当連合会は,裁判所支部管内の司法基盤の整備・拡充を重要課題と位置づけ,2005年(平成17年)7月の定期大会において「裁判を受ける権利の保障を実質化するためにすべての裁判所及び検察庁に裁判官及び検察官を常駐させることを求める決議」を採択するとともに,2012年(平成24年)7月の定期大会においては「すべての裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」を採択し,全国の地方・家庭裁判所及び地方検察庁において裁判官・検事を速やかに常駐させ,裁判所支部・検察庁支部の人的・物的基盤を整備すること等を求める意見を表明してきた。

しかし,裁判官の常駐していない地方・家庭裁判所支部(以下,「非常駐裁判所」という)・検事の常駐していない地方検察庁支部(以下,「非常駐検察庁」という)が多数存在する状況は今もって改善されておらず,仙台高裁管内では,現在においても非常駐裁判所は8ヶ所,非常駐検察庁は20ヶ所にも及んでいる。

それどころか,ほとんどの地裁は,合議事件,不動産競売事件,債権執行事件等を本庁に集約化する傾向を強めており,刑事事件においても,検察庁の支部庁舎が使用されなくなったり,複雑な事件の起訴が本庁に集中するなど,裁判所・検察庁の支部の機能はますます縮小している。

また,労働審判や裁判員裁判は,一部の例外を除いて地裁本庁のみでしか実施されていないという状況に変化が見られない。特に労働審判は,利用者にとって,地方でも頻発する労働紛争を迅速かつ適切に解決できる点で満足度が高い制度と評価されているが,上記のような事情から,支部管内の住民の多くはこの制度を容易に利用できる状況にはない。家庭裁判所支部に目を向けても,少年審判を開廷していない支部や家庭裁判所調査官が常駐しない支部も多数存在し,少年事件の関係者の利便性や近時の家裁係属事件の増加の傾向に十分な配慮や対応がなされていない。

さらに,執行官,拘置支所,少年鑑別所の偏在問題や,法務局出張所,検察審査会の統廃合も進められており,支部管内における司法サービスの機能低下がより顕著になっている。そのため,支部管内に居住する住民の多くは,司法サービスを受ける機会の制約がますます深刻化しており,各地域住民の裁判を受ける権利が十分に保障されているとは言い難い状況に置かれている。

特に,東日本大震災で多大な被害を被った東北地方の太平洋沿岸地域は,その多くが支部管轄区域に属しているが,依然として交通機関が復旧していない地域も多く,震災に起因する重大事件も存在することから,事件が本庁に集約化される傾向にあることは,被災地の復旧・復興を妨げる結果となりかねない。

このような状況を踏まえ,当連合会は,裁判所支部管内における市民の裁判を受ける権利を実質的に保障するために,支部管内における司法機能の整備・拡充を求めて,国に対し,以下の事項を要請する。

1 すべての地方・家庭裁判所及び地方検察庁支部に,裁判官・検事を速やかに常駐させること。

2 すべての家庭裁判所支部及び出張所に,家庭裁判所調査官を速やかに常駐させること。

3 支部管内の事件の本庁集約化の傾向を改め,合議事件,労働審判,不動産競売,債権執行事件,少年審判等を含め,支部管内の事件は当該支部において扱えるよう,裁判所等の人的・物的基盤を整えること。

4 執行官室,法務局出張所,検察審査会,拘置支所,少年鑑別所等の司法関係機関の配置を見直し,地域住民が利用しやすいよう当該機関を増設すること。

 

以上のとおり決議する。

2015年(平成27年)7月3日

東 北 弁 護 士 会 連 合 会

 

 

提 案 理 由

 

1 裁判所支部機能充実の必要性

国民の裁判を受ける権利(憲法第32条)は,国民が司法を通じてその権利を実現するための重要な権利であり,その保障は,国民が単に裁判所で裁判を受けられることを意味するのではなく,誰もが適正・迅速な裁判が受けられるような実質的な内容を伴うものでなくてはならない。このような裁判を受ける権利の実質化の観点から,2001年(平成13年)に公表された司法制度改革審議会意見書は,「司法制度改革の3つの柱」の第1として「国民の期待に応える司法制度とするため,司法制度をより利用しやすく,分かりやすく,頼りがいのあるものとする」ことを定め,「国民の期待に応える司法制度の構築(制度的基盤の整備)」を目標として掲げた。国民の裁判を受ける権利の保障と,国民の期待に応える司法制度構築の要請は,本庁地域と支部地域との間で何ら異なるものではなく,国民に司法サービスを提供するに当たっては,本庁地域と支部地域との間に格差があってはならない。

 

2 支部管内の司法の実情

ところが,全国には裁判官の常駐していない地家裁支部(以下,「非常駐裁判所」という),検事が常駐していない地検支部(以下,「非常駐検察庁」という)が多数存在しており,仙台高裁管内においても非常駐裁判所の支部数は8ヶ所,非常駐検察庁の支部数は20ヶ所にも及んでいる。以上のような非常駐裁判所及び非常駐検察庁が存在することにより,各地で次のような様々な弊害が生じている。

まず,非常駐裁判所では,ただでさえ数少ないてん補日に様々な事件を集中的に取り扱わざるを得ず,中には人証尋問の制限が行われるなど各事件について十分な審理がなされているとは言い難い支部も見受けられる。1回のてん補で処理できる事件数にも自ずと限界があることから,期日がなかなか入りにくくなり,期日の間隔が通常よりもかなり長く空いてしまい,審理が遅延する傾向にある支部もあることが指摘されている。

また,地裁支部の大半は合議事件が開廷されておらず(仙台高裁管内29か所のうち合議事件が行われている支部は8箇所のみ),当事者,関係人,弁護士は,行政訴訟・医療過誤訴訟等の複雑な民事事件や,法定刑の重い刑事事件の際には,本庁や他の支部まで移動しなければならない。

さらに,民事保全,証拠保全やDV防止法の保護命令等の迅速性が求められる事件においても,審尋期日が速やかに開廷されなかったり,裁判官の非てん補日には裁判官常駐庁に記録使送をするなどの事務対応が必要となるため,発令まで時間を要することになってしまう状況が見受けられる。

労働審判については,仙台高裁管内では全て裁判所本庁のみが取り扱っているが,本庁までの時間と交通費等を負担してまで申立てをするケースは必ずしも多くはなく,支部管内に居住する住民は事実上この手続の利用を断念せざるを得ない状況となっている。

刑事事件においても,勾留されている被告人の第1回公判期日がかなり先に指定されたり,最寄りの非常駐裁判所ではなく地裁本庁に起訴がなされ,支部管内の弁護人が地検本庁まで記録閲覧や公判等のために往復しなければならないといった事態が生じている。

迅速な判断が必要な保釈事件について,民事保全等と同様に,裁判官の非てん補日に申立をした場合,裁判官が常駐している裁判所に記録を送付するなどの処置がなされるため,決定がなされるまで時間がかかっている。準抗告事件についても,ほとんどの地裁支部では判断がなされておらず,本庁等に記録が送付されるため判断に時間がかかっている。

裁判員裁判についても,実施されている支部はごく少数であり,支部管内の弁護人が公判前整理手続の度に本庁に出頭することの負担や,共同弁護人との打ち合わせが不便であるという問題に加え,裁判員として選任される住民にとっても,支部管内の地域から本庁まで出頭を強いられており,審理期間中は宿泊を余儀なくされる者も相当数存在し,多大な負担を感じていると考えられる。

家庭裁判所においても,家庭裁判所調査官が常駐していない支部や出張所が少なからず存在し,面会交流等子どもを巡る調停が実施できなかったり,家庭裁判所調査官を補填するために期日がかなり先に指定される等の問題が生じており,近時の家裁係属事件の増加の傾向に十分な配慮や対応がなされていない。また,少年事件についても,実施されていない家裁支部が相当数存在し,付添人や保護者等が審判への出廷に困難を強いられることも少なくない。

 

3 弁護士過疎解消の前進と地域の司法基盤の充実の遅れ

当連合会は,弁護士過疎偏在の解消を図るために,2007年(平成19年)にやまびこ基金を設置し,同基金に基づいて設立されたやまびこ基金法律事務所に対し運営費を支給する等の過疎偏在解消のための取り組みを実施してきた。やまびこ基金法律事務所でこれまでに養成された弁護士のうち,既に11名が,当連合会管内の弁護士過疎地域で独立・開業しているが,その多くが赴任地に定着して地域の司法を支えている。以上のような取り組みとともに,近時,各地の裁判所支部管内に事務所を設置する弁護士数も増加していることと相俟って,各地の弁護士過疎偏在の解消は大幅に進んでいる。

裁判所・検察庁等の支部問題についても,当連合会は,2005年(平成17年)7月の定期大会において「裁判を受ける権利の保障を実質化するためにすべての裁判所及び検察庁に裁判官及び検察官を常駐させることを求める決議」を採択するとともに,2012年(平成24年)7月の定期大会においては「すべての裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」を採択し,全国の地方・家庭裁判所及び地方検察庁において裁判官・検事を速やかに常駐させ,裁判所支部・検察庁支部の人的・物的基盤を整備すること等を求める意見を表明してきた。さらに,これらの決議の趣旨について地域の住民や地方自治体関係者らの理解を得て,各地から司法基盤の整備を求める声を上げていただくべく,これまでに宮城県栗原市,青森県十和田市,岩手県二戸市,宮城県石巻市において,各県弁護士会との共催で「地域の司法を考える」と銘打った市民集会を開催した(開催地名は開催順である)。

しかし,今日に至っても,非常駐裁判所・検察庁等の支部問題は一向に解消していないばかりか,不動産競売・債権執行事件等を本庁に集約する地裁が大多数を占めるようになっており,裁判所の支部機能の低下傾向は,一層強まっている。また,これと歩調を合わせるように,検察庁も,一部の支部においては日常の事務を停止するなど,本庁に機能が集中するようになっている。

さらに,法務局出張所や検察審査会等も統合や廃止の動きが進んでおり,執行官室,拘置支所,少年鑑別所等の司法関係機関も,本庁と一部の比較的規模の大きな支部管内に設置されるに止まっている。そのため,支部管内に居住する住民の多くは,司法サービスを受ける機会の制約がますます深刻化しており,各地域住民の司法機関を利用する権利が十分に保障されているとは言い難い状況に置かれている。

特に,東日本大震災で多大な被害を被った東北地方の太平洋沿岸地域は,その多くが支部管轄区域に属しているが,依然として交通機関が復旧していない地域も多い。そのような状況のもとで,震災に起因する災害関連死の認定等の行政事件,避難の際の責任追及等の重大な民事事件や,被災土地の権利関係や収用を巡る問題等震災特有の事件も相当数存在することから,事件が本庁に集約化される傾向にあることは,被災地の復旧・復興を妨げる結果となりかねない。

このような問題は,裁判所支部管内に住む市民が適正・迅速な裁判を受ける権利を保障する上で,決して看過できない問題である。裁判所支部管内に住む市民が適切な司法サービスを受けられる権利保障の観点から,裁判所本庁管内の市民に比べて司法を利用し難いという極めて不公平な事態は,速やかに解消されなければならない。

 

4 むすび

以上のような状況を踏まえ,当連合会は,裁判所支部管内における市民の裁判を受ける権利を実質的に保障するために,国に対し,本決議本文に掲げた司法の支部機能整備・拡充を図る方策を早急に実施することを求め,本決議に及ぶものである。

以 上