ではなく、環境影響評価図書は膨大で内容も高度に専門的であるにもかかわらず、公表・縦覧期間が限られており、しかも、著作権を理由にダウンロードや印刷を制限されることが多い。このように情報へのアクセスが大きく制限された状態では、膨大かつ高度に専門的な環境影響評価図書の内容を詳細に分析することはもちろん、図書全体に目を通すこと自体極めて困難であり、市民が意見を提出する上で大きな障害となっている。したがって、「市民参加」を実効的なものとするために、環境影響評価図書の公表・縦覧について、謄写及びダウンロードができる形での実施を義務とすべきである(※14)。

2 地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)

(1)温対法は、温室効果ガスの排出の抑制等を促進するための措置を講ずること等で地球温暖化対策の推進を図ることを目的としているが、2021年の改正で、国民、国、地方公共団体及び事業者などが密接な連携のもとに地球温暖化対策を推進することなどの基本理念を新設するとともに、地域における再生可能エネルギー導入を促進するために、「地域脱炭素化促進事業制度」が新設された。

(2)地域脱炭素化促進事業制度とは、市町村が、地球温暖化対策にかかる地方公共団体実行計画の策定にあたって、太陽光発電、風力発電等の地域脱炭素化促進事業の促進にかかる事項として、促進事業の対象となる区域(促進区域)や環境配慮・地域貢献などの地域ごとの配慮事項を定めることができ、その上で、地域脱炭素化促進事業を行おうとする事業者が、事業計画を作成し、地方公共団体実行計画に適合すること等について市町村の認定を受けると、その認定事業計画に従って行う施設の整備に関し、関係許可等手続のワンストップ化(※15)や環境影響評価法の配慮書手続の省略といった特例を受けることができるというものである。

(3)そして、地方公共団体は、上記促進区域や地域ごとの配慮事項を定める場合には、あらかじめ住民その他利害関係者の意見を反映させるための措置を講ずべきことや、協議会が組織されているときは当該協議会における協議が必要とされている。協議会の構成員には、「住民その他の当該地域における地球温暖化対策の推進を図るために関係を有する者」が含まれており(温対法22条2項)、その具体例として、住民団体や環境保全団体が挙げられており(※16)、この点で住民等の意見が反映される仕組みが導入されている。

(4)改正されて間もないため、今後の運用を見守る必要があるが、協議会の組織は市町村の義務ではないし、協議会を構成する「住民団体等」の人選が適切に行われない場合には、住民の意見が十分反映されないまま地域脱炭素化促進事業計画が認定され、配慮書手続が省略される危険性がある。そうなれば、かえって地域との軋轢を深める結果となり、地域との円滑な合意形成を図りながら、環境保全にも配慮しつつ、地域共生型の再エネ事業の導入拡大を図るとした改正の趣旨を没却することになりかねない。

(5)したがって、認定事業計画に従って行う施設の整備であっても、計画立案段階において、環境影響の観点から住民等の意見を提出できる制度が保障されるべきであり、配慮書手続は省略すべきではない。

3 再生可能エネルギー電気の利用の促進にかかる特別措置法(再エネ特措法)

(1)2011年に制定された電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法、2022年の改正で「再生可能エネルギー電気の利用の促進にかかる特別措置法」となった)により、再生可能エネルギーで発電された電気を電力会社が法令で定められた価格・期間で買い取ることを義務付ける制度(固定価格買取制度、FIT制度)が導入された。

(2)これにより、再生可能エネルギー、特に大規模太陽光発電の導入が急拡大し、その結果、景観問題や健康問題、野生生物に関する問題など環境問題を理由に、発電所の設置計画に対する地域住民との軋轢が全国各地でみられるようになった。

 利益を優先した開発が乱立し、悪質なケースでは違法、脱法行為にまで至り、地域住民との間で深刻な軋轢を生じさせた。

(3)その反省から、2016年の改正で、再エネ発電事業計画の事業認定において、条例を含む法令順守義務が認定要件に加えられた(再エネ特措法9条4項1号、同施行規則5条14項)。それゆえ、住民の意見に基づいて抑制区域や禁止区域を規定した条例を制定することにより、事業認定に住民の意見を反映させることができるようになった。

 しかしながら、後述するとおり、そのようなゾーニングを規定した再エネ規制の条例を定めている地方公共団体は、未だ全体の1割未満である。

(4)したがって、再エネ特措法に住民の意見が反映される仕組みのないことが問題であり、固定価格買取制度(FIT制度)の認定要件に、住民説明会の開催や住民の意見が反映される手続を実施したことが加えられるべきであったところ、2023年5月31日に第211回国会(常会)で、周辺地域の住民に対する説明会の開催など、事業内容の周知のための措置を実施したことを、FIT制度の認定要件に追加することを含む再エネ特措法の改正案が可決・成立した。今後は、上記の新たな制度が、住民の意見が反映される手続として機能するよう、その運用を見守る必要がある。

 4 海洋再生エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)

(1)再エネ海域利用法は、洋上風力発電事業のための海域の利用を促進することを目的として2018年に制定された。国土交通大臣が、洋上風力発電事業のための海域の利用を進める「促進区域」を指定することや、発電事業者を公募によって選定することなどが定められている。一般海域における洋上風力発電事業にかかる占用許可は、国有財産法9条3項及び同法施行令6条2項に基づき、都道府県が行うこととされているが、再エネ海域利用法の制定により、促進区域内海域の占用許可を国土交通大臣が行い、占用期間も30年を超えない範囲と長期間の利用を可能とした。

(2)再エネ海域利用法では、上記「促進区域」の指定に関し、あらかじめ、指定をする旨を公告し、指定案を縦覧に供しなければならず、利害関係者が縦覧期間内に意見書を提出できることや(8条3項、4項)、協議会が組織されているときは協議会の意見を聴かなければならないこととされている(同条5項)。

(3)しかしながら、利害関係者が意見書を提出できるのは、2週間の促進区域の指定案の縦覧期間中とされており、極めて短期間である。

 しかも、提出された意見書については、協議会の意見を聴かなければならないとされているが、その協議会を構成する「関係漁業者の組織する団体その他の利害関係者」として想定されているのは、当該海域の先行利用者であり、健康被害、自然環境・景観への悪影響を懸念する沿岸住民や環境団体などが協議会に参加することは想定されていない(※17)。そうすると、環境への悪影響を懸念する住民らの声が協議会の議論に適切に反映されない可能性が高く、住民参加の制度としては甚だ不十分と言わざるを得ない。

(4)したがって、利害関係者が意見を提出できる期間については、環境影響評価制度に準じて、少なくとも1か月とすべきである。

 また、協議会を構成する「その他の利害関係者」には、住民や環境問題に関心がある者も含まれることを、海洋再生エネルギー発電設備促進区域指定ガイドライン等に明記し、それに沿った運用をするべきである。

 5 地方公共団体における条例について

(1)地方公共団体が制定する環境影響評価条例は、法の対象外の事業にも環境影響評価を義務付けたり、第二種事業について配慮書手続を義務付けたりできるため、地域の環境保全には重要な役割を果たしている。ただ、2021年3月31日時点で、全国25都道府県で環境影響評価条例に配慮書手続が規定されているが、東北地方では山形県だけである(※18)。

(2)また、再生可能エネルギー発電設備の適切な設置と自然環境等との調和を図るため、その設置等を規制することを目的とした条例(いわゆる「再エネ規制条例」)を制定する地方公共団体は近年増加しているが、2023年4月1日時点でも、制定されているのは、都道府県条例7、市町村条例229の合計236と、全地方公共団体の13%程度である。このうち、禁止区域や抑制区域等まで設定している条例(いわゆる「ゾーニング条例」)は161となっている19。

 東北6県のうち、県として再エネ規制条例を制定しているのは、宮城県と山形県だけである。また、東北地方の市町村で再エネ規制条例を制定しているのは、宮城県13、福島県5、岩手県4、青森県2、山形県と秋田県が各1の合計26市町村である(2023年4月1日時点)(※20)。

(3)開発行為等に住民の意見を反映させるためには、計画立案段階で実施される配慮書手続が重要である。したがって、地方公共団体は、環境影響評価条例に配慮書手続を導入することを進めるべきである。

 また、地域社会や自然環境・景観と調和した再生可能エネルギーの導入のために、再エネ規制条例、特に抑制区域や保全区域なども設定するいわゆるゾーニング条例は、その区域決定過程に住民の意見が適切に反映されることによって、重要な役割を果たすことが期待できる。したがって、地方公共団体は、抑制区域や保全区域などを設定することも含んだ再生可能エネルギー発電設備の設置等を規制する条例の制定を積極的に進めるべきである。

第5 まとめ

  地球温暖化対策や持続可能なエネルギー社会構築の必要性から、再生可能エネルギーの導入促進は必要なことであるが、地域社会や環境の犠牲の上に成り立つ導入であってはならず、地域との調和が必要であり、そのために地域住民らの意見が適切に反映されていくことが必要不可欠なのである。

  よって、当連合会は、住民参加の制度の拡充により、住民等の意見が適切に反映され、地域社会や自然環境・景観と調和した再生可能エネルギーの導入、ひいては持続可能なエネルギー社会の構築を真に実現させていくために、本決議をするものである。

 



(※1) 「再生可能エネルギー」とは、太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるものを指す(エネルギー供給構造高度化法)。

(※2)「導入」とは、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法の下で買取が開始された状態を指す(資源エネルギー庁)。

(※3) isep(特定非営利法人環境エネルギー政策研究所)の「国内の2021年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況(速報値)」

(※4) 資源エネルギー庁のデータより。

(※5) この問題を受けて、遠野市では、2020年3月に条例を改正し、10,000㎡以上の太陽光発電事業は許可しないとする規定を設けた。

(※6) リオ宣言の第10原則がこの合意内容にあたる。

(※7) ただし、国連の補助機関である国連環境計画は、2010年にインドネシアのバリで、欧州外の地域においてもリオ第10原則の履行を促進するための指針である「環境事項における情報アクセス、市民参加及び司法アクセスに係る国内立法の発展に関するガイドライン」(バリガイドライン)を採択したが、日本は、国連環境計画の理事国として、その策定に関与した。

(※8) 中部弁護士会連合会の2005年10月21日付「自然環境政策に対する実効的な住民参加の実現に向けた提言(宣言)」

(※9) 日本弁護士連合会は、2017年2月16日付「環境に関わる市民参加を保障するためにオーフス条約への加入と国内法制の拡充を求める意見書」や、2017年10月6日の人権擁護大会における「生物多様性の保全と持続可能な自律した地域社会の実現を求める決議」において、オーフス条約への加入と、それに伴う国内法制の整備を求めている。また、2008年11月18日付「環境影響評価法に係る第1次意見書」等でも市民参加の拡充を求めている。

(※10) 配慮書手続が必要な 「第1種事業」となる風力発電の規模要件は、1万kWから5万kWに引き上げられた。

(※11) 日本弁護士連合会の2022年11月16日付「メガソーラー及び大規模風力発電所の建設に伴う、災害の発生、自然環境と景観破壊及び生活環境への被害を防止するために、法改正等と条例による対応を求める意見書」でも、再エネ発電施設に関する環境影響評価における配慮書作成の義務付けを求めている。

(※12) 環境省「令和2年度再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会報告書」とその参考資料より。

(※13) 脚注11の日本弁護士連合会の意見書も同旨。

(※14) 脚注11の日本弁護士連合会の意見書も同旨。

(※15) 自然公園法に基づく国立・国定公園内における開発行為の許可等、温泉法に基づく土地の掘削等の許可、農地法に基づく農地の転用の許可、森林法に基づく民有林等における開発行為の許可などについて、あったものとみなされる。

(※16) 環境省「地方公共団体実行計画(区域施策編)策定・実施マニュアル(地域脱炭素化促進事業編)」2023年3月

(※17) 「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」13頁

(※18) 環境省環境影響評価情報支援ネットワークの資料より。

(※19) 一般財団法人地方自治研究機構の「太陽光発電設備の規制に関する条例」ページより。なお、同ページで記載の規制条例数は、再生可能エネルギー(全般)及び太陽光に関するものとなっており、風力等のそれ以外の再生可能エネルギーに関するものは含まれていない。また、「再エネ規制条例」とは、再生可能エネルギー発電設備の設置について、自然環境や生活環境等との調和を図る観点から、届出、協議、確認、同意、許可、認定、禁止等のいずれかの手続や立地規制を課す条例を意味する。

(※20) 当段落の東北6県での数は、再生可能エネルギー(全般)のほか太陽光、風力等の再生可能エネルギー単独に関するものも含む再エネ規制条例を制定している地方公共団体の数である。