仙台弁護士会は,仙台家庭裁判所からの家事調停委員推薦依頼に対して,2006年(平成18年)1月,2007年(平成19年)11月,及び2009年(平成21年)12月の3回にわたって,韓国籍会員を候補者として推薦したが,いずれの場合も,「日本国籍を有しない者の調停委員就任は認められず,韓国籍会員については最高裁判所に任命上申しない。」との回答がなされた。仙台弁護士会は,その都度,日本国籍の有無にかかわらず適任者を任命する扱いとするよう求めてきた。

最高裁判所事務総局人事局任用課は,日本弁護士連合会の照会に対し,「公権力の行使に当たる行為を行い,もしくは重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とする公務員には,日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ,調停委員・司法委員はこれらの公務員に該当するため,その就任のためには日本国籍が必要と考えている。」と回答している。

しかしながら,法律にも最高裁判所規則にも,調停委員について日本国籍を要求する条項は存在しない。調停制度は,当事者間の互譲による合意に基づいて民事又は家事の紛争を解決する制度であり,調停委員の役割は,当事者の互譲による合意形成を支援することにあるから,調停委員は,公権力を行使するものでも,重要な施策に関する決定を行うものでもない。日本の社会制度や文化,そこに住む市民の考え方に精通し,高い人格識見のある人であれば,日本国籍の有無にかかわらず,調停委員としての役割を果たすことができることは明らかである。
したがって,日本国籍を有しないとの理由のみで調停委員に任命しないことは,不合理な差別であり,憲法14条が定める平等原則に違反するとともに,外国人にも保障された憲法13条の幸福追求権,憲法22条の職業選択の自由をも不当に侵害するものである。
また,多民族・多文化共生社会の実現の観点に照らしても,国籍の有無にかかわらず,調停委員への就任を認めることは当然の要請である。とりわけ,日本国籍を失ったまま日本での生活を余儀なくされ,日本社会の構成員となっている旧植民地出身者等の特別永住者については,職業選択の自由および幸福追求権(自己決定権)が最大限尊重されるべきである。

そのうえ,最近になって,日本国籍を有しない大阪弁護士会所属の張有忠弁護士が,1974年(昭和49年)1月から1988年(昭和63年)3月まで14年余りにわたり,外国籍のままで民事調停委員に任命され,何ら支障なく調停委員としての職務を行い,大阪地方裁判所所長より表彰を受けていることが判明した。これにより,調停委員に就任するには日本国籍が必要であるとの上記最高裁判所事務総局人事局任用課の回答が,具体的事実に反し不合理であることが明らかとなっている。

よって,当連合会は,仙台家庭裁判所に対し,「弁護士となる資格を有する者,民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門知識を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い満40歳以上70歳未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)であれば,日本国籍の有無にかかわらず積極的に家事調停委員として任命上申を行うよう求めるとともに,最高裁判所に対し,民事調停委員及び家事調停委員規則1条の要件を充足する者であれば,日本国籍の有無にかかわらず積極的に民事調停委員及び家事調停委員に任命するよう求める。

以上のとおり決議する。

 

2011年(平成23年)7月8日
東北弁護士会連合会

 

 

提 案 理 由

 

1 仙台弁護士会は,2006年(平成18年)1月,仙台家庭裁判所からの家事調停委員推薦依頼に対して,韓国籍会員を候補者として推薦したところ,裁判所からは,「調停委員に就任するには,日本国籍が必要であり,日本国籍を有しない者を推薦されても,最高裁判所に上申することはできない。」との連絡があり,当該会員の推薦を撤回せざるを得なくなった。
また,仙台弁護士会は,2007年(平成19年)11月,2009年(平成21年)12月にも,仙台家庭裁判所からの家事調停委員推薦依頼に対して,上記韓国籍会員を候補者として推薦したが,同家庭裁判所からは,韓国籍会員については最高裁判所に上申しない旨の回答がなされた。
日本弁護士連合会から最高裁判所に対し,調停委員・司法委員の採用について日本国籍を必要とする理由について照会したところ,最高裁判所事務総局人事局任用課より,2008年(平成20年)10月14日付で,「最高裁判所として回答することは差し控えたいが,事務部門の取扱は以下の通りである。」として,法令等の明文上の根拠規定はないとしながらも,「公権力の行使に当たる行為を行い,若しくは重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とする公務員には,日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ,調停委員及び司法委員はこれらの公務員に該当するため,その就任のためには日本国籍が必要と考えている。」との回答がなされた。

2 このような取り扱いに対して,仙台弁護士会は,最高裁判所及び仙台家庭裁判所に対し,2006年(平成18年)3月31日付で,民事調停員規則及び家事調停委員規則の定める要件を充足する限り,日本国籍の有無を問わず,調停委員に任命するべきである旨の申し入れを行った。
また,2008年(平成20年)2月23日,「日本国籍を有しない者の調停委員任命を求める決議」を採択し,更に,2010年(平成22年)1月28日,「調停委員推薦に対する仙台家庭裁判所の対応に抗議する会長声明」を表明している。
なお,仙台弁護士会以外の弁護士会が日本国籍を有しない者を調停委員に推薦した事例においても,同様の理由から任命上申が拒否されており,日本弁護士連合会,近畿弁護士会連合会及び各地の弁護士会は,以下のとおり意見を表明している。それにもかかわらず,現在まで,日本国籍を有しない者の調停委員就任は実現していない。

① 2005年(平成17年)11月25日 近畿弁護士会連合会
「外国籍者の調停委員任命を求める決議」
② 2007年(平成19年)12月5日 兵庫県弁護士会
最高裁判所に任命の上申をしないとの取り扱いを直ちに撤回し任命の上申をすること,等を求める申入書
③ 2008年(平成20年)3月27日 東京弁護士会
「外国人の調停委員採用拒否に対する意見書」
④ 2009年(平成21年)3月18日 日本弁護士連合会
「外国籍調停委員・司法委員の採用を求める意見書」
⑤ 2010年(平成22年)1月20日 大阪弁護士会
「外国籍会員の家事調停委員任命上申拒否に関する会長声明」
⑥ 2010年(平成22年)2月1日 兵庫県弁護士会
「国籍の如何を問わず調停委員の採用を求める会長声明」
⑦ 2010年(平成22年)1月20日 東京弁護士会
「繰り返される外国籍会員の任命上申拒絶に対する会長声明」
⑧ 2010年(平成22年)3月10日 近畿弁護士会連合会
「外国籍者の調停委員任命拒絶に抗議する決議」
⑨ 2010年(平成22年)3月25日 京都弁護士会
「外国籍弁護士を調停委員の任命から排除しないことを求める会長声明」
⑩ 2010年(平成22年)11月30日 兵庫県弁護士会
「外国籍弁護士の調停委員推薦が拒否された件に関する緊急声明」
⑪ 2011年(平成23年)3月30日 日本弁護士連合会
「外国籍調停委員任命問題について(要望)」

3 日本国籍を有しない者の公務員就任の可否に関しては,「法の明文の規定でその旨が特に定められている場合を別とすれば,一般にわが国籍の保有がわが国の公務員の就任に必要とされる能力要件である旨の法の明文の規定が存在するわけではないが,公務員に関する当然の法理として,公権力の行使又は国会意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とするものと解すべきであり,他方においてそれ以外の公務員となるためには日本国籍を必要としないものと解せられる。」(1953年(昭和28年)3月25日 法制局1発29号)という,いわゆる「当然の法理」という見解が存在する。
また,最高裁判所は,東京都管理職選考国籍条項判決(最高裁判所平成10年(行ツ)第93号,同17年1月26日大法廷判決)において,「住民の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなど公権力の行使に当たる行為を行い,もしくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については,…原則として日本国籍を有するものが公権力行使等地方公務員に就任することが想定されていると見るべきである。」と判示しており,日本国籍を有しない者を調停委員に任命しないとする前記最高裁判所の回答は,この判決と同様の見解を採用しているものと思われる。

4 憲法第3章に規定される基本的人権は,権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き,我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶと解すべきである(最高裁判所昭和50年(行ツ)第120号,同53年10月4日大法廷判決)。人権の前国家的性格(憲法前文,11条,97条)に鑑みても,憲法上保護されるべき権利は,本来国籍を問わず等しく尊重されなければならない。
日本国憲法14条1項は,「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」と定めるところ,その趣旨は,全ての人間の人格の価値を平等とするところにあり,同条項が保障する法の下の平等原則は我が国に在留する外国人にも及ぶ(最高裁判所昭和37年(あ)第927号,同39年11月18日大法廷判決)。同様に,憲法22条1項が保障する職業選択の自由も外国人に及ぶと解すべきである。

5 そもそも,法令上,日本国籍を有することは調停委員任命の要件とされておらず,民事調停委員及び家事調停委員の任命については,民事調停法8条2項及び家事審判法22条の2の2項が,「その任免に関し(て)必要な事項は最高裁判所が定める。」と規定するのみである。
そして,民事調停法8条2項及び家事審判法22条の2の2項を受けた民事調停委員及び家事調停委員規則1条は,「民事調停委員及び家事調停委員は,弁護士となる資格を有する者,民事若しくは家事の紛争の解決に必要な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満の者の中から,最高裁判所が任命する。ただし特に必要がある場合においては,年齢四十年以上七十年未満であることを要しない。」と規定するのみである。さらに同規則2条が定める欠格事由の中にも国籍要件の定めはない。

前記最高裁判所の見解は,日本国籍を有しない者については,憲法上保障されるべき諸権利を法令上の規定が無くとも制限し得るものと解しているが,「公権力の行使に当たる公務員」という抽象的な基準により,具体的な職務内容を考慮することなく,一律に全て日本国籍を有しない者を調停委員に任命しない取扱いとすることは,在日外国人,特に特別永住者の法の下の平等,職業選択の自由,幸福追求権を軽視し,法治主義に反すると言わざるを得ない。

6 調停委員の具体的職務内容に照らしても,日本国籍を必要とすることに合理的な理由は無い。
すなわち,調停制度の目的は,市民間の民事紛争につき,当事者の話し合いと合意に基づき,裁判手続きによらず解決することにあり,調停制度は,日本における裁判外紛争解決手段(ADR)の典型の一つと位置付けられる。当事者の互譲により,条理にかない実情に即した解決を目的とする制度であり,当事者の合意を本質とするものである。
そして,調停委員の本質的役割は,専門的知識もしくは社会生活の上での豊富な知識経験を活かして,当事者の紛争解決を支援することにあり,日本の社会制度や文化,住民の考え方に精通した高い人格見識のある者であれば,国籍の有無にかかわらず役割を果たすことが充分に期待できるのである。
このような資質は,日本国籍によってではなく,日本で長く生活して得た社会的知識経験や職業から得た専門的知識経験の豊かさによって形成されるのであるから,日本国籍を有していることは,調停委員の役割を果たすための要件としては不要であり,日本国籍を有することを就任の要件とすることは,むしろ,貴重な適任者を採用する機会を逸し,調停制度の趣旨の実現に反する。
日本国籍を有しない者の人権が国民主権の見地から制約し得るとしても,その範囲は,当該職務内容に照らして,当該職種への就任を認めることが国民主権の原理と本質的に両立しないものに限定されると解すべきであり,特別永住者などの日本国籍を有しない者がわが国において置かれている立場を十分考慮した上で真にやむを得ない理由が認められるときに法律によって制限する場合のみ正当化し得ると言うべきである。
前記東京都管理職選考国籍条項最高裁判決における滝井繁男裁判官及び泉徳治裁判官の少数意見は,上記のような見解を表明するものである。すなわち,滝井裁判官の少数意見は,「国民主権の見地から当然の帰結として日本国籍を有するものでなければならないものとされるのは,国の主体性の維持及び独立の見地から,統治権の重要な担い手になる職だけであって,地方行政機関については,その首長など地方公共団体における機関責任者に限られる。」と述べ,さらに「その職務の性質を問うことなく,すべての管理職から一律に外国人を排除することには合理性がない。」としている。
また,泉裁判官の少数意見は,「国民主権は,国家権力である立法権・行政権・司法権を包含する統治権の行使の主体が国民であること,すなわち,統治権を行使する主体が,統治権の行使の客体である国民と同じ自国民であること(これを便宜上「自己統治の原理」と呼ぶこととする。)を,その内容として含んでいる。」と述べた上で「地方公共団体が自己統治の原理から特別永住者の就任を制限できるのは,自己統治の過程に密接に関係する職員,換言すれば,広範な公共政策の形成・執行・審査に直接関与し自己統治の核心に触れる機能を遂行する職員,及び警察官や消防職員のように住民に対し直接公権力を行使する職員への就任の制限に限られるというべきである。自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員への就任の制限を,自己統治の原理でもって合理化することはできない。」として,「特別永住者の法的地位,職業選択の自由の人格的側面,特別永住者の住民としての権利等を考慮すれば,自治事務を適正に処理執行するという目的のために,特別永住者が自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員となることを制限する場合には,その制限に厳格な合理性が要求されるというべきである。」としている。

7 最高裁判所事務当局によれば,調停委員に日本国籍を要求する実質的な理由として,「①調停委員は裁判官と共に調停委員を構成して調停成立に向けて活動を行い,調停委員会の決議はその過半数の意見によるとされていること,②調停調書の記載が確定判決と同一の効力を有すること,③調停委員会の呼出,命令,措置には過料の制裁があること,④調停委員会は,事実調査及び必要と認める証拠調べを行う権限等を有していること」などを指摘する。
しかしながら,調停委員は説得調整活動を職務とするものであり(民事調停法8条1項,家事審判法22条の2第1項),職務の性質,実態,職務遂行のために付与された権限の性質,内容等に照らして,調停委員が国家意思の形成に参画するものではなく,公権的判断を行うものとは認められない。
上記①ないし④は,いずれも日本国籍を有しない者を調停委員から排除する理由とはなり得ないというべきである。
すなわち,上記①については,調停委員が決議(意思決定)をする場合としては,裁判所外での調停の開催(民調規則9条,家審規則132条),代理人等の許可(民調規則8条2項,家審規則137条,5条2項,3項),傍聴の許可(民調規則10条但書,家審規則137条,6条但書),家裁調査官の期日出席及び意見陳述(家審規則137条,7条の4,7条の7),調停の拒否(民調法13条,家審規則138条),調停の不成立(民調法14条,家審規則138条の2)等があるところ,それらの決議に調停委員が関与したからといって,調停委員が当事者の権利を公権的に制約するものではない。
また,調停に代わる決定(民調法17条)も,「裁判所は,調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは,当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で,事件解決のために必要な決定をできる。」と規定されており,決定をするのは,裁判所であって,調停委員ないし調停委員会ではないし,実務上も,調停に代わる決定は,当事者による合意形成に資する範囲で謙抑的に運用されていることは周知の事実である。
上記②については,調停調書の記載は既判力を有しておらず(最高裁昭和31年3月30日第二小法廷判決・民集10巻3号242頁,基本法コンメンタール「民事訴訟法2」第3版320頁),調停委員は当事者間の合意成立に向けて関与するが,その効力は,当事者の合意に由来する。
また,調停条項の裁定の実質は仲裁であり,公権力の行使ということはできない。
上記③については,過料の制裁は,裁判所が決定するものとされ,調停委員ないし調停委員会が判断するのではない。「正当な事由」の有無の判断も裁判所が行うことが予定されており,さらに,その執行は,裁判官又は家事審判官の命令によるとされていることから,過料の制裁は調停委員会の権限に含まれない。
上記④については,事実の調査は強制力を有しておらず,証拠調べに関し「民事訴訟の例による」とされているだけで強制力を伴う民事訴訟法規が「適用される」ものではなく,強制的に権限行使が認められているわけでないので,対象者の意思を制圧することはない。
以上により,上記①ないし④は,日本国籍を有しない調停委員を排除する合理的理由とはならない。むしろ,調停委員の職務内容及び権限は,法により,当事者の合意による紛争解決を支援する限度で認められているにすぎない。
よって,調停委員は「公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員」に該当しない。調停は,当事者間の合意によって紛争を解決するものであり,公権力の行使によって紛争を解決するものではないのである。

8 多民族,多文化共生社会の実現の観点に照らしても,日本国籍を有しない者の調停委員任命は実現されるべきである。
2010年(平成22年)7月7日に入国管理局が公表した統計によれば,日本における外国人登録者数は,2009年(平成21年)時点で218万人を超え,外国人登録者の国籍は189カ国に上っている。さらに,朝鮮や台湾などの旧植民地出身者で日本国籍を取得した者,長期の在留を経て日本国籍を取得した者など,民族的少数者としての立場にある者も多数居住し,日本では多民族・多文化への傾向が急速に進展している。
日本は,この20年あまりの間に,国際人権(自由権)規約,国際人権(社会権)規約,難民の地位に関する条約,女性差別撤廃条約,子どもの権利条約,人種差別撤廃条約,拷問等禁止条約などの国際人権条約を批准・加入した。
したがって,憲法98条2項(条約及び国際法規遵守の必要性)に照らしていかなる差別をも禁止し,法の下の平等を定めた国際人権(自由権)規約26条,締約国の差別撤廃義務などを定めた人種差別撤廃条約2条,5条は国内的にも実現されねばならない。
人種差別撤廃条約などを受けて,国連は2000年(平成12年)2月反人種差別モデル国内立法を公表し,欧米各国はそれに先立ち,1970年代から人種・国籍・民族による雇用その他の差別を禁止する法律を制定している。
また,日本弁護士連合会は,2004年(平成16年)10月8日,第47回人権擁護大会(宮崎県)において,永住外国人等の地方参政権付与をはじめとする立法への参画,公務員への就任など行政への参画,司法への参画を広く保障することを求め,「多民族・多文化の共生する社会の構築と外国人・民族的少数者の人権基本法の制定を求める決議」を採択している。
多様な出自や社会的経験に基づく様々な考え方,見地から,種々の紛争が適切に解決されることは,調停制度の趣旨に合致するものであり,そのことは多民族,多文化共生社会の実現を目指す上でも意義深く,より成熟した国際協調主義(憲法前文,98条2項)に適うものである。
とりわけ,日本には,サンフランシスコ平和条約発効に伴う1952年(昭和27年)4月19日の法務府(現法務省)民事局長通達により,一方的に日本国籍を奪われた旧植民地出身者及びその子孫などの特別永住者が,2006年(平成18年)末日現在で約40万人という多数が存在する。これらの人々は,生涯日本で暮らすことを前提に日本社会の構成員となっており,その生活実態において日本国民と何ら異なるところがない。これらの人々の調停委員に選任されるなどの諸権利については,最大限尊重されるべきである。

9 以上のとおり,日本国籍を有しないことを理由に調停委員就任を拒否する取扱いには合理的な理由は認められないところ,最近になって,1974年(昭和49年)1月から1988年(昭和63年)3月まで,日本国籍を有しない張有忠弁護士(大阪弁護士会所属)が外国籍のままで民事調停委員に任命され,14年余りにわたり何らの支障なく調停委員としての職務を行い,大阪地方裁判所所長より表彰を受けていることが判明し,その結果,日本国籍を有しない者が調停委員の職務を行うことに何ら不都合ないし問題はなく,前記最高裁判所事務総局人事局任用課の回答が,具体的事実に反し不合理であることが明らかとなったといえる。

10 よって,当連合会は,仙台家庭裁判所に対し,「弁護士となる資格を有する者,民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門知識を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い満40歳以上70歳未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)であれば,日本国籍の有無にかかわらず積極的に家事調停委員として任命上申を行うよう求めるとともに,最高裁判所に対し,民事調停委員及び家事調停委員規則1条の要件を充足する者であれば,日本国籍の有無にかかわらず積極的に民事調停委員及び家事調停委員に任命するよう求めるべく,本決議を提案するものである。

以上