東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故の発生から、本年3月11日をもって15年が経過した。震災及び原発事故により犠牲となられた全ての方々に、改めて深い哀悼の意を表する。
当連合会管内の各弁護士会においては、発災直後から被災者一人ひとりの「人間の復興」を果たすべく、法律相談や在宅被災者への戸別訪問による支援活動、裁判外紛争解決手続き(震災ADR)におけるあっせん、原子力損害賠償紛争解決センターへの和解仲介手続申立の支援などを実施して被災者・被災地の復旧・復興に向けた支援を行うとともに、二重ローン問題、災害救助法・被災者生活再建支援法・災害弔慰金法をはじめとする災害関連法制の諸課題や、原子力損害賠償にかかる中間指針の改訂の必要性等を指摘し、改善に取り組んできた。
この間、被災地の復旧・復興には一定の進展がみられる一方で、被災者の生活再建には依然として深刻な格差が存在し、長期避難、地域コミュニティの分断、孤立、貧困等の問題が顕在化している。また、原発事故による被害はいまだ終結しておらず、避難生活の長期化、帰還の困難、帰還地域の過疎化と高齢化、コミュニティの崩壊等の問題が深刻化している。さらに、原発事故による風評被害、賠償金額の不十分さ、直接請求手続の複雑さに加え、被害者に対する差別や偏見、賠償格差を背景とした被害者間の軋轢・分断は、形を変えて継続している。
当連合会をはじめ各地の弁護士会が提言してきた「災害ケースマネジメント」の実践は、被災者一人ひとりに着目した支援手法として一定の成果を上げてきたが、現在もなお生活再建に至らない方が少なからず存在しており、支援の継続が求められる。
以上のような現状を踏まえて、当連合会は、東日本大震災及び原発事故から15年という節目にあたり、震災と原発事故による被害が今なお続いている現実を心に刻み、私たち弁護士には、法律専門家の本来的使命として、時の経過によって複雑化・深刻化した法的問題に対し、粘り強く親身な支援を継続していく責務があることを改めて確認する。
そして、日本弁護士連合会、各地の弁護士会連合会、弁護士会、専門職団体、行政等との連携を通じ、引き続き、実効性のある「災害ケースマネジメント」の実施、被災者・被害者一人ひとりの状況に寄り添った生活再建の支援、生活困窮、労働問題、医療アクセスの確保等の被災者・被害者が抱える多様な人権課題への取り組み等により、一人ひとりの「人間の復興」を実現するために尽力することを宣言する。
2026年(令和8年)7月3日
東北弁護士会連合会
提 案 理 由
東日本大震災及びこれに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故の発生から、15年の年月が経過した。この未曾有の複合災害は、我が国に極めて深刻かつ広範な被害をもたらし、多くの尊い命が失われ、被災者の生活基盤、地域社会、そして人々の尊厳に計り知れない影響を与えた。私たちはまず、犠牲となられた全ての方々に対し、改めて深い哀悼の意を表する。
この間、被災地においては、インフラ整備や復興事業の進展など、外形上は復旧・復興が進んでいる。しかし、その一方で、被災者一人ひとりが生活と尊厳を回復する「人間の復興」という観点からは、なお多くの課題が残されている。
とりわけ懸念されるべきは、震災の記憶や復興のための課題が風化してしまうことである。
発災から長い年月が経過する中で、被災者の困難は社会的関心の外に置かれがちとなるが、現実には、避難生活の長期化、帰還困難、生活基盤の喪失、コミュニティの分断といった問題は現在もなお継続しており、決して過去の出来事ではない。
特に原子力発電所事故による被害は、時間の経過によって解消されるものではなく、むしろ長期化・固定化する傾向にある。帰還を選択できない、あるいは帰還しても従前の生活を取り戻すことができない状況に置かれている方々は少なくない。加えて、風評被害や差別・偏見といった問題も依然として存在している。
これらの問題は、生活上の支障・困難のみにとどまるものではなく、居住の自由、健康で文化的な生活を営む権利など、基本的人権に関わる重大な課題であって、風化により支援の縮小や制度的対応の後退を招くようなことがあってはならない。
当連合会及び管内の各弁護士会は、震災直後より、被災者一人ひとりが生活と尊厳を回復する「人間の復興」を理念として掲げ、様々な支援活動に取り組んできた。具体的には、法律相談体制の整備、在宅被災者への戸別訪問による支援活動、裁判外紛争解決手続(震災ADR)を通じた紛争解決支援、原子力損害賠償紛争解決センターへの和解仲介手続申立の支援などを実施し、被災者の救済と被災地域の復旧・復興に寄与してきた。また、被災者の実情に即して、二重ローン問題への対応、災害救助法・被災者生活再建支援法・災害弔慰金法等の制度的課題や、原子力損害賠償にかかる中間指針の改訂の必要性等を指摘し、その改善に向けた提言を継続的に行ってきた。さらに、「災害ケースマネジメント」の実践を提唱し、被災者一人ひとりの状況に応じて、法律問題の解決にとどまらず、医療、福祉、労働、住まいなど生活全般にわたる課題を把握して関係機関と連携しながら支援を行ってきた。このような東日本大震災の復興支援の取組みを通じて、災害関連の法律相談体制の整備や弁護士・弁護士会と行政機関との連携をはじめとする多くの知識や経験が蓄積された。これらの知見は、後の大規模災害の支援の取組みにおいても大いに活用されている。
しかし、これらの取組みにもかかわらず、いまだ支援の手が及ばない被災者が存在することは厳然たる事実である。高齢化の進行、単身世帯の増加、生活困窮の深刻化などにより、問題は一層見えにくく、かつ複雑なものとなっている。その結果、自ら声を上げることが困難な被災者が取り残される状況が生じている。
このような状況において求められるのは、受け身の対応にとどまらない、より積極的・能動的な支援の在り方である。すなわち、被災者のもとに赴き、その生活状況や課題を把握した上で、必要な支援につなげていく「アウトリーチ型」の支援、法律問題に限らない福祉、医療、労働などの分野と連携した包括的支援であり、それらの強化である。
弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律専門職であり、この使命から、平時における個別紛争の解決にとどまらず、社会の中で構造的に生じている不利益や不公正に対しても目を向け、その是正に取り組むことが求められる。とりわけ、災害という非常事態において顕在化した人権侵害に対しては、時間の経過による風化から、支援の縮小や制度的対応の後退が生じるようなことのないよう、継続的に関与し続ける責務がある。
本宣言は、このような認識のもと、震災から15年という節目にあたり、改めて当連合会及びその管内の弁護士会に所属する弁護士が、以上の社会的責務を確認し、その実践を強化する決意を示すものである。
そして、その実践のためには、まず「災害ケースマネジメント」を中核とした支援体制の確立が不可欠である。被災者の生活困窮、労働問題、医療アクセスの不足といった多様かつ複合的な課題に対応するためには、個別具体的な事情に応じた継続的支援が必要であり、そのための制度的基盤の整備と実務の充実が求められる。特に、高齢者、障がい者、子どもなど社会的に脆弱な立場にある人々に対しては、より積極的かつきめ細やかな関与が求められる。
また、原子力災害に特有の問題に対する長期的かつ粘り強い対応が必要である。賠償問題の解決に加え、生活再建、地域再生、差別・偏見の解消といった課題に総合的に取り組むとともに、制度の改善に向けた活動を引き続き行っていく必要がある。
震災からの復旧・復興は、物理的・経済的な視点のみによって判断されるものではなく、一人ひとりの生活と尊厳が回復されてこそ、真に実現されるものである。そして、その実現のためには、時の経過により被災の現実を風化させることなく、社会全体で向き合い、そのときどきの課題を確認し続けることが不可欠である。
当連合会は、関係諸機関との間で、当宣言の趣旨を共有し連携を図りながら、今後も継続的かつ実効的な支援活動を推進し、「人間の復興」の実現のために尽力し続ける所存である。
以 上
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