1948年に成立した旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを「目的」とし、同法が母体保護法に改正された1996年までの約50年間に、同法に基づく不妊手術である優生手術約2万5000件、人工妊娠中絶約5万9000件合計約8万4000件にも達する手術を行わせ、多くの被害者の尊厳を奪った。
1996年、国会は「障害者差別に当たる」として同法の優生条項を廃止したが、被害者への謝罪や補償を行わなかった。法律に基づき強制不妊手術を実施したドイツ、スウェーデンでは2000年を迎える前に謝罪と補償の措置を取っており、国連の自由権規約委員会及び女性差別撤廃委員会は、日本に対し、被害者に対する謝罪や補償について、度々勧告を行ったが、日本政府は、一貫して「当時は合法であった」として、謝罪も、補償も、実態調査も拒否し続けた。
そのため、2018年1月30日、15歳の時に優生手術を強制された宮城県在住の60代女性が、全国で初めて国家賠償法に基づく損害賠償請求訴訟を仙台地方裁判所に提起し、2019年5月28日、本件に関する全国初の判決がなされた。
判決は、結論において原告らの請求を棄却したものの、子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)は憲法13条が保障する基本的権利であるとし、不良な子孫の出生防止を目的に優生手術を強制した旧優生保護法は憲法違反であることを認めた。さらに、判決は、優生手術による被害者の権利侵害の程度は極めて甚大であり、損害賠償請求権を行使する機会を確保する必要性が極めて高いことを指摘した上、旧優生保護法の存在自体が損害賠償請求を妨げてきたこと、社会には旧優生保護法が広く押し進めた優生思想が根強く残っていたこと、被害者が優生手術の客観的証拠を入手するのも困難だったこと、被害者が手術から20年の除斥期間を経過する前に損害賠償請求を行うのは現実的に困難であることをあげ、損害賠償請求権行使の機会を確保するための立法が必要不可欠であったことも認めた。
他方、国は、優生手術等の被害の深刻さと被害回復の必要性から、2019年4月24日、全国初の提訴から約1年3か月という短期間で、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(いわゆる「一時金支給法」)を制定した。しかし、この一時金支給法は、旧優生保護法が憲法違反であることを前提にしておらず、その支給額は320万円と非常に少ない金額であり、被害者の被害回復は不十分なものとなっている。また、優生手術等の被害に遭ったことさえ知らない被害者が依然として多数存在する実態がある一方で、被害回復を行うべき国は、こうした被害者にアクセスする方策を整備していないことから、その不十分な補償でさえ、被害者のもとに届いておらず、被害者約2万5000人のうち、請求をした人は289人(東北6県は52人、同年6月23日時点)、認定された人はわずか26人(東北6県は12人、同年6月30日時点)にとどまる。
そこで、当連合会は、国に対し、被害者のプライバシーに配慮した個別通知の実施など、柔軟な運用をして補償を行うこと、及び、仙台地方裁判所の上記判断を踏まえ、旧優生保護法が憲法違反であることを前提とした、被害の全面回復を実現させるための法律の制定または一時金支給法の改正を求める。
2019年(令和元年)7月4日
東北弁護士会連合会
会長 石橋乙秀
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