政府は,「特定秘密の保護に関する法律案」(以下「本法案」という。)を今臨時国会で成立させようとしている。

当連合会は,2013年(平成25年)3月30日付け「秘密保全法制の制定に反対する会長声明」において,政府が法案化を図っていた秘密保全法制が,①知る権利を制限し,国民主権が脅かされる危険があること,②秘密とされる範囲が広範かつ不明確であるだけなく,秘密漏えいの共謀・教唆・扇動や秘密取得行為まで処罰範囲が広がっていること,③適性評価制度の下,プライバシー侵害や思想信条を理由とする差別的取扱いの危険があることを指摘した。

しかし,本法案ではこれらの問題点は何ら解消されておらず,みんなの党及び日本維新の会との協議を経た本法案の修正案(以下「修正案」という。)においてもその点は変わらない。とりわけ,各行政機関による恣意的な秘密指定を防止する仕組みがないとの批判を受けて作成された修正案においても,各行政機関が保有する特定秘密を国会に提供することについては行政機関の長の裁量が認められたままであり(法案第10条),特定秘密指定の有効期間も延長を重ねることにより半永久的に定めることが依然として可能となっている(法案第4条)。修正案第18条第4項では,内閣総理大臣の特定秘密の指定等に関する行政各部への指揮監督権を追加しているが,政府や行政にとって都合の悪い情報にかかる特定秘密指定についてチェック機能を内閣総理大臣に担わせることは論理的にも現実的にも無理がある。

特定秘密指定の恣意的運用の危険性を考える上で原発問題は極めて重要であるが,福島第一原発事故ではメルトダウン(炉心溶融)やSPEEDI情報などの情報が隠ぺいされていたことは記憶に新しい。本法案では原発に関する情報もテロリズムの防止に関する事項として「特定秘密」とされる可能性が大きく,国民が知るべき情報を政府が恣意的に隠ぺいすることが可能となってしまう。この点において,福島県議会が「特定秘密の保護に関する法律案に対し慎重な対応を求める意見書」(平成25年10月9日)を全会一致で採択したことは重要な意味を持つ。

2013年(平成25年)6月には,著名な国際人権団体や国際法律家連盟など22の団体や学術機関によって,「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)」が策定された。この原則は,国家安全保障と国民の知る権利とを両立させるための実務的ガイドラインとして作成されたものである。このような国際的ガイドラインが公表された以上,本法案もこれを十分に尊重すべきところ,本法案の内容はこのツワネ原則に適合しているとは到底認められない。

よって,当連合会は,政府及び国会に対し,本法案を廃案とすることを求める。

併せて,現存する国家公務員法や自衛隊法などの中に含まれる秘密保全法制についても,ツワネ原則を踏まえて,その在り方を根本的に見直すことを求める。

2013年(平成25年)11月25日
東北弁護士会連合会
会長 高橋 耕