政府は、本年秋に予定されている臨時国会以降に、いわゆる「共謀罪」の創設を柱とする「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」の改正案(以下「共謀罪法案」という)を国会に提出する方針であると報道されている。

 

「共謀罪法案」は、過去3度廃案になっている。過去に廃案となった「共謀罪法案」は、長期4年以上の刑を定める600以上もの犯罪について、団体の活動として組織的に行われる犯罪の遂行を共謀した場合に、2年ないし5年以下の懲役あるいは禁錮を科すというものであった。犯罪行為の結果も、実行行為も、それどころか準備行為すら存在しない段階で、単に犯罪を共謀したというだけで処罰の対象とするところに「共謀罪」の本質がある。一旦共謀してしまえば、最終的に思いとどまったとしても「共謀罪」は成立する。

 

近代刑法は、国民の内心の自由の保障と国家権力の濫用を防ぐため、犯罪の意思を有するだけでは処罰せず、目に見える外形的な行為が行われたときに初めて処罰の対象とすることを原則とし、わが国の刑事法体系においても必要な場合に限って未遂を処罰し、ごく例外的に極めて重大な犯罪に限って着手以前の予備を処罰している。ところが、「共謀罪」は人の内心の意思のみをもって人を処罰することと等しく、国家権力がこれを濫用して国民の内心を監視し、国民の内心の自由が侵害されるおそれがある。また、実行行為がなくても犯罪が成立するため、何をどの程度話し合って合意すれば「共謀罪」に当たるのかという範囲が広範かつ不明確であり、犯罪や刑罰が、事前に、具体的かつ明確に法律で定められていなければならないという罪刑法定主義に反するおそれもある。

 

実行行為も準備行為もない段階で処罰する「共謀罪」を捜査するためには、捜査官が共謀の事実を把握する必要があり、その捜査手法としては、通信傍受が極めて有効である。当連合会は、2014年(平成26年)5月10日、「『通信傍受の合理化・効率化』に反対する会長声明」を発し、いわゆる通信傍受の対象犯罪の拡大や手続の簡略化について強く反対したが、現在、それらを含む「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が国会に上程され、審議されている。この法律案が成立し、さらに「共謀罪法案」が成立することになれば、いずれ通信傍受の対象に「共謀罪」を加えようとする動きが強まり、平穏な市民生活が脅かされる危険が生じかねない。

 

政府は、テロ組織やマフィアなどの犯罪集団による国際的犯罪に対応するため「共謀罪法案」の創設が不可欠であり、テロ組織根絶を目指すFATF(テロ資金根絶を目指す政府間組織「金融活動作業部会」)からも、2000年(平成12年)12月に日本が署名した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(国連越境組織犯罪防止条約)を批准するための国内法整備を要請されており、そのためにも「共謀罪法案」が必要である、と説明してきた。

しかし、すでに我が国の現行法上、刑法をはじめとする個別の法律において、内乱予備・陰謀罪、外患に関する予備・陰謀罪、私戦に関する予備・陰謀罪、殺人予備罪等、テロと関連しうる各種の予備・陰謀罪が定められており、テロ行為に関しては未遂に至らない予備または陰謀の段階での犯罪を処罰することが可能である。このことから、国連越境組織犯罪防止条約を批准することは現行法制下においても十分に可能であって、「共謀罪」を新設する必要性は全くない。

 

以上の通り、「共謀罪法案」は、近代刑法の大原則を大きく逸脱し、国民の内心の自由を侵害するおそれがあるとともに、罪刑法定主義に反するおそれもある。また、「共謀罪」を新設する必要性は存在せず、かえってこれを新設することによって通信傍受の対象に「共謀罪」を加えようとする動きが強まり、平穏な市民生活を脅かす危険がある。

よって、当連合会は、「共謀罪」の新設に強く反対する。

2015年(平成27年)7月2日
東北弁護士会連合会
会長 宮本多可夫