検察庁法22条は、「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と定める。同法には定年延長の規定はない。したがって、「その他の検察官」である東京高検の黒川弘務検事長は、本年2月7日に退官する予定であった。ところが、安倍晋三内閣は、本年1月31日の閣議で、定年延長について定める国家公務員法81条の3第1項を根拠に黒川検事長の定年延長を決定した(以下「本件閣議決定」という。)。
 
 しかしながら、検察庁法22条は、検察官の職務と責任の特殊性に基づき、国家公務員の身分や職務に関する一般法である国家公務員法の特例として検察官の定年退官を定めている以上(検察庁法32条の2)、定年退職を定めた国家公務員法81条の2及び同条を前提にする同法81条の3第1項が検察官に適用される余地はない。この点は、国家公務員の定年制度(国家公務員法81条の2~同条の5)を導入した国家公務員法一部改正法案が、検察官には「今回の(改正法案に盛り込んだ)定年制は適用されない」という人事院の説明(政府見解。1981年4月28日衆議院内閣委員会)を踏まえて、可決成立した国会審議の経過からも明らかである。つまり、国家公務員法81条の3が検察官に適用されないことは立法者意思からも明らかなのである。
 したがって、本件閣議決定は、検察庁法22条に違反する。

 これに対して、安倍首相は、本年2月13日の衆議院本会議で、上記政府見解の存在を認めた上で、安倍内閣として閣議決定で解釈を変更したことを明言して、本件閣議決定が適法である旨説明している。しかしながら、上記のとおり、国家公務員法81条の3が検察官に適用されないことは国会の審議で確認されたものであり、長年継続されてきた政府見解でもあった。それをときの内閣の都合で国会の審議も経ずに変更することは、国会の立法権を軽視するものであり、三権分立に反する。 
したがって、安倍首相の上記説明に正当性は認められない。

 本件閣議決定が違法であることに加え、国家公務員法81条の3が検察官に適用されるという違法な解釈に変更することについての具体的な必要性について内閣からまともな説明がなされていないことを踏まえれば、本件閣議決定は単に法律違反という問題にとどまらず、ときの政権が、権力者の犯罪をも捜査対象とする検察官の人事に不当に介入する問題であると一般社会から受け止められ、検察官の政治権力からの独立性についての疑念を生み出すものとなる。このような事態は、不偏不党を旨とする検察権行使に対する国民の信頼を大きく揺るがすものであり、到底容認できない。
 よって、当連合会は、政府に対し、黒川検事長の定年延長を行った本件閣議決定を直ちに撤回することを求める。

                     2020年(令和2年)3月14日 
                        東北弁護士会連合会
                        会 長 石橋乙秀