2021(令和3年)3月15日

内閣総理大臣  菅 義偉 殿

要 請 書

東北弁護士会連合会
会 長  内田正之

第1 要請の趣旨
 災害援護資金貸付について,債務者が自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」を含む)の対象債務者要件を充足する場合には,同ガイドラインに基づく償還免除をできるよう所要の法令の改正ないし運用の改善等を行うことを要請する。

第2 理由
1 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「自然災害ガイドライン」という)は,自然災害の影響により既往債務を弁済できなくなった個人債務者(個人事業主も含む)について,法的倒産手続によらずに債務の減免をすること等を内容とする債務整理を公正かつ迅速に行うための準則であり,債務者の自助努力による生活や事業の再建を支援し,ひいては被災地の復興・再活性化に資することを目的とする制度である。
 また,新型コロナウイルス感染症による社会経済への甚大な影響に鑑み,自然災害ガイドラインを新型コロナウイルス感染症の影響により債務の弁済ができなくなった個人債務者にも適用し,その生活や事業の再建を支援することを目的とした「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」(以下「コロナ特則」という)が策定・公表され,令和2年12月1日から適用が開始されている。
 当連合会内の各弁護士会にも,コロナ特則に関連する相談が多数寄せられている。相談においては,新型コロナウイルスの影響による解雇や雇止め等により失業したり,大幅な収入減少を余儀なくされている個人や,飲食業や観光,イベント関連業等広範な業種においてその需要の落ち込みによる深刻な売上減少等に直面している個人事業主から,債務の弁済ができないとの逼迫した経済的窮境が訴えられており,コロナ特則を利用しての債務整理が可及的速やかに行われる必要性が極めて高い状況となっている。
2 東日本大震災等,過去の自然災害の被災地においては,自治体から災害援護資金貸付を受けている者も少なくない(令和元年12月25日付・内閣府の報告によると,東日本大震災に係る災害援護資金貸付の実績(平成30年9月30日時点)として,1都8県2指定都市で合計29,568件,貸付総金額が521億8144万円である)。実際に,東北地方でコロナ特則の利用を検討していたり既に申出がなされた事例の中には,東日本大震災時に貸付けされた災害援護資金貸付の債務を含む事案も複数ある旨が報告されている。
 そして,今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響は,東日本大震災等の過去の自然災害の被災地にも等しく及んでいるが,過去の自然災害に加えて新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けたことで,災害援護資金貸付を含む債務全般の弁済に困難を来している被災者も少なくない実情にある。このような債務者については,災害援護資金貸付を含む全ての債務について減免を受けなければ,自然災害ガイドラインの目的である生活や事業の再建を果たすことは困難である。
3 ところが,災害援護資金貸付を実施している自治体から,内閣府の見解に基づき,災害援護資金貸付を実施している地方自治体は自然災害ガイドラインにおける対象債権者には含まれない旨の説明がなされたとの事例が報告されている。
  しかしながら,自然災害ガイドラインの対象債権者は原則として金融機関等とされているものの,同ガイドラインに基づく債務整理を行う上で必要なときは,金融機関等以外の「その他の債権者」を含むこととされている(自然災害ガイドライン3(2),コロナ特則5(2))。また,いわゆる清算型の調停条項を作成する場合には,債権額20万円以上の全ての債権者を対象債権者とすることとされているが(自然災害ガイドライン8(2)①ハ),この「全ての債権者」には当然に金融機関等以外の債権者も含むものとして運用されている。現に,従前の自然災害時においては,国家公務員共済組合や地方公務員共済組合,日本学生支援機構等も対象債権者に含まれるものとして運用されていたほか,熊本県においては,熊本県が実施する奨学金(熊本県育英資金)等について自然災害ガイドラインに基づく債務免除を可能とする条例改正がなされている。さらに,コロナ特則適用後,厚生労働省からは,社会福祉協議会も対象債権者に含まれ,また,同協議会が実施している生活福祉資金貸付等も自然災害ガイドラインの債務整理の対象に含まれる旨の見解が示されている(厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室令和3年1月25日付事務連絡)。
 したがって,自然災害ガイドライン上,災害援護資金貸付を実施している地方自治体も,「その他の債権者」として対象債権者となりうることは明らかである。
4 また,災害援護資金貸付については,破産手続開始決定若しくは再生手続開始決定を受けた場合には償還免除をすることができるものとされているところ(災害弔慰金の支給等に関する法律第14条1項本文),自然災害ガイドラインの対象債務者は破産手続等の法的倒産手続の要件に該当することになった債務者であり(自然災害ガイドライン1,コロナ特則1),実質的に破産手続開始決定若しくは再生手続開始決定を受けた場合と異なるところはなく,償還免除を行うことについての相当性も認められる。
 さらに,自然災害ガイドラインは,関係省庁の関与のもと,金融機関等団体の関係者等や学識経験者らの議論を踏まえて策定された準則であり,その手続においては弁護士等の登録支援専門家が中立かつ公正な立場で関与し,簡易裁判所の特定調停手続を経ることとされていることに鑑みれば,いわゆるモラルハザードが生じる懸念もない。
5 以上のように,災害援護資金貸付を実施している地方自治体も自然災害ガイドライン上は対象債権者となりうることは明らかであり,かつ,災害援護資金貸付を同ガイドラインに基づく償還免除を可能とすることの必要性,相当性も認められることは明らかである。
 この点については,令和3年2月16日の衆議院財務金融委員会でも質疑が行われ,「その他の債権者」に災害援護資金貸付を行う市町村も除かれるものではない旨の答弁及び内閣府において検討しなければならない旨の答弁がなされており,現在検討を行っている状況と推測されるが,災害援護資金貸付を受けている債務者の早急な経済的再生という観点からは,速やかに災害援護資金貸付が自然災害ガイドラインの対象となる旨が明らかにされる必要がある。
 よって,当連合会は,災害援護資金貸付について,債務者が自然災害ガイドラインの要件を充足する場合には,同ガイドラインに基づく償還免除をできるよう所要の法令の改正ないし運用の改善等を行うことを要請するものである。

以 上