当弁護士会連合会は,日本における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,次のことを政府及び国会に対して強く求める。
1 国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などに定める個人通報制度を,速やかに導入すること。
2 国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」にのっとり,実効ある救済措置を講ずることのできる,政府機関から真に独立した国内人権機関を設置すること。
以上の通り,決議する。
2011年(平成23年)年12月3日
東北弁護士会連合会
提案理由
第1 個人通報制度について
1 個人通報制度は,人権条約に認められた権利を侵害された個人が,各人権条約の条約機関に直接訴え,国際的な場で自分自身が受けた人権侵害の救済を求める制度である。この制度の下で人権侵害を受けた個人は,その国において利用できる国内的な救済措置を尽くした後であれば,誰でも人権条約上の委員会に通報することができる。その通報が受理され審議された後に条約機関から出される見解(views)は,法的拘束力はないものの,国際・国内の世論を高め,通知先の国内法の改正を促す等,人権侵害の救済・是正を実現する上で重要な役割を果たしている。
2 個人通報制度は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などに定められている。この内,自由権規約の個人通報制度は,同規約に付属する「選択議定書」に定められており,日本は1979年6月に自由権規約を批准した。しかし,政府は,個人通報制度に対し「人権の国際的保障のための制度として注目すべき制度」との認識を示しながらもその選択議定書の批准に踏み切らず,わが国においては,今日まで個人通報制度が導入されないままになっている。
3 個人通報制度を日本に導入することは,国内の個人に対する人権侵害の救済を促すだけではなく,条約機関から人権侵害の原因となる法制度の改善を求められることを通じて,国内制度が国際人権基準に沿って改善されることにもつながる。
4 わが国の人権保障状況は,国際人権(自由権)規約等が求める国際的水準に遠く及ばないとの指摘もなされており深刻な状況にあるが,この状況を打開して,わが国の人権保障の水準を向上させるためには,個人通報制度を早期に導入することが不可欠である。
第2 国内人権機関の設置について
1 国連決議及び人権諸条約機関は,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害されその回復が求められる場合には,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するよう求めている。このよう機関は,アジア太平洋地域では,ニュージーランド,オーストラリア,フィリピン,インド,インドネシア,スリランカ,フィジー等に設置されており,これらの機関はアジア太平洋国内人権機関フォーラムという連合体を組織し,定期的に会合している。
2 国内人権機関を設置する場合,その機関が実効ある救済措置を講ずることができるようにするためには,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に合致した機関であることが必要である。具体的には,法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことが不可欠と考えられる。
3 日本に対しては,国連人権理事会,人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権諸条約機関の各政府報告書審査の際に,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。
4 現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,独立性等の点からみて,日本で発生している公権力による人権侵害・差別や私人間の人権侵害・差別などの救済のためには極めて不十分と言わざるを得ない。
5 2011年8月2日,法務省の政務三役は,「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」(以下「基本方針」という)を発表した。この基本方針に対して日本弁護士連合会は,2011年8月19日,新たな国内人権機関設置に向けた具体的な一歩となるものであるとして一定の評価を示しながらも,基本方針の予定する機関の独立性の確保や人権救済の対象と方法等について,さらなる改善を求める意見を発表している。
6 以上のように,法務省が発表した基本方針は不十分な点はあるものの,その表明によって国内人権機関設置に向けた機運は確実に高まっており,この基本方針を前進させパリ原則にのっとった機関の早急な実現が望まれる。
第3 むすび
以上のような理由から,当連合会は,わが国の人権水準を国際水準に高めるために,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を早急に導入するとともに,パリ原則に合致した政府機関から真に独立した国内人権機関を設置することを政府及び国会に強く求めるべく,本決議に及ぶものである。
以 上
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