1 本年3月2日、最高裁判所(以下、「最高裁」という)は、国と東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東京電力」という)を被告とした「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(以下「生業訴訟」という)、原子力損害賠償群馬訴訟(以下、「群馬訴訟」という)、福島第一原発事故損害賠償千葉訴訟(以下、「千葉訴訟」という)について、東京電力との関係で、損害論についての上告受理申立を不受理とする決定をした。これにより、上記3事件の各控訴審判決に従い、東京電力の賠償支払義務が確定した。さらに、同月7日、最高裁は、福島県双葉町の住民らによるいわき訴訟、南相馬市小高区の住民らによる小高に生きる訴訟、福島市など自主的避難等対象区域の住民らによる中通り訴訟の3訴訟において、同様に、損害論について上告受理申立を不受理とする決定をした。これにより、各控訴審判決の内容で東京電力についての賠償支払義務が確定した。

2 今回の最高裁決定により、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「本件事故」という)の、いわゆる「自主的避難等対象区域」を含む福島県全域の被害者について、ほぼおしなべて原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針(以下、「中間指針」という)の水準を上回る損害があり、東京電力にはその損害を賠償すべき法的義務があるとの各控訴審判決が是認され、司法判断が確定したことになり、その意義は大きい。

 とりわけ、生業訴訟控訴審判決においては、原告個々の具体的事情を問わず、事故時居住地を基準とする一律の損害額が認定されており、その判断が最高裁においても維持されたことは、原告らにとどまらず被害者住民全体との関係でも重大な意味を有する。

 即ち、事故時居住地を基準とする一律の損害額が認定されたということは、東京電力は、訴訟に参加できなかった被害者に対しても同一の基準で賠償すべきであるということを意味すると解されるのである。

3 ところで、当連合会は、昨年12月10日付での当連合会における大会決議において、強制避難区域の外側の地域(自主的避難等対象区域など)においては、少額の精神的損害に対する賠償が支払われたのみで、それ以外の賠償の対象とはなっていないことを指摘し、中間指針は、本件事故による損害の賠償基準として極めて不十分なものであり、原子力損害賠償紛争審査会は、長期にわたって行われていない被害実態の調査を行い、中間指針の見直しに着手するべきであることを指摘した。

  今回の最高裁決定により、被害者住民に中間指針を上回る被害があるとの司法判断が確定したのであるから、当連合会は、原子力損害賠償紛争審査会に対し、上記6事件の控訴審判決の内容を踏まえ、被害の実態に即した賠償を実現するための指針の改訂にただちに着手することをあらためて強く求めるものである。

  あわせて、東京電力には、最高裁の司法判断を真摯に受け止め、全ての被害者の救済のために加害者として誠意ある活動をすることを求める。

4 一方、上記3月2日付の3事件の訴訟(生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟)のうち、国の責任に関する判断については、口頭弁論期日が開かれることとなり、口頭弁論を経て最終的な判断が示されることとなった。

  当連合会に属する福島県弁護士会は、これまで、本件事故の最大の被災地であるの弁護士会として、国に対し、本件事故及びその被害に対する加害責任を自ら認め、賠償はもとより環境回復等を含めた被害者の救済のために全力を尽くすことを求めてきた。

 当連合会としても、最高裁による今後の審理とその司法判断を一層注視していくとともに、国に対し、最高裁の司法判断がいかなるものであるとしても、本件事故及びその被害に対する加害責任を自ら認め、被害者への賠償はもとより、被災地の環境回復及び被害者の生活回復支援、原発の廃炉等の重要課題について、原子力政策を推進してきた主体として、主導的かつ十分な取組を行うことをあらためて求める。


2022年(令和4年)3月17日


                 東北弁護士会連合会

                   会長  高 橋 金 一