2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故は、11万人を超える避難者を出した。
福島第一原子力発電所の半径20キロ圏内の警戒区域に指定された地域から避難した人々は、突然の避難を余儀なくされ、事故の発生から1年以上が経過した現在においても帰住の目処すら立っていない。被災者は、家や職場を失うことで財産権を侵害され、その地域で安全に生活する権利を侵害されている。
この事態は、国のエネルギー政策に基づき行われた原子力発電によってもたらされた災禍であり、国家による重大な人権侵害である。
日本の原子力発電施設に対する安全設計審査指針では、地震と地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であることがうたわれていた。しかし、国は、今回の地震や津波のような設計基準を超える自然現象に対する過酷事故対策を電力事業者の自主保安に任せていた。東京電力は、過酷事故対策として、設計基準を超える津波を想定した具体的な対策を行うべきであったが、これを怠っていた。これらの要因により、今回の福島原子力発電所事故が発生した。
ドイツ、イタリア及びベルギー等では、福島原子力発電所事故発生後、速やかに原子力発電政策の転換を行っている。
この度の福島原子力発電所事故により、ひとたび原子力施設に重大事故が発生した場合、取返しのつかない甚大な被害が発生する現実が突き付けられた。原子力発電を継続する限り、今回のような重大事故が再び、他の原子力発電所や核燃料サイクル施設でも発生する可能性がある。
当連合会は、福島原子力発電所事故により、回復の困難な甚大な被害が発生した現実に鑑み、二度と福島原子力発電所事故の悲劇を繰り返さないため、国及び東京電力その他の電力事業者に対し、以下の措置をとることを求める。

 

1 原子力発電に依存するエネルギー政策を根本から転換し、以下のとおり原子力発電所を廃止すること。
⑴ 東京電力福島第一原子力発電所、同第二原子力発電所、大地震あるいは大津波の発生が予測され施設損壊の危険性が現存する原子力発電所及び運転開始後30年を経過した原子力発電所は直ちに廃止する。
⑵ 上記以外の原子力発電所については、可及的速やかに廃止する。

2 原子力発電所の新設及び増設は、計画中、建設中を問わず中止すること。

3 核燃料サイクル政策を抜本的に見直し、六ヶ所再処理工場及び高速増殖炉原型炉もんじゅを即時廃止し、軽水炉によるプルサーマルを即時中止すること。

4 既成の高レベル放射性廃棄物(高レベルガラス固化体、使用済燃料)の最終処分については、安全性を確保し、十分な国民的議論を尽くした上で、発生者責任の原則に基づき、最終処分場を確保し、適切な処分方策を講じること。

以上のとおり決議する。

2012年(平成24年)7月6日
東北弁護士会連合会

 

 

提 案 理 由

 

第1 はじめに


2011年(平成23年)3月11日の東北地方太平洋沖地震により発生した東京電力福島第一原子力発電所(以下、「福島第一原発」という)及び同第二原子力発電所(以下、「福島第二原発」という)の事故(以下、「福島原発事故」という)は、11万人を超える避難者を出した。
被災者は、家や仕事を失う等により財産権を侵害され、その地域で安全に生活する権利を侵害されている。これらの人々に対する被害回復は十分に行われておらず、汚染された自然環境の回復も困難を極めている。この事態は、民間会社である東京電力が起こした事故により生じたもの、とのみ評価することはできない。国の原子力政策によってもたらされた災禍であり、国家による重大な人権侵害である。当連合会は、今回のような福島原発事故の悲劇を二度と繰り返さないために、この決議を行うものである。

 

第2 原子力発電の廃止に向けて

1 事故の発生と経緯、現状
東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0の巨大地震であり、福島第一原発が所在する福島県双葉郡大熊町及び双葉町では、震度6強を観測した。
この地震により、東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に広い範囲で津波を観測し、津波の第1波は、同年3月11日15時27分ころ、福島第一原発に到達した。その後、断続的に津波が到達し、福島第一原発の海側エリア及び主要建屋設置エリアは、ほぼ全域が浸水した。津波の高さは、小名浜港工事基準面からの浸水の高さで15メートルを超える箇所もあった。
政府の見解によると、福島第一原発では、地震の発生後、施設の安全を確保するための原子炉スクラムは達成されたものとみられるが、地震による損傷又は津波による被水で全交流電源及び冷却機能を喪失し、放射性物質の環境への放出を防ぐ機能も失われたと説明されている。いまだに福島第一原発の原子炉建屋及びその周辺では、放射線量が高く、また原子炉建屋には高線量の汚染水が貯まっていることなどから、被害内容の詳細を把握することが困難な状況となっている。
福島第二原発についても、一時的に原子炉冷却機能が喪失し、圧力抑制機能喪失という重大事故が発生した。

2 安全神話の崩壊
福島第一原発1号機から3号機では、それぞれ原子炉圧力容器への注水ができない状態が一定期間継続し、冷やす機能が失われ、各号機の炉心の核燃料は水で覆われずに露出して、炉心溶融に至り、溶融した燃料の一部は原子炉圧力容器の下部に堆積しているとみられる。
福島第一原発では、3月12日15時36分に1号機、3月14日11時1分に3号機、3月15日6時~6時10分ころに4号機が爆発した。1号機の爆発では、東京電力職員等5人が負傷し、3号機の爆発では、東京電力職員、自衛隊員等11人が負傷した。
福島第一原発における事故を受け、国の原子力災害対策本部は、原子力災害対策特別措置法に基づき、福島第一原発から半径20㎞圏内を警戒区域に、事故発生から1年間の積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に、今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性がある区域を緊急時避難準備区域に指定した。これらの措置により、2011年(平成23年)12月までに約11万4460人が避難する重大な事態となった。また、避難指示区域以外の住民も自主的に多数避難している。

3 大量の放射性物質(放射能)による環境汚染
この福島第一原発の事故により、大量の放射性物質が環境中に放出された。大気中に放出されたことはもちろん、汚染レベルの比較的低い汚染水を意図的に海洋に放出したほか、建屋内の配管及び亀裂から漏れ出した高レベル汚染水が海洋に放出された。
放射性物質の放出により、福島県のみならず、広い地域の土壌、水道水、植物、動物等が汚染され、セシウム等の放射性物質が検出された。水道水の汚染対策として乳幼児に対する摂取制限がされた。茶、牛乳、牛肉及び米等の多くの食品も放射性物質による汚染が判明し、出荷制限がされた。放射性物質の放出が周辺の産業に与えた影響は極めて大きく直接損害だけではなく、風評被害や間接損害も含め、多大な損害が生じた。
出荷制限がされても、放射性物質を体内に取り込むことを完全に排除することはできず、乳児の尿等からセシウムが検出されるなど、内部被ばくが進行している。

4 事故原因


⑴ 不十分な安全審査

①安全審査基準(指針類)の不備
「安全設計審査指針」及び「安全評価審査指針」では、単一の原因によって一つの機器が所定の安全機能を失うという「単一故障」を仮定している。「地震」や「津波」など共通の原因で複数の機器が同時に故障し、重大な事故につながるおそれがあることは従来から指摘されていたにもかかわらず指針類では全く考慮されていなかった。また、「安全設計審査指針」では、今回の事故のような長期間の全電源喪失は考慮する必要はないとし、非常用電源の信頼度が十分高いと判断されれば、電源喪失自体想定は不要とされていた。
2006年(平成18年)9月に改訂された新「耐震設計審査指針」によると、「施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して、その安全機能が損なわれることがないように設計」されることが要請されているが、安全審査においては、活断層を短く評価するなどして検討用地震の規模を小さく抑え、基準地震動を小さく策定するなどして巨大地震を想定しなかった。また、津波に関しては、2001年(平成13年)7月の改訂作業で最終的に津波対策が明文化されたが、新たに具体的な津波対策が打ち出される契機とはならなかった。

②審査の不公正性
日本の原子力発電事業は、原子力委員会、原子力安全委員会、経済産業省(資源エネルギー庁、原子力安全保安院)、電力会社等の電気事業者、原子力プラントメーカー、学者・研究者などの専門家、政治家等で構成されるいわゆる原子力村と呼ばれる利益共同体によって担われてきた。そのため、安全審査は形式的で馴れ合いの構造となっており、公正性は確保されていない。例えば、保安院が2006年(平成18年)4月に原子力安全委員会に対し、旧耐震設計審査指針に基づき建設された原子力発電所について、安全性に問題がないと表明するよう要求していたことが明らかとなっている。
⑵ 原発事故の原因
①地震(地震動)、津波の規模の過小評価
今回の震災に際し、福島第一原発の2、3、5号機の東西方向で、あらかじめ策定していた基準地震動Ss-1から基準地震動Ss-3のうち、これらのいずれかが各号機に伝わっていったと想定して算出される最大応答加速度を上回る加速度が検出され、地震動が過小評価されていた。また、国と東京電力は、大津波が想定されていたにもかかわらず、炉心が重大な損傷を受ける事態への有効適切な対策を怠った。
②共通事故原因を想定した対策の欠如
今回の事故は、地震とその後の津波によって機器・配管が損傷し、全電源喪失、冷却機能喪失が発生した。このような共通事故原因による事故は、どの原子炉にも共通して起こり得るが、その対策が欠如していた。
③長時間の電源喪失対策の欠落
今回の全電源喪失のような事態の発生を想定した計測機器復旧、電源復旧、格納容器ベント、SR弁操作による減圧等のマニュアル等も未整備で、これらに対する社員教育も十分に行われていなかった。
④冷却機能喪失
冷却機能喪失の原因が地震か津波かについては、見解が分かれている。原子炉に直結している多数の原子炉系配管のうちいずれかが、長時間の激しい地震動によって、津波前までに金属疲労破壊を起こし、そこから冷却材が噴出し始め、そのため1号機の原子炉水位が急速に降下し、その結果、最終的に燃料棒が水面より上に出て冷却機能を喪失したとする地震説と、今回の想定外の津波の影響により事故対応時に必要な機器・電源が水没するなどしてほぼ全ての機能を喪失したとする津波説(政府)がある。いずれにしても、冷却機能が喪失してメルトダウンが起きたものである。
⑤水素爆発の原因(操作ミスの介在)
1号機の全運転員は、非常用復水器作動の経験がなく、応用動作ができる訓練を受けていなかった。実際に消防車による代替注水及び格納容器ベントが開始されるまでに約4時間という大幅な時間を要し、炉心冷却に遅延を生じさせ、その結果水素爆発が発生し、放射能の外部放出を招いた。
5 諸外国の原子力政策
東北地方太平洋沖地震と福島第一原発の事故を契機に、世界各地で原子力政策の見直しの動きが起きた。
ドイツのメルケル政権は、2011年(平成23年)6月6日、国内の17基の原発を2022年(平成34年)までに閉鎖し、風力などの再生可能エネルギー中心の電力への転換をめざす政策を閣議決定した。イタリアでは、2011(平成23年)年6月13日、過去に全廃した原発の再開の是非を問う国民投票が即日開票され、反対票90%超という圧倒的多数で再開拒否が決まった。福島原発事故後に主要国で原発政策に関する国民投票を行ったのは同国が初めてであり、政府がめざす将来の原発新設計画は白紙撤回されることになった。
ベルギーやスイスでも、原子力政策の転換を図る決定がされた。
6 原子力に依存しない社会の実現をめざして


⑴ 原子力施設の立地と地域社会のあり方
電力消費が集中するのは大都市圏であるが、原子力施設が大都市圏に建設されることはない。その理由は、原子力施設が潜在的に大きな危険を有する施設であることに尽きる。このことは、「原子炉立地審査指針」において、原子炉やその敷地が非居住区域、低人口区域に包まれ、人口密集地帯から離れていなければならない旨明記されていることからも明らかである。
原子力施設が過疎地帯に建設されたとしても、これが危険性を有する施設であることに変わりはない。しかし、いわゆる「電源三法交付金」制度により、過疎地帯の地方自治体に原子力施設は受け入れられてきた。この電源三法交付金は、原子力発電所が古くなるにつれ、多額の交付金が交付されるなど手厚い支給がなされている。また、目的税で集めた税金で交付しているにもかかわらず、地方自治体の便宜に配慮し、一般財源に近い形で利用できるように改正されている。また、法定外普通税の一つとして都道府県が条例で定め、原子力発電所の原子炉に挿入する核燃料の価格を基準にして、原子炉の設置者に課せられる核燃料税もある。青森県では、「核燃料物質等取扱税」として、再処理工場での取扱いなどにも課税している。
そのほか、巨大な原子力施設が建設されれば、立地地方自治体は莫大な固定資産税収入を得ることができる。また、電気事業者から地方自治体に対して巨額の寄付が行われる例も少なからず存在する。
しかしながら、このように巨額の税金や交付金、寄付金の特権が与えられるのは、原子力施設の危険性の大きさの裏返しである。この度の福島原発事故により、存在しないと信じ込まされていた危険が現実のものとなり、ひとたび原子力施設に重大事故が発生すれば、取返しのつかない甚大な被害が発生する現実が突き付けられた。同時に、この被害の甚大さに照らせば、過去にいかなる経済的優遇措置がとられていたとしても、事故によって発生した犠牲を甘受することなど到底不可能であることも証明された。したがって、原子力施設の立地地方自治体においては、地域住民の安全確保のために、原子力施設を受容することで安易に得られる利益に依存しない健全な財政を構築することにより、原子力施設の受容を見直すべきである。また、そのためには、再生可能エネルギーの研究拠点を設ける等、原子力に代わる産業の誘致・育成による地域振興策の促進及び雇用対策が必要であり、国の積極的支援が不可欠である。
⑵ 原子力発電と電力供給の関係
原子力発電を推進する立場からは、原子力発電なしでは電力需要を賄うことができないし、地球温暖化防止の見地から、原子力発電を止めるべきではないと喧伝されている。
しかし、今後、ピーク時における電力消費対策を講じ、自然エネルギーを利用した代替エネルギーを推進し、かつ節電、技術開発などによる省エネ対策を推進すること等により、電力供給の安定と温暖化対策を両立することは可能と考えられる。
⑶ 原子力発電の経済性
原子力発電の発電コストは他の電源と比べて「安い」とされてきた。
しかし、2011年(平成23年)12月19日付コスト等検証委員会報告書によると、政府の試算でも原子力発電の発電コストは、従来試算より約5割高い1キロワット時当たり8.9円と算定され、火力並みになると報告されている。原子力発電のコスト面での優位性が既に失われた原子力依存政策は転換するべきである。
7 全ての原発は廃止すべきである。


⑴ 事故を起こした福島第一原発、福島第二原発につき速やかに廃止措置(原子炉施設の解体等)に着手するべきことは当然であるが、その他の原発でも同様の事故が起こる可能性がある。
特に、浜岡原発では、敷地直下でM8クラスの東海地震の発生が予測されており、今回のような過酷事故のおそれがあるため、廃止すべきである。敦賀原発、東通原発など、敷地内やその近隣に活断層の存在が指摘されている場合も同様である。
また、日本の全原発の約4割は、運転開始後30年を経過している。原発の耐用年数は、当初30年とされており、それを超えて使用した場合、当初の設計強度や安全性は保たれず、事故の可能性は大きくなる。よって、運転開始から30年を経過した原発は、直ちに廃止すべきである。
その他の原発についても、過酷事故が発生した場合には被害回復の困難な甚大な結果が生じるのであるから、可及的速やかに廃止することが必要である。
⑵ また、福島原発事故の教訓として、原発に依存しないエネルギー政策を採るべきであるから、原発の新設及び増設は、計画中、建設中を問わず、中止すべきである。

 

第3 核燃料サイクルからの撤退を


1 核燃料サイクルの目的
核燃料サイクルは、原発運転の後処理(使用済燃料の再処理、低レベル放射性廃棄物の最終処分、高レベルガラス固化体の貯蔵・最終処分)及び再処理して取り出したプルトニウムの有効利用をめざすものである。
2 核燃料サイクルの現状
⑴ 原子力政策は、放射性廃棄物の処理・処分問題を解決しないままに推進されてきた。そのツケは、低レベル廃棄物と使用済燃料が原発施設内にあふれ、操業を困難にする事態となって現実化した。
前者は、青森県上北郡六ヶ所村に最終処分場を設置し埋設することで一応解消されたが、増え続ける廃棄物の300年管理は不安を残している。
後者は、使用済燃料を全量再処理する方策を採用し、一部を英・仏の再処理工場へ委託し、それ以外の増え続ける使用済燃料を六ヶ所再処理工場で処理することにした。六ヶ所核燃料サイクル施設には、年間800トンの処理能力を持つ再処理工場とその附帯施設である使用済燃料プール、海外再処理委託で返還されてくる高レベルガラス固化体と低レベル廃棄物の中間貯蔵施設が稼働中である。しかし、再処理は計画どおりに進んでいない。試運転の最終段階である高レベル廃液のガラス固化工程でつまずき、2012年(平成24年)10月に予定されている竣工は、事実上先送りされる状況にある。
また、高レベル廃棄物の最終処分場探しも難航しており、その目処も立たないまま再処理を進めて、廃棄物を増やすことは許されない。
⑵ 他方、プルトニウム利用政策は、必要性、経済性、安全性いずれの観点からも破綻的状況にあると言っても過言ではない。
①必要性について
プルトニウムは、本来高速増殖炉で燃料として使用する計画であったが、原型炉「もんじゅ」は、度重なる事故、トラブルのため実用化が断念され、核燃料サイクルの最も重要な一角が崩れ再処理の目的は失われようとしている。諸外国でも高速増殖炉計画はすでに放棄されている。
プルサーマル計画は、使用済燃料を再処理工場に搬出することによって原発の延命を図り、これまで貯まり続けた約40トンの余剰プルトニウムを消費するための「苦肉の策」と化している。これは、経済性に見合わないばかりか、安全性にも疑問があり、使用済MOX燃料の処理・処分の困難性が指摘されている。
このように、再処理は、得られたプルトニウムの使い道を欠き、資源の有効活用、エネルギー安全保障に資するものではない。再処理の必要性が失われたことによって、MOX燃料加工工場の建設も中止すべきである。
再処理によって放射性廃棄物量が減容し、毒性が減ると、推進のメリットが喧伝されているが、プルトニウムや回収ウランの再利用によって発生する使用済燃料を考慮するとメリットは減殺される。逆に、再処理工程で膨大な廃棄物が排出し、使用済燃料の数倍から数十倍に増えると指摘されている。
②経済性について
政府の試算によると、再処理費用は、直接処分の約2倍である。
六ヶ所再処理工場の全コスト(運転・保守、廃止措置など)は、11兆円を超えるが、これによって回収される資源は9000億円分のMOX燃料にすぎないという指摘がある。
③安全性について
再処理技術は確立しておらず、これが原因で民事、軍事を問わず国内外の施設で多くの事故、故障が起きている。
1997年(平成9年)3月の東海再処理工場におけるアスファルト固化処理施設での火災爆発事故は、広範囲に及ぶ汚染と作業員多数の被ばくをもたらした。六ヶ所再処理工場においても、試運転期間の10年間において監督官庁への報告義務を課された大小の事故、トラブルは約2800回を数えている。東北地方太平洋沖地震の際は、震度4の地震で外部電源が喪失したが、非常用ディーゼル発電機が起動しことなきを得た。
しかし、巨大地震、津波、軍用機の墜落により、使用済燃料プールや高レベル廃液貯蔵施設に冷却水を供給する電源系統が停止したり、総延長1300㎞、継ぎ目の数2万6000ヶ所と言われる配管が破損すると、福島原発事故を上回る被害が発生する危険がある。特に心配されるのは、専門家から指摘されている核燃料サイクル施設直下の活断層及び沖合10㎞の海域にマグニチュード8超の地震を起こす大活断層が存在することである。わずか450ガルの基準地震動しか想定していない再処理工場の地震による損壊と、それによる地球規模での放射能汚染が危惧される。さらには、東京電力をして「想定外」と言わしめた「福島原発事故」が六ヶ所村で再発しない保証はないのである。また、ジェーシーオーのウラン再転換施設で大規模な臨界事故が起きたことも忘れてはならない。
3 結語
原発に依存しないエネルギー政策は、使用済燃料の再処理を不要とし、核燃料サイクルの環を閉じることを意味する。
現在、原子力推進の国策見直しがなされているが、再処理事業は何ら電力供給に貢献しておらず、逆に高レベル廃棄物の処分という難問解決を深刻化させ、余剰プルトニウムの国際非難を煽ることになる。
「もんじゅ」及び東海再処理工場は、即刻廃止措置を講じ、六ヶ所再処理工場は試運転再開を中止した上で、廃止措置に踏み切るべきである。

 

第4 高レベル放射性廃棄物の処分の困難性


1 使用済核燃料の処分方策について
前記のとおり、我国は核燃料サイクル政策から撤退し、使用済燃料は、再処理せず、直接最終処分すべきである。

2 高レベル廃棄物対策の観点からも原発を全廃すべきである。
原発の利用は、強い放射能を持つ危険な高レベル廃棄物の最終処分問題を先送りにしたまま進められてきた。
国内の商業用原発の操業開始は1966年(昭和41年)であるが、最終処分事業実施の法的枠組を定める「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の成立は2000年(平成12年)になってからである。同法では、最終処分施設の立地は、文献調査、概要調査、精密調査、建設の4段階で行われることとされているが、現時点でも、文献調査の区域を公募している段階である。
この間、使用済核燃料を含む高レベル廃棄物は増え続け、資源エネルギー庁によると、2009年(平成21年)12月末現在、再処理後のガラス固化体換算で約2万3100本相当にのぼっている。原発が「トイレなきマンション」と呼ばれる所以である。
このように、原発は、最終処分のあてもないまま危険な高レベル廃棄物を増やし続けることになるのであるから、この観点からも可及的速やかに全廃すべきである。

3 最終処分の進め方について
高レベル廃棄物は、安全に最終処分しなければならないが、そのためには科学的知見に基づく処分方法や適地の選択とともに、民主的手続に則った処分地の地元住民の合意形成が不可欠である。

第5 むすび


以上のとおり、国及び電気事業者は、福島原発事故により多大の被害が発生し、その被害回復が困難を極めている現実を重く受け止め、二度と同じ事故を繰り返さないため、福島原発は全基直ちに廃止し、その他の原発についても30年を経過したもの、事故の危険度の高いものは直ちに廃止するべきである。それ以外の原発も可及的速やかに廃止するべきである。
また、核燃料サイクル政策は抜本的に見直し、六ヶ所再処理工場、高速増殖炉もんじゅなどの関連施設は直ちに廃止するべきである。
さらに、既成の高レベル放射性廃棄物の最終処分については、安全性を確保した上で、国民的議論を尽くして実施するべきである。

以上