日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)と最高裁判所(以下「最高裁」という)との間で、2014年(平成26年)9月から地域司法の基盤整備に関する協議が続けられてきたが、この協議を受けて、最高裁は、本年1月に、①労働審判実施支部について、これまでは全国2か所の支部のみであったものを、2017年(平成29年)4月から、さらに3か所の支部においても実施すべく準備に着手すること、②裁判官非常駐支部及び家庭裁判所出張所について、本年4月から1支部に支部長を置いて常駐化させるとともに、3支部及び2家裁出張所で裁判官のてん補回数を増加させること等の方針を表明した。

 このような最高裁の対応は、身近で利用しやすい司法の基盤整備を進めるものであり一定の評価に値するものである。しかし、今回拡大された労働審判実施支部と裁判官非常駐支部・出張所への常駐やてん補回数を増加する支部・出張所の数は極少数にとどまっており、仙台高裁管内の支部及び出張所はいずれの対象にもなっておらず、不十分な結論と評価せざるを得ない。

 当連合会は、最近では、2012年(平成24年)7月の定期大会においては「すべての裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」を、2015年(平成27年)7月の定期大会においては、「裁判所支部管内における司法機能の整備・拡充を求める決議」を採択し、全国の地方・家庭裁判所及び地方検察庁において裁判官・検事を速やかに常駐させ、裁判所支部・検察庁支部の人的・物的基盤を整備すること等を求める意見を表明してきた。それにも関わらず、仙台高裁管内における裁判所支部が上記①②のいずれの対象にもならなかったことは、遺憾と言わざるを得ない。

 そもそも、今回最高裁が示した結論では、支部管内の多くの住民は、労働紛争を迅速に解決でき市民の満足度が高い制度と評価されている労働審判の利用が大きく制約されている状態が改善されないばかりか、裁判官非常駐支部・出張所管内在住の住民は、裁判官による司法手続それ自体を受ける機会が制限された状態が何ら解消されないまま放置されてしまうことになる。また、今回の協議結果では、合議事件の取扱支部を拡大するような結論は示されておらず、裁判手続を本庁に集約する流れに歯止めをかける動きは見られない。

 仙台高裁管内においては、全ての裁判所支部において労働審判が実施されていないばかりか、8ヶ所の裁判所支部には裁判官が常駐しておらず、合議事件は8ヶ所の支部でしか扱われていない。このような現状の見直しが図られなければ、支部管内在住の住民の多くが、十分な司法サービスを受ける機会を奪われ、憲法が保障する裁判を受ける権利を著しく制限されることになってしまう。特に、東日本大震災で多大な被害を被った太平洋沿岸地域をはじめ各地に依然として震災あるいは復興に関連する事件が相当数存在し、その中には労働審判や合議制の対象となる事件も一定数存在する。このような事情に鑑みれば、裁判手続が本庁に集約化されることは、支部管内に所在する被災地の復旧・復興を妨げる結果となりかねない。以上のような状況を踏まえ、当連合会は、裁判所支部管内における市民の裁判を受ける権利を実質的に保障するために、国に対し、これまで採択してきた決議内容の実現を改めて要求するとともに、下記の事項について、重ねて強く改善を要求する。 

記

(1)労働審判が実施されていない仙台高裁管内の福島地方裁判所郡山支部、同いわき支部、青森地方裁判所弘前支部をはじめとする各地の地裁支部に労働審判を導入すること

(2)仙台高裁管内の青森地方裁判所十和田支部、同五所川原支部をはじめとする各地の裁判官非常駐支部に、裁判官を速やかに常駐させ、裁判所の人的・物的基盤を整備すること

(3)各地の地裁本庁に集約されている合議事件をはじめとする支部管内の事件は、当該支部管内で取り扱えるようにすること

(4)裁判所支部機能等を整備・拡充する財源を確保するために、司法予算を増額すること

 

 以上のとおり決議する。

2016年(平成28年)7月1日
東北弁護士会連合会

提 案 理 由

1 日弁連と最高裁との協議結果の公表

日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は、最高裁判所(以下「最高裁」という)との間で、2014年(平成26年)9月から、民事司法改革に関する協議を開始し、4つの部会を設置した上で協議を行ってきた。上記4部会の中の「基盤整備」部会の協議で、日弁連は、労働審判実施支部の拡大、裁判官非常駐支部・家裁出張所の運用改善、合議事件取扱支部の拡大等についての提案を行い、その必要性を裏付ける事実関係の調査結果及び各種データ等の資料を提示する等の対応をしてきたが、本年1月15日の協議会において、最高裁から、裁判所支部に関し、以下のような回答がなされ、上記部会での協議は終了した。

① 労働審判実施支部の拡大
2017年(平成29年)4月から、静岡地裁浜松支部、長野地裁松本支部、広島地裁福山支部の3支部において、労働審判事件の取扱いを開始することができるよう準備を開始し、併せて、労働審判員候補者の推薦母体との間で調整を進めていくこととする。

② 裁判所支部の裁判官常駐化
2016年(平成28年)4月から、松江地家裁出雲支部に支部長を置いて常駐化させる。また、2016年(平成28年)4月から、静岡地家裁掛川支部、神戸地家裁柏原支部、高松地家裁観音寺支部の3支部について、てん補回数を増加させる方向での準備を進める。

③ 家庭裁判所出張所の運用改善について
2016年(平成28年)4月から、さいたま家裁飯能出張所、岡山家裁玉島出張所の2出張所のてん補日を増加させる方向で準備を進める。
 

2 協議結果の問題点

以上の最高裁判所の回答は、日弁連が提示した、労働審判実施支部の拡大、裁判官非常駐支部・家裁出張所の運用改善の要請の一部を受け入れるものであり、一定の評価に値する。

しかし、今回拡大された労働審判実施支部と裁判官非常駐支部への常駐やてん補回数を増加する支部等の数は全国の支部等のうちの極少数にとどまっている。また、上記部会の主要なテーマの一つであった合議制事件取扱支部の拡大については、「各支部の事件処理状況、最寄りの合議制取扱庁までのアクセスを前提とした場合、現時点で合議制取扱支部を増加させなければならない事情があるとは考えていない」として運用改善が見送られた。さらに、裁判官の増員や調停室の不足解消等の人的物的体制の整備やそれに伴う司法予算の増大についても、特段の前進は見られなかった。

特に、仙台高等裁判所管内の各裁判所支部及び出張所においては、日弁連から、福島地方裁判所郡山支部、同いわき支部、青森地方裁判所弘前支部での労働審判の実施や、青森地方裁判所十和田支部、同五所川原支部への裁判官の常駐化を提案したにもかかわらず、いずれについても運用改善がなされない結果となった。

3 当連合会の活動と上記協議結果に対する評価

これまで当連合会は、裁判所支部管内の司法基盤の整備・拡充を重要課題と位置づけ、2005年(平成17年)7月の定期大会において「裁判を受ける権利の保障を実質化するためにすべての裁判所及び検察庁に裁判官及び検察官を常駐させることを求める決議」を採択するとともに、2012年(平成24年)7月の定期大会においては「すべての裁判所支部管内における司法の機能充実を求める決議」を、2015年(平成27年)7月の定期大会においては、「裁判所支部管内における司法機能の整備・拡充を求める決議」を採択し、全国の地方・家庭裁判所及び地方検察庁において裁判官・検事を速やかに常駐させ、裁判所支部・検察庁支部の人的・物的基盤を整備すること等を求める意見を表明してきた。

さらに、これらの決議の趣旨について地域の住民や地方自治体関係者らの理解を得て、各地から司法基盤の整備を求める声が上がるのを促すために、これまでに、宮城県栗原市、青森県十和田市、岩手県二戸市、宮城県石巻市において、「地域の司法を考える」と銘打った市民集会を開催してきた。
このように当連合会が繰り返し求めてきたにも関わらず、仙台高裁管内の裁判所支部・出張所は上記2①②のいずれの対象にもならず、合議事件取扱支部が拡大されることも見送られたのであり、誠に遺憾と言わざるを得ない。

4 具体的な問題点

労働審判の実施が一部の支部に限られていることや裁判官が常駐していない支部が存在することについては、以下のような具体的な問題点が指摘されている。

まず、労働審判については、地方でも頻発する労働紛争を迅速かつ適切に解決できる点で利用者の満足度が高い制度と評価されているが、上記のような事情から、支部管内の住民の多くはこの制度を容易に利用できる状況にはない。そのため、支部管内、とりわけ本庁と隣接する支部以外の住民が時間と交通費等を負担してまで申立てをするケースは必ずしも多くはないのが実情であり、支部管内に居住する住民がこの手続の利用を断念した事例があったとの報告もなされている。

非常駐裁判所では、てん補日が少ないために次回の期日までの間隔が長く空いてしまう支部や、ただでさえ数少ないてん補日に様々な事件を集中的に取り扱わざるを得ず、人証採用の制限が行われるなど各事件について十分な審理がなされているとは言い難い支部も見受けられる。また、民事保全、証拠保全やDV防止法の保護命令等の迅速性が求められる事件においても、審尋期日が速やかに開廷されなかったり、裁判官の非てん補日には裁判官常駐庁に記録使送をするなどの事務対応が必要となるため、発令まで時間を要することになってしまうとの状況が見受けられる。

さらに、合議事件が開廷されていない地裁支部管内の当事者、関係人、弁護士は、行政訴訟・医療過誤訴訟等の複雑な民事事件や、裁判員裁判対象事件をはじめとする法定刑の重い刑事事件の際には、本庁や他の実施支部まで移動を余儀なくされている。

特に、東日本大震災で多大な被害を被った岩手県・宮城県・福島県の沿岸地域は、その多くが支部管轄地域に属する。これらの地域では、依然として震災に関連し、あるいは復興に関連する事件が存在し、その中には労働審判の対象となる労働紛争や、合議事件となる重大事件も一定数存在することに鑑みれば、裁判手続が本庁に集約化されることは、支部管内に所在する被災地の復興を妨げる結果となりかねない。

5 司法基盤の偏在と裁判を受ける権利の侵害

以上のように特定の地域の住民が裁判上の手続において不利益な扱いを受けることは、国民の裁判を受ける権利(憲法第32条)との関係で看過できない問題を生じさせている。裁判を受ける権利は、国民が司法を通じてその権利を実現するための重要な権利であり、その保障は、国民が単に裁判所で裁判を受けられることを意味するのではなく、誰もが適正・迅速な裁判が受けられるような実質的な内容を伴うものでなくてはならない。このような裁判を受ける権利の実質化の観点から、2001年(平成13年)に公表された司法制度改革審議会意見書は、「司法制度改革の3つの柱」の第1として「国民の期待に応える司法制度とするため、司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとする」ことを定め、「国民の期待に応える司法制度の構築(制度的基盤の整備)」を目標として掲げている(上記審議会意見書1頁)。国民の裁判を受ける権利の保障と、国民の期待に応える司法制度構築の要請は、本庁地域と支部地域との間で何ら異なるものではなく、国民に司法サービスを提供するに当たっては、これらの地域間に格差があってはならない。

6 地方創生と司法基盤整備の国民的視点

(1)地域の司法基盤の整備・充実は、現在政府が主要なテーマとして掲げる「地方創生」の観点からも極めて重要である。2014年(平成26年)11月に成立した「まち・ひと・しごと創生法」は、人口の東京圏への一極集中を是正するために、①豊かな生活を安心して営める地域社会をつくる、②地域社会を担う多様な人材を確保する、③地域における多様な就業を創出することを課題とし、これら三つを一体として推進することを目的として掲げているが、それぞれの地域で、生活の安全と事業の安定が確保される環境を整備するためには、市民の悩みごとや企業紛争を身近で迅速に解決してくれる司法手続を整備することが不可欠である。そして、市民の司法アクセスを拡充するためには司法の利用者である市民が地域から声を上げ、具体的な制度の実現を提言することが重要である。

(2)裁判所法によれば、地方裁判所の支部や出張所の配置を決めることや支部に勤務する裁判官を定めることができるのは最高裁であるが(同法31条等)、最高裁は、司法基盤整備の具体化について意見を求められると、限られた予算と人的体制の中でしか考えられないという回答を繰り返してきた。しかし、司法を利用する市民にとってみれば、司法基盤の偏在は、前述したように切実な問題であり、国民の裁判を受ける権利に関わる重要な人権課題である。上記審議会意見書においては、司法の国民的基盤の確立が、1つ大きな課題とされているが、この視点は、裁判員裁判への国民の参加のような場面だけではなく司法基盤の整備を検討するにあたっても基本に置く必要があり、最高裁は、司法基盤整備について、より積極的に「国民の期待と信頼に応える司法制度」を実現(上記審議会意見書1頁)するための責務を果たすべきである。

7 司法予算増額の必要性

最高裁が上記の責務を果たすためには、その実施に要する司法予算が確保される必要がある。上記の司法制度改革審議会意見書は、裁判所等の人的物的体制の充実を含む司法制度改革を実現するため、司法に対して財政面から十分な手当をすべく、政府に対して、必要な財政以上の措置について特段の配慮を求めている。ところが、裁判所関連予算は、裁判員裁判対策の点を除けば年々減少を続け、上記審議会意見書が出された以降も、国家予算に占める割合は約0.3%台で推移しているのが実情である。このような政府の措置は、審議会意見書が求めた司法に対する財政上の特段の配慮を政府が怠ってきたことの現れに他ならず、国民の裁判を受ける権利を充実させるべき責務を果たしていないと評価されてもやむを得ないものである。国は、司法に期待される役割の根本に立ち返り、市民の身近にあって、利用しやすく頼もしい司法を実現するために真摯な対応をすべきである。

8 むすび

以上のような理由により、当連合会は、裁判所支部管内における市民の裁判を受ける権利を実質的に保障するために、国に対し、これまで採択してきた決議内容の実現を改めて要求するとともに、最高裁との協議の対象となった、労働審判実施支部の拡充、裁判官非常駐支部の解消、司法手続の本庁集約化傾向の見直し、さらにはそれらを実現するための司法予算の増額等を求め、本決議に及ぶものである。

 以 上

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