内閣総理大臣 菅 直人 殿
第1 意見の趣旨
東日本大震災の被災地域(当弁連管内に関しては,岩手県,宮城県,福島県の全域と,青森県の太平洋沿岸地域)を,速やかに,特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律第6条(民事調停法による調停申立手数料の特例措置)の適用地域と定めることを求める。
第2 意見の理由
1 権利保全特別措置法について
特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(以下,「権利保全特別措置法」という。)は,大規模な災害が発生した場合に,被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置について定めた法律である。同法は,阪神・淡路大震災に対応するために立法された行政上の権利利益の満了日の延長等に関する各種特別措置(特例)を,政令で定めることとすることにより,将来の大規模災害発生時に迅速に発動できるよう制度化したものである。
2 民事調停法による調停の申立ての手数料の特例(第6条)適用の必要性
(1)権利保全特別措置法第6条には,民事調停法による調停の申立ての手数料の特例が規定され,特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るため,民事調停申立て手数料を免除することとされている。
(2)東日本大震災は,多くの尊い人命を奪い去っただけでなく,家屋を押し流し,住居・塀等を著しく損傷させ,隣地間の境界を失わしめるといった甚大な被害を生じさせている。それに伴って生じる紛争は,借地借家問題をはじめ,建物や工作物の倒壊等の近隣問題,境界問題,解雇をはじめとする労働問題等,当事者間の話し合いによる解決になじむ紛争が大きな割合を占めている。そのため,これらの紛争の解決にとっては,民事調停手続きの活用は極めて重要であり,権利保全特別措置法第6条の特例適用による調停利用者の負担の軽減は不可欠の要請である。
(3)これまで,この特例は,罹災都市借地借家臨時処理法(以下,「罹災法」という。)の適用と同時に適用するとの運用が図られてきた。しかし,罹災法については,本日付で当連合会が表明した「東日本大震災への罹災都市借地借家臨時処理法の適用に関する意見書」でも述べているように,従来適用地域に混乱をもたらした経緯があること等から,多方面から廃止ないしは法改正の提言がなされており,同法を東日本大震災による被災地域に適用すべきではない。
(4)そもそも,権利保全特別措置法と罹災法とは,一括して適用されなければならない法的根拠はなく,被災地域の東日本大震災に起因する紛争を円満に解決するという観点からは,罹災法の適用とは切り離して,単独で早急に権利保全特別措置法第6条の適用を決定すべきである。
3 権利保全特別措置法第6条の適用地域について
東日本大震災の被災地域は,東日本の太平洋沿岸を中心に極めて広範囲に及んでおり,当連合会管内災害救助法の適用を受けている地域も,岩手県と宮城県は全市町村,福島県も47市町村,青森県は太平洋沿岸の2市町と東北地方の太平洋側から内陸に地域に広く及んでいる。
これまで述べたような被災地域の実情に鑑みると,同法の特例の適用は被災地域及びその周辺にできる限り広く認められるべきであり,当弁連管内に関しては,岩手県,宮城県,福島県の全域と,青森県の太平洋沿岸地域は全て適用地域に含めるべきである。
4 むすび
東日本大震災に伴い発生した法的問題は既にその多くが顕在化しており,各地の弁護士会が実施している法律相談やADRには連日多くの市民が足を運んでいる。
このような実情に鑑みると,市民間の法的紛争の解決を公的に支援することは緊急の課題というべきであり,被災地域に対し,権利保全特別措置法第6条の特例の適用を速やかに決定されるよう強く要請する。
以上
東北弁護士会連合会 会 長 廣嶋清則
同災害復興支援統轄本部 本部長 廣嶋清則
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