
金融庁長官 殿
社団法人全国銀行協会 御中
株式会社シー・アイ・シー 御中
株式会社日本信用情報機構 御中
第1 要請の趣旨
1 東日本大震災の被災地在住者については、延滞情報登録の対象となる延滞期間を従前より伸長し、少なくとも1年間は延滞情報を登録しないこと
2 東日本大震災の被災地に在住しない者で、後に被災をしていたことが判明した場合には、被災者からの申立により、延滞情報の登録を抹消する手続を整備すること
第2 要請の理由
1 本年3月11日に発生した東日本大震災は、被災地に甚大な被害を与えた。地震及び津波により、家族、住居や自動車を失った者が多数いることは言をまたないが、職場や生産手段が消失して仕事を失った者、さらには取引先が罹災したことにより売り上げの入金目処が立たなくなったり、取引先を失って自らや会社の業務が成り立たなくなってしまった者なども多数存在する。このように、被災地在住者は、大震災の影響を直接的、または間接的に受け、様々な理由で生活が困難な状況に陥っている。
これらの被災地在住者は、収入の途を失い、重要な資産である住宅や自動車を失うことにより、今後の生活設計もままならない中、当面は失った生活用品等の取りそろえのために出費を重ねなければならない。そのため、既存の債務の支払が遅延し、かかる債務を返済する目処が経つまでに一定期間必要となる被災者が数多く存在する。
しかるに、現行の制度上は、延滞情報の登録基準(多くの場合入金予定日から3ヶ月以上何ら入金がないこと。)を満たした場合は、信用情報上、延滞情報の登録がなされてしまう。そして、延滞情報の登録がなされてしまうと、その後、事実上融資が受けられなくなるという極めて大きな制約を受けることとなる。
しかし、東日本大震災という本人に責任の全くない不可抗力であることが明らかな事由によって、支払を延滞せざるを得なくなった場合にまで、このように大きな制約を受けることはあまりに酷なことである。また,融資が受けられなければ被災者の住居確保等生活全般にわたって支障が生じ、復興の妨げになる可能性がある。特に、東北地方の太平洋沿岸地域をはじめとする東日本大震災の被災地では、仕事上も生活上も自動車がなければならない、車社会であることからすると、自動車ローンが組めなくなるという制約は、被災者の生活再建ひいては被災地の復興の大きな妨げになることは明らかである。
このように、本人に帰責性がないこと及び復興への深刻な影響に鑑みれば、被災地在住者が、一定期間支払が遅延したことをもって、信用情報上、延滞情報の登録をしないことが求められる。
なお、ここにいう「被災地在住者」とは、大震災の影響を直接的、または間接的に受けた者には等しく救済がなされるべきであるから、災害救助法適用地域在住者とすべきである。
2 また、被災地では、産業が壊滅的な打撃を受けており、復興の見込みが全く立っていない。津波などによって、債権者の連絡先が不明になり、あるいは債権者に連絡するすべを持たない状態になっている被災者も数多く存在する。
このような状況で、支払が遅延することは当然に予測される事態であるが、遅延したからといって、当該債務者の信用力に疑義があることにはならないので,信用情報上、延滞情報として登録しないことが求められる。
3 これらの点については、指定信用情報機関である株式会社日本信用情報機構、株式会社シー・アイ・シーは、金融機関等が被災地の債務者に対して返済または支払を猶予した場合には、延滞情報の登録基準に該当しないという運用をとることを公表している。
また、社団法人全国銀行協会についても、個人信用情報の登録について東日本大震災を起因とした延滞等の事故情報については、当面の間、登録を行わないことを公表している。
しかし、上記のような被災地の債務者の現状に鑑みると、金融機関等の貸し手の判断に係らしめるのではなく、被災地の債務者については一律に、少なくとも1年間は延滞情報に登録しないとの運用が行われるべきである。
4 むすび
さらに、被災地に在住していなくても、東日本大震災のときにたまたま被災地に自動車などの重要な資産がありこれを失った場合や、勤務先が被災地に依存しているために仕事上の影響が生じている場合に支払が不能となってしまった場合には、まさに東日本大震災が直接の原因となっているものと言うべきである。
したがって、このような場合には、信用情報上、延滞情報の登録がなされてしまうことは類型的にはやむを得ないとしても、債務者本人から東日本大震災が影響しての延滞であったことの疎明があれば、延滞情報の抹消を行えるよう、制度を整えるべきである。
以上
東北弁護士会連合会 会 長 廣嶋 清則
同災害復興支援統轄本部 本部長 廣嶋 清則
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