東日本大震災が発生した2011(平成23)年3月11日から3年を経過した。しかし、被災地の復興は依然として進んでおらず、復興庁の発表によれば、2014(平成26)年2月13日の時点で、被災3県のみで約21万人の被災者が仮設住宅での生活を余儀なくされている。 被災者にとって、家族とともに平穏に生活できる住宅を確保することは、最重要課題の一つであり、その確保が延びれば延びるほど被災者は疲弊し、生活への希望を失ってしまいかねない。

復興事業を円滑に推進するためには、事業用地を迅速に確保できる必要があり、とりわけ、集団移転を伴う復興整備事業においては、移転先となる高台用地が確保されないかぎり、事業はまったく進まないことになってしまう。 しかし、この事業用地に関しては、対象とされる土地が数代前の名義人のまま遺産分割が未了である場合、あるいは、所有者が不在である場合や死亡した所有者に相続人が存在しない場合等々、用地取得に困難が伴うケースが相当数にのぼることが判明しており、また、未だ権利者調査すら進んでいないケースも多数存在している。

国は、「住宅再建・復興まちづくりの加速化措置」により、用地取得の迅速化や財産管理制度手続の迅速化・円滑化等一定の措置を講じているが、いずれも従来の法制度を前提とするものであり、復興事業推進のための抜本的な対策になり得るものではない。

当連合会は、昨年7月5日に開催した定期大会において、「被災地の復興を促進するため、新たな法制度及び制度の改正・改善を求める決議」を満場一致で採択し、その中で、「防災集団移転促進事業の移転先や防潮堤の設置については、用地確保の場面で、相続関係が未処理のままの不動産の処理が問題となっている」こと、「既存の法制度にとらわれることなく、未曾有の大震災からの復旧復興の場面であるという特殊な状況であることを踏まえ、状況にあった、大胆な立法措置が求められる」こと等を指摘し、「被災地域における、相続の手続が未処理の不動産について、復興に資するため、迅速に自治体が購入できるようにする特別法を新設すること」を求めた。

今般、当連合会は、上記決議の趣旨をさらに推し進め、震災復興事業を迅速かつ円滑に推進する必要性と憲法が保障する私有財産制・適正手続との整合性を図る見地から、以下の各内容を盛り込んだ特例法を制定することを強く要望する。

1 特例法の対象地域は、東日本大震災復興特別区域法(以下「復興特区法」という)の対象地域に限られるとするとともに、特例法の対象事業を復興特区法に基づく復興整備協議会が同意する被災者の生活再建に関して高い公共性を有する事業に限定すること。 復興特区法の対象地域内での事業促進を目的とする以上、特例法の対象地域を復興特区法の対象地域に限定するとともに、同法に基づく復興整備協議会を活用し、被災者の生活再建に関する高度の公共性を要件としたうえで、同協議会の同意があれば公共性が認定されるとすることで、事業認定までの期間を大幅に短縮することができることになる。

2 復興整備協議会による事業の公共性の認定に先立ち、住民票、戸籍、不動産登記簿等の調査を通じて判明する限度で土地所有者等の調査を行い、この調査により判明した地権者と既に知れたる地権者に対しては、事前説明会の開催や事業に関する通知等を通じて、意見を述べる機会を付与すること。

迅速かつ円滑な復興推進を妨げない限度で、財産権の制限を受ける対象地域の地権者に対しては、適正手続保障の見地から、その権利保障を可能な限り行うべきである。

3 独立性の高い第三者機関を設置し、この第三者機関が、復興整備協議会が同意した事業に用いる土地の区域の確定と補償額の決定を行い得るものとすること。

第三者機関を設置して、復興事業に伴う用地確保手続や補償事務を同機関に委ねることで、事業者は復興事業の推進に集中することが可能となる。

4 第三者機関が決定した補償見積額の総額を事業者が予納した場合、第三者機関は、事業者が土地を使用して工事に着工することを許可できるものとすること。

補償額の具体的分配等が未了でも、事業者が補償見積額の総額を予納した時点で工事着工が可能となれば、事業の推進が加速されることになる。

5 第三者機関は、補償見積額の総額の決定後、一筆の土地ごとの補償額を決定し、さらに、事業者が補償見積額との差額を納付することを条件に土地の取得決定を行うものとし、これにより、事業者が土地所有権を取得できるものとすること。

このような仕組みとすることで、個別的権利者に対する支払の完了を待たずに事業者が土地所有権を取得できることになり、事業が推進される。

6 第三者機関は、一筆の土地について補償額を決定した後、一筆の土地にかかる権利者ごとの個別の補償額をも確定するものとし、土地所有者の捜索や補償金の支払及び供託の手続も、第三者機関が相当期間内に行うものとすべきこと。

土地所有者の特定や権利者各人への支払等については、事業者による所有権取得後に、第三者機関が相当期間内に責任をもって処理する制度とすることで、事業の推進と権利者の保護を図り得ることになる。

7 第三者機関による土地の区域の確定、補償総額の決定、個別的補償額の決定等の各段階において、適切な不服申立の機会を設けること。

私有財産制及び適正手続保障の見地から、特例法によって所有権を喪失する地権者に対しては、不服申立の機会が十分に確保されるべきである。

2014(平成26)年3月22日
東北弁護士会連合会
会長 高橋 耕