仙台高等裁判所第1民事部(石栗正子裁判長、鈴木綱平裁判官、竹下慶裁判官)は、2023年6月1日、旧優生保護法に基づく優生手術を強制された被害者に対し、除斥期間を適用して被害者の請求を棄却した原審判決を維持し、控訴を棄却する判決を言い渡した。

 本件は、2018年1月30日、旧優生保護法に関する被害に関し、全国で初めて国家賠償法に基づく損害賠償を求める訴訟を仙台地方裁判所に提起した事件で、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)が2019年4月24日に成立する契機となった事件であり、その後に続く同種訴訟の先鞭となったものである。しかも、当事者の一人は、長年にわたり被害回復を求め、日弁連に人権救済申立を行うなどして、本件を世に問うた最初の勇気ある被害者であった。

 ところが、本件訴訟の一審判決は、一時金支給法が成立した翌月の同年5月28日に、旧優生保護法は憲法違反であることを認めたものの、除斥期間を理由に原告の請求を棄却した。

 しかし、その後、2022年2月22日には大阪高等裁判所が、同年3月11日には東京高等裁判所が、いずれも国に損害賠償を命ずる判決を下し、また、各地方裁判所においても、2023年1月23日には熊本地方裁判所が、同年2月24日には静岡地方裁判所が、同年3月6日には仙台地方裁判所が、同月16日には札幌高等裁判所が、同月23日には大阪高等裁判所が、それぞれ国に損害賠償を命じる判決を下している。

 これらの判決の積み重ねによって、優生手術により尊厳を奪われた被害者に対し、除斥期間を適用することは著しく正義・公平の理念に反するという司法の判断は大方固まったというべきである。また、これらの判決が、一時金支給法で定められた一時金の額を大幅に上回る賠償額を認めていることからすれば、同法による補償が不十分であることも明らかである。

 それにもかかわらず、本判決が、甚大かつ過酷な被害実態を認定しながら、除斥期間の適用について各地の高等裁判所・地方裁判所が示した一連の判断の流れと逆行する結論を導いたことは、国が被害者の人権と尊厳を蹂躙し、かつ優生思想に基づく差別や偏見を放置して被害者の権利行使を抑制し続けてきた事実から目を背けたものというほかない。しかも、前記の通り、日弁連への人権救済申立などを行い、被害実態を訴え続け、それによって多くの被害者の救済の道を開いた当事者について、その救済申立などの行動を理由にして除斥期間の適用を容認した判断は、勇気ある行動を起こした者が逆に救済の道を閉ざされるという不合理な事態を生じさせ、被害者を救済される者と救済されない者とにいわば分断するものであり、到底容認できない。

 被害者の多くは高齢であり、すでに亡くなられた方も多い現実を前にして、一刻も早い救済が求められている。旧優生保護法による被害が重大な人権侵害であることはもはや自明の事実である以上、国の損害賠償責任を否定した本判決にかかわらず、すべての被害者に対し、一刻も早い全面的解決が図られるべきである。

 よって、当連合会は、国に対し、改めて被害者に対する謝罪を求めるとともに、一時金支給法の抜本的な見直しなどにより、全ての被害者に対して迅速かつ十分な被害回復の措置を行き渡らせることを強く求めるものである。


                 2023年(令和5年)6月10日

                    東北弁護士会連合会   

                     会 長  虻 川 高 範