
2014年(平成26年)4月30日に開催された,法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という。)の第26回会議において,「事務当局試案」と題する文書が配布された。事務当局試案には,「通信傍受の合理化・効率化」の項目があり,「合理化・効率化」の名目で,対象犯罪を現住建造物放火,殺人,傷害,逮捕・監禁,略取・誘拐,窃盗,強盗,詐欺,恐喝まで拡大することとして,重大犯罪とは言い難い類型の犯罪についてまで拡大するとともに,一定の場合に通信事業者による立会いを不要とすることなどが記載されている。
そもそも通信傍受はその性質上,憲法の定める捜索・差押えにあたって場所及び対象物の特定を要求している令状主義(憲法35条),適正手続の保障(憲法31条)をはじめとする憲法上の要請を満たすことが困難な捜査手法であり,かかる捜査手法はプライバシーの侵害等深刻な人権侵害をひろく生じさせる危険性をも内在するものである。そのため,最高裁判所も,「重大な犯罪」について,捜査上「真にやむを得ないと認められる」場合に限定して,通信傍受が憲法上許されるとしているのである(最高裁第三小法廷平成11年12月16日決定)。
そして,「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」の施行後に実行された通信傍受が,適法・適切に為されていたのかについての検証がないまま,「重大な犯罪」とは言えない類型の犯罪にまで対象犯罪を拡大し,通信傍受が適法・適切に為されるための担保である「通信事業者による立会い」を不要とすることは,法制定の趣旨にも反するものであって,容認することはできない。
なお,「通信傍受の合理化・効率化」の理由として,振り込め詐欺等の組織的犯罪に対する捜査の必要性があげられ,事務当局試案でも対象犯罪に追加された犯罪に関する通信傍受については一定の組織性を要件とするものとされているが,仮に振り込め詐欺等の捜査において有用性があったとしても,これを認めることにより社会にもたらされる弊害は比較にならないほど重大なものであるから,これら捜査手法の拡大を容認することはできない。
以上の理由から,事務当局試案に記載されている「通信傍受の合理化・効率化」に強く反対する。
2014年(平成26年)5月10日
東北弁護士会連合会
会長 松坂英明
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