1 当連合会は、2015年9月26日に、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる法改正に強く反対するとの会長声明を発している(以下「2015年会長声明」という。)。
 各地の弁護士会・連合会からも同趣旨の声明等が次々と出され、各新聞社からも引下げに疑問を呈する社説等が複数出されている。
 しかし、2017年2月に、法務大臣が法制審議会に対し、「少年法における『少年』の年齢を18歳未満とすること」を諮問し、これを受けて法制審議会に設置された少年法・刑事法部会(以下「部会」という。)においては、少年法適用年齢引下げを前提とした議論がなされている。
 そこで、当連合会は、改めて、少年法の適用年齢の引下げに反対すべく、本声明を発出する。
2 国法上の統一は理由とならないこと
 2018年6月に、民法の成年年齢を18歳に引き下げる法改正がなされたことから、民法の成年年齢との整合性を図るべきという意見や、親権に服さなくなった者に少年法の保護処分を課すことは不相当であるという意見が出ている。
 しかし、年齢制限を設ける趣旨・目的はそれぞれの法律によって異なるのであり、事実、民法の成年年齢が引き下げられたにもかかわらず、喫煙、飲酒及び公営ギャンブルを可能とする年齢はこれまでどおりの年齢(満20歳)が維持されており、しかも、子どもの福祉を趣旨・目的とする児童福祉法の2016年改正では、社会的養護の範囲が一部22歳にまで引き上げられている。
 少年の健全育成を期し、可塑性に富む少年には保護処分によって改善・更生を図るべきという少年法の趣旨・目的と市民社会における取引行為の犠牲にならないように保護すべきという民法の趣旨・目的は全く異なるのであるから、整合性を図る必要はない。
 また、民法上の親権に服さなくなったとしても、現実の18歳、19歳の者は精神的にも肉体的にもいまだ成熟しているとは言い難く、その多くが保護者の監護下にあるといえる。そのような者に対し、刑罰ではなく保護処分を課すことは健全育成という少年法の趣旨からしてむしろ望ましいといえるのである。
3 少年犯罪は増加しておらず、現行少年法が有効に機能していること
 2015年会長声明においても、少年による凶悪犯罪が増加しているという統計データは存在せず、適用年齢を引き下げるべき立法事実が存在しないことを指摘した。また、部会においても、現行の少年法が有効に機能していることが議論の当然の前提とされている。
 つまり、全件を家庭裁判所に送致し、調査官による科学的調査、鑑別所での心身鑑別を経て、少年の個別性に応じた保護処分を課すという現行の少年法のもとで、少年犯罪は件数においても減少し、かつ、少年人口比においても減少しているのである。
4 適用年齢引下げによる弊害が大きいこと
 一方で、少年法の適用年齢を引き下げた場合、罪を犯した18歳及び19歳は、刑事訴訟法に基づいて処分されるところ、刑事訴訟法に基づく刑事裁判手続では、裁判所にも検察庁にも、家庭裁判所調査官に相当する調査機構が存在せず、教育的な働きかけができないため、再犯防止の観点からは問題がある。少年鑑別所・保護観察所の調査調整機能を活用したとしても、両所は専門性や調査手法等が異なり、家庭裁判所調査官と同様の調査及び働き掛けを期待することはできない。
5 「若年者に対する新たな処分」には大いに疑問があること
 少年法適用年齢引下げによる弊害が大きいとの批判を受けて、部会においては、罪を犯した18歳及び19歳で検察官が公訴提起をしないこと判断した者(起訴猶予者)に対し、家庭裁判所や少年鑑別所を介在させて改善更生に必要な処遇や働き掛けを行うことを可能にすることを目的とする制度(「若年者に対する新たな処分」)を検討しているようである。
 しかしながら、「若年者に対する新たな処分」なるものは、少年法適用年齢を引き下げて18歳・19歳の若年者を保護主義の対象から外して成人と同じ刑事手続の中での処分をすることにしながら、家庭裁判所を中心とする保護主義的な制度を接ぎ木しようとするものであり、図らずも少年法適用年齢引下げに合理性がないことが露呈した。このような代替案は、有効に機能している現行少年法の運用に無用の混乱を持ち込むだけのことであって、到底少年法適用年齢引下げを正当化する理由とはならない。
6 以上のとおり、民法の成年年齢との関係においても適用年齢を引き下げるべき理由はなく、また、引き下げた場合の弊害は極めて大きい上に、引き下げた場合に予定している「若年者に対する新たな処分」も大いに疑問があり、上記弊害を回避することはできない。
したがって、当連合会は、改めて少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる法改正に反対するものである。

  2019年(平成31年)4月6日
    東北弁護士会連合会
     会長 石橋乙秀