第1 要望の趣旨
「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」(2012年(平成24年)3月29日公布法律第6号)の有効期限をさらに延長する旨の法律改正を行うよう要望する。

第2 要望の理由

1 東日本大震災の発生から3年が経過した。
この間,被災者,被災自治体,国の関係機関の努力により復興は徐々に進んではいるものの,その進捗は十分とはいえない。
2014年(平成26年)3月10日の朝日新聞の報道によると同日現在で,避難者数は全国で26万7419人(被災三県では岩手県3万4847人,宮城県8万9882人,福島県8万5589人)にも上り,未だ多くの被災者が避難生活を強いられている。
他方,同報道によると,災害公営住宅完成戸数の進捗率は,被災三県で約9%前後と遅れが目立つ。
また,福島第一原子力発電所の事故は,放射能による被害が多種多様であり,かつ広範に及んでいる実態から,今後,被害の全容が明らかになるほどに,賠償問題が法的紛争に発展する可能性が高い。
このように,多くの被災者が避難生活を余儀なくされて,また,原発事故賠償も解決には遠いことから,生活再建の道のりはいまだ遠い状況にある。

2 東日本大震災と原発事故は,人々の生活基盤をことごとく破壊し,様々な問題を抱えることになった被災者の法的ニーズは極めて大きなものがあった。
ところが,本来は民事扶助の被援助者であるはずの者が,被災者生活再建支援金,義援金,建物損害保険金などを受給して一時的に資力要件をオーバーして扶助相談を受けられないことが大きな問題となった。
そこで,当連合会は,2011年(平成23年)7月8日開催の定期総会において「東日本大震災の被災者救済と被災地の復旧・復興を求める決議」を採択し,被災者の法的紛争の解決を支援するために,民事法律扶助制度について,災害特例的措置として,資力要件の原則撤廃,代理援助審査手続の簡略化,償還免除・猶予の原則化,法律相談援助の回数制限撤廃,震災ADRへの適用等を実施し,同制度を充実・発展させることを求めた。
また,2012年2月3日に「東日本大震災の被災者への『法的支援事業』特別措置法の制定を求める会長声明」を発表し,東日本大震災等及び原子力発電所事故の被災者支援のため,
(1)資力で被災者を選別しない法的支援事業の創設
(2)報酬・実費等にかかる償還免除及び支払猶予
(3)上記民事裁判等手続に限定されない柔軟な支援の実現
などを内容とする「法的支援事業」特別措置法の制定を求め,その実現に向けた取組みを行ってきた。
さらに,被災地の自治体や弁護士会からも被災者の法的支援に対応する法整備を求める要望が寄せられ,2012年(平成24年)3月23日に,「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」(2012年(平成24年)3月29日公布法律第6号。以下「本特例法」という)が成立した。

3 本特例法は,東日本大震災に際し災害救助法が適用された市区町村の区域における被災者を対象として,法テラスが実施する民事法律扶助業務に付随する形で「東日本大震災法律援助事業」を創設したものである。
残念ながら,当連合会が求めた償還免除の原則化などは盛り込まれなかったものの,従来の民事法律扶助業務に比し,①援助を受ける被災者の資力の状況を問わず,②対象事件の範囲も裁判外紛争解決手続や行政不服申立手続まで拡大し,③また,立替金の償還・支払も事件継続中は猶予するものであり,被災者にとって法的紛争解決のための有益なツールを提供するものとなった。

4 本特例法に基づき,弁護士が行った法律相談援助は,2012年度(平成24年度)で4万2981件(被災三県といわれる岩手県全体で7424件,宮城県全体で1万8675件,福島県全体で9564件),2013年度(平成25年度)で4万8418件(同岩手県8916件,宮城県1万9789件,福島県1万583件)に上る。
また,代理援助件数は,2012年度(平成24年度)で2699件(同岩手県74件,宮城県323件,福島県390件,山形県119件),2013年度(平成25年度)で2267件(同岩手県37件,宮城県203件,福島県174件,山形県1087件)に上る。
書類作成援助件数は,2012年度(平成24年度)で8件(同宮城県4件,福島県2件),2013年度(平成25年度)で13件(同宮城県2件,福島県6件)に上る。
(以上,2013年度(平成25年度)の数値は2014年(平成26年)5月13日現在の速報値である)。
このように,未だ被災者の生活再建に向けた法律相談援助等の需要は多く存在することを示している。

5 以上のように,被災地の復興はまだ途上にあり,本特例法に基づく法律相談援助等の必要性は,東日本大震災の発生から三年を経ても,いまだ大きい。
むしろ,今後,仮設住宅からの退去,新居への移転を進めていく中で換地や補償に関する法的問題,その前提となる相続,住宅ローン問題なども多く発生するものと思われ,また,原発被害に対する賠償問題は,区域の見直しによる損害賠償打切りに対する訴訟化,区域外避難者による損害賠償請求,逸失利益から各種不動産賠償に関する損害賠償請求等,さらに増加するものと思われる。
ところが,本特例法附則第3条第1項では,「この法律は,この法律の施行の日から起算して三年を経過した日に,その効力を失う。」とあり,現行法のままでは,2015年(平成27年)3月31日に同法は効力を失い,被災者は同法に基づく法律相談援助等を受けることができなくなる。
その後は,一般の民事法律扶助制度で対応することになるが,被災地において防災集団移転促進事業等による被災者の住居確保が本格化するのはむしろ今後であり,そうした状況において,被災によって身内や自宅を失った被災者が地震保険等による保険金,災害弔慰金,義援金等の残りを預貯金として保有しているがために,資力要件を満たさないとして民事法律扶助を受けられなくなるおそれがある。
これでは,震災後の混乱から本格的に復興に向かっていかなければならない被災者の生活再建に水を差すことになりかねない。
そこで,本特例法の有効期限を延長すべく,前記意見の趣旨記載のとおり要望する次第である。

2014年(平成26年)7月3日
東北弁護士会連合会