昨年末から、いわゆる「派遣切り」が社会問題となっている。厚生労働省の発表によれば、昨年10月から本年6月までに職を失いまたはその予定のある非正規労働者は約21万6400人とされている。失業率も悪化し続けており、総務省の発表によれば、本年4月の完全失業率は5.0%と前月に比べ0.2ポイント増加し、過去最悪の5.5%に迫る勢いとなっている。
 さらに深刻なのは、昨年末から日比谷公園をはじめ各地で行われた「派遣村」の取り組みから明らかなように、失職と同時に住居も失い、今日明日の生活にすら窮する失業者が大量に出現していることである。その原因は、1990年代以降のいわゆる「構造改革」路線の下で、労働分野の規制緩和や社会保障費の抑制が進められてきたことにある。すなわち、労働者派遣法の改正等の規制緩和により、企業は、安価でいつでも雇用調整ができる労働力として、正規労働者から派遣労働者などの非正規雇用労働者への置き換えを急激に進めてきた。その結果、年収200万円以下の労働者が1000万人を超えている。また、雇用保険など社会保険も正規雇用労働者を前提としているため、非正規雇用労働者の多くは社会保険にそもそも加入することすらできない。さらに、「最後のセーフティネット」と言われる生活保護も、社会保障費の抑制が進められる中、いわゆる「水際作戦」などが行われ、十分に機能していない。このような状況の下では、失職により、すぐに生活にすら窮することになる人々が大量に生み出されるのである。

 以上のような労働と貧困の現状は人間が生まれながらにして享有している人権を侵害するものとなっており、日本弁護士連合会(以下、「日弁連」という。)が本年5月29日の定期総会で決議したように、憲法が保障する個人の尊厳や生存権は危殆に瀕している。国・地方自治体は、憲法13条、同25条、同27条等に照らし、全ての人々が人間らしく働き、生活する権利を実現する責務がある。
 労働と貧困の問題について、日弁連・各単位会・各会員は、今日まで、生活保護や雇用問題に関する無料相談会の実施、生活保護申請の同行支援、各種の政策提言など、様々な取り組みを行ってきたが、こうした取り組みの中で、国・地方自治体が適切な施策をとることの必要性があらためて浮き彫りとなっている。  このような見地から、当連合会は、弁護士としてなしうる、上記のような様々な活動への取り組みを一層強めることをあらためて決意するとともに、国・地方公共団体等に対し、下記の対策及び施策の実行を強く求めるものである。

1 生活困窮者の救済のため緊急にとるべき対策

使用されていない公共施設や公営住宅などを利用して、シェルターを開設すること。また、国や自治体が、貧困等生活上の問題を抱えた国民・住民に対し、総合的、横断的な相談窓口を開設すること。

2 労働者派遣法の抜本的改正等、あるべき労働関係の実現のための施策

 派遣業種の限定、登録型派遣の禁止、日雇い派遣の全面禁止、違法派遣に関する直接雇用のみなし規定、正規労働者との均等待遇、マージン率の上限規制、グループ内派遣の禁止、派遣先企業による派遣労働者の特定を目的とする行為の禁止などを盛り込んだ労働者派遣法等の抜本的改正を行うこと。

3 セーフティネットの再構築のための施策

(1) 社会保険制度の改善

 所定労働時間が一定以上に達した労働者に対しては、被用者社会保険への加入を認めるとともに、短時間就労者に関しては、使用者に健康保険・年金の保険料負担を義務付けること。また、雇用保険については、給付期間の大幅な延長および給付額の大幅な増額を行うこと。

(2) 公的扶助制度の改善

 日弁連が昨年11月に発表した「生活保護法改正要綱案」に従い、生活保護法を抜本的に改正すること。また、貧困の連鎖を断ち切るために、生活保護の母子加算を復活するとともに、児童扶養手当・児童手当の大幅な増額、公立保育所の拡充、奨学金制度の充実など、公的扶助制度の抜本的改善を行うこと。

以上のとおり決議する。

2009年(平成21年)7月3日
東北弁護士会連合会