日本弁護士連合会(以下、「日弁連」という。)及び最高裁判所は、2014年(平成26年)から2016年(平成28年)にかけ、地域司法の基盤整備に関する協議を行い、その結果、2017年(平成29年)4月から、3支部における労働審判取扱の拡大、1支部における裁判官の常駐化、3支部及び2家裁出張所における裁判官のてん補回数の増加等がなされた。この結果は、一定の評価には値するものの、改善がなされた支部・出張所はごく少数にとどまり、仙台高等裁判所管内の支部・出張所はいずれの対象にもなっていないなど不十分であることは、当連合会が2016年(平成28年)7月1日の「地域司法の基盤整備に関する協議結果を受けて、改めて裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」で述べたとおりである。
 当連合会はその後も、2019年(令和元年)7月12日に「裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」、2022年(令和4年)7月1日に「地方裁判所支部における民事裁判手続IT化の運用開始にあたり改めて地域の司法基盤の充実を求める決議」を行い、繰り返し地域の司法基盤に関する整備を求めてきた。しかるに、その後の最高裁判所の動きは当連合会のこのような要望に沿うものではなく、むしろ後記する裁判官減員のように基盤整備に逆行する動きもみられ、IT化をめぐるデジタル関連経費が多く計上される中にもかかわらず、裁判所予算が継続して減額されている状況である。
 2022年(令和4年)5月18日に民事裁判のIT化を盛り込んだ民事訴訟法改正法が成立し、執行・保全・倒産及び家事事件のIT化、並びに刑事手続のIT化も法制審議会で審議されており、我が国の司法は激動の中にある。このままの状況では地域司法の充実はおぼつかず、裁判官の常駐や定期的なてん補すら不要とされ、かえって地域の司法基盤の後退を招くことが強く懸念される。地域の司法基盤の充実のため、日弁連と最高裁判所が、以下の事項について再度協議を行うよう強く求める。

1 労働審判実施支部の拡大
 労働審判制度は、個別労働紛争を迅速かつ適切に解決する手段として、高い評価を得ている。しかるに、仙台高等裁判所管内の各支部では労働審判が全く取り扱われていない。そのため、支部管内においてはそもそも労働審判が労働紛争解決の選択肢にない、利用を断念した等の報告もなされている。
 コロナ禍に伴い個別労働紛争の解決の重要性がさらに上昇し、個別労働紛争の相談件数は、厚生労働省によると、2016年(平成28年)度は25万5460件であったが、2021年(令和3年)度には28万4139件に増加している。このような状況をふまえ、仙台高等裁判所管内の各地方裁判所支部、とりわけ前回協議において日弁連が提案した福島地方裁判所郡山支部、同いわき支部、青森地方裁判所弘前支部において、労働審判を取り扱うべきである。

2 合議事件取り扱い支部の拡大
 合議事件についても、仙台高等裁判所管内では8か所の支部においてしか取り扱われていない。そのため、当事者や代理人弁護士の出廷、証人申請等に困難をきたしているとの報告もなされている。支部管轄地域においても、医療紛争や建築紛争、裁判員裁判等、合議事件となるような重大な紛争は一定頻度で発生することを踏まえれば、仙台高等裁判所管内の各地方裁判所支部、とりわけ現時点でも複数の裁判官が常駐している仙台地方裁判所古川支部、同石巻支部において、合議事件を取り扱うべきである。

3 裁判官常駐支部の拡大
 仙台高等裁判所管内において、裁判官が常駐していない地家裁支部は8か所ある。これらの支部では、裁判官が数少ないてん補日に様々な事件を集中的に取り扱わざるを得ず、保全事件や保護命令などで迅速な判断ができない、人証の制限がされたとの報告もなされている。とりわけ、裁判手続のIT化が進むと、支部への裁判官の常駐はおろか、定期的なてん補も不要との議論が起こり得るところであり、地域住民の裁判を受ける権利の実質的な保障のためには、仙台高等裁判所管内の非常駐支部、とりわけ前回協議において日弁連が提案した青森地方裁判所十和田支部、同五所川原支部において、裁判官を常駐させるべきである。

4 家庭裁判所の機能充実
 家事事件は全国的に増加傾向にあり、離婚に伴う親権者の争い、面会交流をめぐる紛争等、当事者間の感情対立が激しく解決が困難な事件も増加している。しかるに、仙台高等裁判所管内の家庭裁判所の支部及び出張所において、司法基盤が充実しているとは言い難い。
 独立簡易裁判所があるにもかかわらず家庭裁判所出張所が併設されていない地域は仙台高等裁判所管内にも数多く存在し、これらの地域では遠方の裁判所で家事事件手続を行うことになり、利用者にとって負担となっている。よって、仙台高等裁判所管内の各簡易裁判所に、家庭裁判所出張所を設置すべきである。とりわけ築館簡易裁判所、釜石簡易裁判所、湯沢簡易裁判所、鰺ヶ沢簡易裁判所においては、家庭裁判所出張所設置に向けた地元弁護士会や自治体等による運動がなされていたり、もともと地家裁支部が設置されていた等、地域的に一定のまとまりを有し、家庭裁判所出張所を設置する必要性は高い。
 また、家庭裁判所調査官が常駐していない家庭裁判所支部は多く存在し、家庭裁判所出張所においては全く家庭裁判所調査官が常駐していない。そのため、家庭裁判所調査官の関与に拒否的な反応を示されたとか、調査の際に遠方の家庭裁判所調査官常駐支部まで移動を強いられたとの報告もなされている。家庭裁判所の充実のためには、全ての家庭裁判所支部及び出張所に家庭裁判所調査官を常駐させるべきである。

5 裁判所の人的体制拡充
 これら地域司法の基盤の整備・充実のためには、それを支える裁判官の体制の充実は避けて通ることができない。しかるに、2022年(令和4年)度より、福島地方裁判所郡山支部及び同いわき支部で裁判官が1名ずつ減員され、近年、各地の簡易裁判所において簡易裁判所判事が次々と減員されるなど、仙台高等裁判所管内における裁判官の人的体制はかえって後退し、その結果、さらなる裁判官の繁忙や開廷回数の減少等を招いている。このような裁判官の減員は、司法の質の低下につながるもので、到底容認することができない。最高裁判所は、裁判官を減員した裁判所において、可及的速やかに裁判官を増員し前の体制に戻すべきである。
 あわせて、労働審判、合議事件、非常駐支部への裁判官の常駐、家庭裁判所出張所の設置及び家庭裁判所調査官の常駐のため、速やかな人的体制の整備を求める。

6 司法予算の増額
 これらの司法基盤整備が求められる中で、2023年(令和5年)度の裁判所予算案は3222億1700万円で、前年を5億9700万円下回っており、前年度を下回るのは2020年(令和2年)度から4年連続となった。その中でも、デジタル化関連経費は55億6900万円と、前年の7億1700万円から大幅に増額されており、その他の経費が大きく減る流れとなることが懸念される。
 このような状況が続けば、裁判手続のIT化が進むとともに、地域の司法基盤整備はさらに後退するおそれが大きく、司法予算の増額のため、現時点で日弁連と最高裁判所が協議を再開することが必要不可欠である。

7 まとめ
 よって、当連合会は、日弁連及び最高裁判所に対し、下記の事項につき、地域司法の基盤整備に関する協議を直ちに再開することを求める。
                         記

(1)  労働審判取扱支部を拡大し、仙台高等裁判所管内の福島地方裁判所郡山支部、同いわき支部、青森地方裁判所弘前支部をはじめとする各地の地方裁判所支部において労働審判を実施すること。
(2)  合議事件取扱支部を拡大し、仙台高等裁判所管内の仙台地方裁判所古川支部、同石巻支部をはじめとする各地の地方裁判所支部において合議事件を実施すること。
(3)  仙台高等裁判所管内の青森地方裁判所十和田支部、同五所川原支部をはじめとする各地の裁判官非常駐支部に裁判官を常駐させること。
(4)  家庭裁判所出張所が併設されていない仙台高等裁判所管内の築館簡易裁判所、釜石簡易裁判所、湯沢簡易裁判所、鰺ヶ沢簡易裁判所をはじめとする各地の独立簡易裁判所に家庭裁判所出張所を設置し、併せて全ての家庭裁判所支部及び出張所に家庭裁判所調査官を常駐させること。
(5)  上記(1)ないし(4)の施策の実現のため必要な裁判官の増員を行い、とりわけ仙台高等裁判所管内で近年裁判官が減員された福島地方裁判所郡山支部、同いわき支部及び各簡易裁判所において、裁判官を速やかに増員すること。
(6)  上記(1)ないし(5)の施策の実現を含む司法基盤の整備・充実のため、司法予算を増額すること。


   2023年(令和5年)2月3日
                 東北弁護士会連合会
                  会 長  遠 藤 凉 一