1 はじめに
 2017年12月、政府は、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)2基の導入を閣議決定した。その後、防衛省は、陸上自衛隊の新屋演習場(秋田県)とむつみ演習場(山口県)を配備候補地とし、本年5月27日、各種調査結果を踏まえて、秋田県や秋田市に対し、新屋演習場が「適地」であるとの判断を伝えた。
 しかし、当連合会は、以下に述べる理由から、イージス・アショアを新屋演習場に配備することに反対する。

2 周辺住民を危険に曝すおそれがあり「適地」とは言えないこと
 新屋演習場は、秋田市(人口約30万人)の市街地に近接し、1キロ圏内に小学校、高等学校、3キロ圏内には県庁、市役所や県警本部、総合病院等もある。隣接する勝平地区には約1万3000人が居住し、直近の住宅地までは約300メートルである。
 このような場所にイージス・アショアを配備することは、以下に指摘するとおり、地域に生活する住民の日常生活の平穏を害し、生命・身体・財産等を著しく危険に曝すものであって、同所が「適地」であると言うことはできない。
1)イージス・アショアは、戦時には、最初の攻撃目標となる可能性が高く、勝平地区のみならず、秋田市に甚大な人的・物的被害をもたらすおそれが大きい(日本が戦争当事国でなくとも、後述する集団的自衛権行使の可能性を理由に攻撃目標となる可能性もある)。
2)イージス・アショアに対しては、平時も含めて、武装工作員等による破壊・工作活動が行われる可能性が否定できない。破壊・工作活動自体の危険性もさることながら、これに対する防護を徹底しようとすれば、周辺住民らに対する自衛隊や公安警察等の情報機関による監視が強まり、プライバシー侵害の危険が懸念される。
3)イージス・アショアのレーダーから照射される強力な電磁波の影響について、防衛省は、航空機の平素の運行に支障はないとしているが、ドクターヘリなどの飛行ルートによっては、連絡調整が必要になることを認めている。平時の救命救急活動に悪影響を与えるおそれがある。
4)イージス・アショアから垂直に近い角度で発射されるSM-3ブロックⅡA迎撃ミサイルは、多段式で、燃焼を終えたブースターは分離されて地上に落下する。その予想落下区域について十分な説明がなく、隣接住宅地に落下する危険が否定できない。

3 地方自治の本旨からの問題点
 イージス・アショアの配備は、日本全土を防衛するために、周辺住民の生命、身体、財産に対する危険や日常生活上の負担を負わせるものであるから、「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない」と定める憲法95条の趣旨に則り、配備候補地として決定する前に、その住民の理解を得るよう、最大限の努力を尽くすべきである。
 ところが、新屋演習場が「適地」であるとする防衛省の判断の根拠となった調査報告書には、実地調査が行われておらず、デジタル地球儀「グーグルアース」を使用した机上計算においても極めて初歩的な誤りがあったことが判明している。また、設置が見込まれる区域が津波の浸水想定エリアに含まれるにもかかわらず、調査報告書には津波対策の実施方針が一切記載されていないなど、調査の信頼性には重大な疑問がある。
 前提となる調査すら信頼することのできない新屋演習場への配備については、真摯な説明がなされているとは到底言える状況ではない。また、電磁波が周辺住民の人体や日常生活に及ぼす影響への懸念も払拭されおらず、周辺住民の理解が得られているとは言えない。

4 憲法違反の集団的自衛権行使につながる懸念があること
 当連合会は、集団的自衛権行使を容認するいわゆる安全保障関連法案が、憲法の恒久平和主義や立憲主義の基本理念、さらには国民主権の基本理念にも反することから、2015年7月3日、「憲法違反である『平和安全法制整備法案』及び『国際平和支援法案』の国会提出に抗議し、その廃案を求める決議」を行った。同法案の強行採決についても、同年9月26日、「安全保障関連法案の強行採決に抗議する会長声明」を発出した。
 イージス・アショアは、当連合会が憲法違反と指摘した集団的自衛権の行使に用いられる可能性がある。2017年8月、当時の防衛大臣が、衆議院安全保障委員会で、北朝鮮からグアム島に向け弾道ミサイルが発射された場合、安全保障関連法上の集団的自衛権行使の要件である存立危機事態に当たる可能性がないとはいえないと答弁していることからしても、イージス・アショアが集団的自衛権の行使に用いられる可能性は否定できない。
 特に、新屋演習場にイージス・アショアが配備された場合、北朝鮮からオアフ島に向け弾道ミサイルが発射されたときに最短経路上にある同演習場から迎撃が行われる懸念がある。

5 結論
 以上のとおり、新屋演習場へのイージス・アショア配備は、周辺住民を危険に曝すおそれがあるから、およそ「適地」への配備とは言えず、周辺住民らの理解が得られていない現状では地方自治の本旨に照らし問題があり、さらに集団的自衛権行使につながる懸念もある。秋田弁護士会も、本年3月20日、同様の理由から、「新屋演習場へのイージス・アショア配備に反対する会長声明」を発出している。
 当連合会も、新屋演習場へのイージス・アショアの配備に反対する。

  2019年(令和元年)7月4日
     東北弁護士会連合会
      会長 石橋乙秀