犯罪報道がなされた場合、我々の関心は、犯罪の加害者は誰か、どういう犯罪か、その被害者はどういう人か等に集まり、その犯罪加害者に家族が存在することまでは関心が向かなかったと言っても過言ではない。
 しかし、ほとんどの犯罪加害者には、親も配偶者も兄弟姉妹も子もいる。
 犯罪加害者のこれら家族、即ち、犯罪加害者家族は、一旦事件が報道されると、謂れなき偏見と差別により、社会から憎悪の対象として攻撃を受けて、精神的、経済的、社会的に大きな被害を受け、また、社会的無関心から支援を受けられずに社会から排除される可能性がある。その意味では、犯罪加害者家族も、性的少数者や在日外国人等と同じ、差別の対象としてのマイノリティー(社会的弱者、少数者)に属するといえる。犯罪加害者家族をはじめとするマイノリティーに属する人たちは、社会から謂れのない差別を受けている「被害者」の側面を帯有している。特に、犯罪加害者家族に属する子どもは第二の被害者と言っても過言ではなく、憲法上保障されている教育を受ける権利だけでなく、健やかに成長するための成長発達権が侵されている事実が認められる。
 国民は、憲法上、個人として尊重され、幸福追求権や健康で文化的な最低限度の生活を営む権利をはじめ種々の人権が保障されている。犯罪加害者家族が、精神的、経済的、社会的な打撃から立ち直るようにすることと、憲法上認められている幸福追求権をはじめとする全ての人権の保障を実現することは、国と社会の責務である。当連合会は、2016(平成28)年7月1日の決議において、上記のような犯罪加害者家族の置かれた状況に鑑み、国に対し、犯罪加害者家族に対する種々の支援を求めたが、支援策は一向に講じられていない。
 そこで、当連合会は、犯罪加害者家族に対する支援策のうち、喫緊の対応が必要な以下の施策について、改めて国に対しその実施を求めるものである。
1.国は、逮捕段階から公判終了までの間、捜査機関や裁判所に託児室或いは子どもが過ごせる別室を設けるなどして、刑事手続に関わる犯罪加害者家族に属する子どもが事件から遠ざけられ、事件による重大な影響を受けないようにする方策を講じること。
2.国は、インターネット上において、SNS、掲示板サイト等への投稿による誹謗中傷を受けることを防止するために、2021(令和3)年4月22日に国会で成立した、いわゆる改正「プロバイダ責任制限法」を更に改正して、被害を受けた犯罪加害者家族が速やかに発信者情報を得ることができるように同法の要件を見直すこと。
3.国は、謂れなき社会の偏見・差別により、経済的困窮に陥った犯罪加害者家族が、セーフティーネットとしての生活保護を容易に利用することができるように、いわゆる「水際作戦」を不可能にするために、生活保護の申請権を明示する制度的保障を設け、「扶養照会」を省略するとともに、保障される生活水準が健康で文化的な最低限度の生活の需要を確実に満たすようにすること。
4.国は、不当な偏見・差別により転居を余儀なくされた犯罪加害者家族に対し、公営住宅への優先入居を地方自治体に要請し、また、一時避難の場所の提供や長期に居住地を離れる人の転居先での住宅の確保を無償で行うとともに、居住先での自立支援と定着支援を無償で行うこと。
5.国は、犯罪加害者家族が母子家庭や父子家庭になった場合には、トライアル雇用事業を適切に運用し、継続的に勤務する人のために事業主等の理解を図ることを促進するとともに、退職せざるを得なくなった場合には、公共職業安定所による就業支援を行うこと。
6.国は、犯罪加害者家族が、過熱報道やバッシング等により精神的疾病を発症した場合に対応するために、国費によりカウンセリング等の心理療法を行うこと。
7.国は、子どもの精神的被害に対応するため、国費で思春期外来の治療を提供するとともに、学校でのいじめ防止等に対応するため、全ての学校へのスクールカウンセラー等の配置を行い、さらに、他からのバッシング等を理由に、精神的に追い込まれた家族による子どもに対する家庭内での虐待に対応するために、児童相談所の体制の充実を図ること。
8.国は、犯罪加害者家族の支援を行っている民間の支援組織に対し、財政的支援を含めて、その活動を支援すること。
9.国は、犯罪加害者家族の抱える法的問題に適切に対応するために、犯罪加害者家族についての資力要件を柔軟に運用できるよう民事法律扶助制度の改善を図り、その積極的な活用のための施策を講じること。

以上のとおり決議する。

                                 2022(令和4)年7月1日

                                    東北弁護士会連合会

提案理由
第1.はじめに
1.犯罪加害者家族とは
 犯罪加害者家族とは、刑事事件の被疑者・被告人とされている人の父母、夫や妻、子など、被疑者・被告人とされている人の親族をいう。
2.今大会のシンポジウムの趣旨
 山形県弁護士会では、2016(平成28)年7月1日(金)に山形市で開催された「平成28年度 東北弁護士会連合会定期弁護士  大会」(以下「平成28年弁連大会」という。)において、シンポジウムを実施した。
 このシンポジウムでは「犯罪加害者家族の支援について考える」をテーマに、犯罪者にされた人がたまたま家族の中から出たという理由で、謂れなき社会の偏見と差別に晒され様々な被害を受けている人たちの問題を、全国の弁護士会で初めて取り上げ、さらに、同大会において「犯罪加害者家族に対する支援を求める決議」を採択し、国に対し、犯罪加害者家族に対して支援を求めたにもかかわらず、今日まで目立った動きがない。
 山形県弁護士会では、この平成28年弁連大会以降、犯罪加害者家族支援委員会と犯罪加害者家族支援センターを立ち上げ、また、仙台市のNPO法人「ワールドオープンハート」(以下「WOH」という。)の阿部恭子氏のご協力を得て、犯罪加害者家族支援の活動を行ってきた。
 そこで、平成28年弁連大会以降の活動によって得た経験に基づき、再度、犯罪加害者家族についての問題点を提起し、改めて、国に対し犯罪加害者家族に対する支援を求めるために、今大会のシンポジウムを企画した。
第2.犯罪加害者家族支援の根拠 (犯罪加害者家族の権利)
1.ところで、犯罪被害者に対する支援は、2004(平成16)年の「犯罪被害者等基本法」の成立を受けて、2005(平成17)年 には犯罪被害者等基本計画が閣議決定され、その後、2021(令和3)年には第4次犯罪被害者等基本計画が閣議決定されるなど、着々と進展してきている。
 また、日弁連は2003(平成15)年10月17日に愛媛県で開催された第46回人権擁護大会において、「憲法第13条は全ての国民に生命・自由・幸福追求の権利を認め、第25条は全ての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を認め、国に、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上・増進に務めるべき義務を課している。」ことを法的根拠として、国に対して犯罪被害者基本法の制定を求める旨の決議を採択した。
2.この日弁連決議の内容は、基本的には、犯罪加害者家族の支援についても当てはまるものと考える。即ち、ここでいう犯罪加害者家族は、家族の構成員である「個人」であり、謂れなき差別・偏見に基づき、個人の尊厳が脅かされている存在として、憲法第13条、第25条に基づき、国に対して主体的に支援を受ける権利を有していることは犯罪被害者と同様である。
 犯罪加害者家族は、ともすれば、その自責の念から、結婚や就職における差別といった社会的差別に甘んじ、社会的不利益や人権侵害を受けたとしても、沈黙を余儀なくされてきた。犯罪加害者家族は、憎悪の対象として攻撃を受けたり、社会的無関心から支援を受けることができず、社会から排除されてきた。
 しかし、犯罪加害者家族と言えども、違法な行為や人権侵害に対しては、沈黙せずに声をあげられるような権利意識を持つべきことは当然のことであり、これらマイノリティーに対する社会的差別をなくしていくためには、人権教育にも犯罪加害者家族の問題が取り入れられるべきである。
 以上からも明らかなように、犯罪加害者家族の権利は憲法に根拠を有するものである。
3.SDGs17の目標と「犯罪加害者家族支援」との関連性
 国連総会は、2015(平成27)年9月25日、すべての国が実行する計画として、17の持続可能な開発のための目標(SDGs)と169のターゲットをまとめ、日本も2016(平成28)年閣議決定に基づき、持続可能な目標(SDGs)推進本部を設置し、持続可能な目標(SDGs)実施方針を策定し、そのアクションプランをまとめて国内実施に取り組んでいるという。
 山形県弁護士会ではSDGs17の目標と「犯罪加害者家族支援」との関連性について研究した結果、国際的にも、以下の犯罪加害者家族の状況を改善すべきことが要請されていると考えられる。
(1)目標1(貧困をなくそう):ターゲット2
 犯罪加害者家族の中には、生活の激変によって収入が絶たれたり、その結果、自己破産の申立てや生活保護の申請をする人も多くみられる。
(2)目標4(質の高い教育をみんなに):ターゲット1、3、5
 犯罪加害者家族の子どもは、貧困により進学を断念し、学校でのいじめや差別の対象となり、不登校や引きこもりの原因となっている。
 この子らは、教育を受ける権利が十分に保障されていないといえる。
(3)目標5(ジェンダー平等を実現しよう):ターゲット1
 犯罪加害者家族としてマスコミ対応等を行っているのは、母や妻という女性が多い。妻であれば夫(加害者)を支えるべきだとか、母親がしっかりしていないから子どもが犯罪に及んだなどと、性差に注目した謂れのない誹謗中傷がある。
(4)目標10(人や国の不平等をなくそう):ターゲット2
 犯罪加害者家族は「加害者側の人間」として十分な支援やケアを受けられず、まさに、社会から取り残されている状況にある。
(5)目標16(平和と公正をすべての人に):ターゲット1、7
 犯罪加害者家族が、被害者の家族に謝罪に行ったところ暴力を受けたり、マスコミによる過剰な報道やSNSへの書き込みを苦に自殺を考えたりなど、犯罪加害者家族に対するこれらの暴力による自殺等を防止しなければならない。
 今後は、犯罪加害者家族の自責の念を社会がどうやって共有していくかという視点での自殺対策を考えていくべきである。
第3.犯罪加害者家族の「被害者性」
1.犯罪加害者家族の「被害者性」
 望月嵩氏はその論稿(犯罪社会学研究 第14号、1989「犯罪者とその家族へのアプローチ」)で、犯罪者とその家族の関係について、従来から論じられてきた2つの側面として次の(1)及び(2)があることを述べた上で、第3の側面として次の(3)があることを論じている。
 また、阿部恭子氏と青島多津子氏も、以下で引用するように、同じ趣旨のことを述べている。
(1)第1の側面は、「犯罪の原因としての家族」である(犯罪・非行としての家族論)。
 パーソナリティ形成の基本的な場である家族の悪条件や病理現象が、犯罪を生み出す重要な要因になっているという、望月嵩氏の指摘である。
(2)第2の側面は、「犯罪の抑止力としての家族」である。
 犯罪者が更生していく過程で、家族が重要な意味を持つという指摘であるが、望月嵩氏は、犯罪者を生み出した家族がなぜ更生の場たり得るのか、という疑問を呈示し、犯罪者を生み出した家族が、そのまま更生の場として機能するのではなく、「社会化失敗の原因(犯罪者を生み出した原因)を探求し、犯罪者に健全な社会化を行うことができる家族に変容させることが前提である。」と述べる。
 また、阿部恭子氏も「犯罪加害者家族への更生の担い手としての期待が、家族に過度のプレッシャーを加え、犯罪加害者との間で様々な悪循環を生んできたこと、犯罪加害者家族支援の基本は「個人の尊重」であり、犯罪加害者家族に更生の支え手や犠牲を強いることがあってはならないことから、犯罪加害者家族が犯罪加害者の更生の支え手となり得るか否かは、事件がおきた背景や家庭関係を丁寧に見ていかなくては判断できず、一般論から導くことはできない。」と主張する(阿部恭子「加害者家族を支援する、支援の網の目からこぼれる人々」岩波ブックレット No.1027、岩波書店)。
(3)第3の側面は、「被害者としての家族」である。
ア.望月嵩氏は、「犯罪者を出した家族が、あたかも、犯罪者自身であるかのような扱いを社会から受けることであり、仮に、家族の中心的な存在(夫)が犯罪者になった場合、その日から生活に困窮する、その他の家族は世間に対して肩身の狭い思いする、家族全体もまた犯罪者であるかのように非難・攻撃されることが起きる。」、「我が国における従来の犯罪加害者家族へのアプローチは「被害者である加害者家族」という側面を欠いており、犯罪加害者家族に更生の役割を期待するのであれば、犯罪加害者家族の被害者性に焦点をあてたケアのシステムが必要である。」とする(前掲論稿)。
イ.阿部恭子氏は、前掲書において、「犯罪加害者家族は英語でhidden victim(隠された被害者)と表現されることがあり、外国では自ら罪を犯した訳でもないにもかかわらず批判や差別に晒される犯罪加害者家族に対して、「被害者」という視点から支援が行われている。」とする。
ウ.青島多津子氏はその論稿(国立きぬ川学院精神科医;「加害者家族は加害者か」、こころの科学No.164、2012.7)において、未成年の弟が姉の同級生の女子を強姦して殺害した容疑で逮捕され、弟が国立きぬ川学院に入院中に姉や両親から聞き取った事実に基づいて、「日本では、加害者家族は加害者と同一視されて糾弾される。だが、彼らは加害者とは別の人間である。加害者家族も、保護と助けを必要としている、『もの言わぬ被害者』なのではないか。」と述べている。
2.「犯罪加害者家族」についての基本的視点
 犯罪加害者家族は、尊重されるべき個人であり、犯罪加害者の更生のための単なる手段ではなく、謂れのない偏見・差別に苦しんでいる「被害者」に他ならないという視点から支援を行うべきであり、この視点で様々な支援の方策を検討する。
第4.犯罪加害者家族に対する謂れなき偏見・差別
1.では、なぜ、犯罪加害者家族は、その家族から犯罪者が出たということで、あたかも、その家族全体が犯罪者であるかのような扱いを社会から受けるのであろうか。望月氏は前掲論稿で、家族社会学の立場から、次の「2.」のように論述(要旨)している。
2.戦前の家族制度は、直系家族制の家制度であり、何よりも「家の存続」が優先され、その成員は、個人的欲求を抑え、家のために奉仕することが求められ、その代わり、家は成員の生活を保障する機能を持っていた。
 ここでの成員は「家族(家のための個人)」であり、個人は家族の中に埋没するから、犯罪という個人的行動も「家全体の行動」として捉えられる。
 犯罪者は、家名を傷つけた困り者だが、世間に対しては、他の家族も責任を取らなければならないことになる。犯罪は基本的には個人の行動であり、家族は、その個人が属する集団である。犯罪という個人的行為が「家全体の行動」と捉えられれば、ここに「被害者としての家族」が生じることになる。
 ところで、戦後は、夫婦家族制に移行し、ここでの「家族」は、婚姻によって形成され、その夫婦の死亡によって終わるという「一代限り」のものであり、世代を越えて存続し続ける「家制度」のもとでの家族とは全く異なる「現代家族」であり、「個人のための家族」である。
3.しかし、家制度が廃止された現代でも、「家意識」が根強く残っているため、犯罪加害者家族に対する偏見と差別が生じている。つまり、「一蓮托生」という言葉が表すように、家族は運命共同体と見られているのである。
第5.犯罪加害者家族が直面する問題
1.阿部恭子氏の前掲書籍や「日本における加害者家族の現状と支援」と題する論稿によると、犯罪加害者家族が直面する問題は、大きく次の3つに分けられ、これらの問題を抱える犯罪加害者家族の9割近くが自殺を考えたという。
 また、犯罪加害者家族が直面する問題の多くは、犯罪被害者の抱える問題と共通する。
(1)第1は、精神面での問題である。
・世間の目が気になって外出が困難になった。
・犯罪加害者家族であることを秘匿することに罪悪感を持った。
・普通の生活をしていていいのかと思った。
・犯罪者の血が流れているとして自己嫌悪に陥った。
(2)第2は、経済的問題である。
・一家の支柱を失うことにより生活が困窮した。
・被害弁償金や弁護士費用の負担が大変。
・転居費用の負担が重い。
・失業によって収入を失った。
(3)第3は、社会的問題である。
・マスコミ取材への対応が大変。
・SNSにより誹謗中傷を受けた。
・就職、進学、結婚に際して差別を受けた。
・学校でいじめを受けた。
・職場で嫌がらせやハラスメントを受けた。
・近隣から嫌がらせを受けた。
・被害者等から抗議を受けた。
2.ここで、特に留意しなければならないことは、次の2点である。
(1)第1に、何の罪もない子どもへの影響である。
 特に親が犯罪を犯した子どもたちは、事件に全く関係ないにもかかわらず、生涯にわたって出自による差別を受けており、「第二の被害者」と呼んでも過言ではない。
 また、親が犯罪を犯した子どもたちは自らに「犯罪者の子ども」というレッテルを貼り、或いは、社会からこのような目で見られて社会の偏見に晒される結果、自尊心を失い、様々なネガティブな感情を抱くことにより、社会から孤立し立ち直りを阻害されることになる。
 また、子どもの成長過程で受けた不名誉や心の傷は、その後の子どもの情緒や心身の発達だけでなく、社会生活においても多大な影響を受けるのである。
 このような犯罪加害者家族に属する子どもに対する支援は、極めて重要な課題である。
(2)第2に、マスコミの対応である。
 事件の直後から、メディアの取材が過熱する事態は、いつも見られる光景である。犯罪加害者の自宅を大勢のマスコミが取り囲むため、外出や登校ができなくなったり、無断で敷地内に入り込んで、家族にインタビューを求めるために玄関の呼び鈴を鳴らし続ける、取材申込のために頻繁に電話を架ける等のマスコミの行為によって、家族が不安に陥り生活が乱されることになるだけでなく、近隣にも迷惑をかけることになって、肩身の狭い思いをすることになる。
 犯罪加害者に関するマスコミ報道(主に実名報道)については、憲法上の権利との関係で困難な問題をはらむが、実名報道による犯罪加害者家族の被害を少しでも軽減できるようにするために、マスコミ各社において、少なくとも1審判決までは、加害者について匿名報道による等の自主的なガイドラインを作成して、これを公表し、このガイドラインに厳格に従った報道をするなどの良識ある判断・行動が求められるところである。
第6.犯罪加害者家族を支援することの意義
 犯罪加害者家族を支援することの意義は、次の3点にあるとされる。
(1)個人の尊重
 犯罪加害者家族支援の対象は、その家族に属する「個人」である。
 仮に、選択を迫られる場面であっても、あくまで犯罪加害者家族に属する「個人」の判断が優先されるべきであり、「犯罪加害者家族はこうあるべきだ。」という押しつけは許されない。
 犯罪加害者家族支援の最大の目的は、子どもを含めた犯罪加害者家族に属する「個人」が、社会の偏見に基づく差別を受けない社会を作ることであり、犯罪加害者家族支援の基本は「個人の尊重」である。
(2)自殺の防止
 WOHの調査では、犯罪加害者家族の9割が自殺を考えたことが明らかになった。
 その原因としては、事件報道による衝撃、生きていくことの罪悪感、再犯による衝撃、経済的困窮、家族を失ったことによるショック、近隣からの苦情等である。
 2006(平成18)年に自殺対策基本法が制定されたが、同法成立の過程では、犯罪加害者家族の自殺対策は議論されなかった。
 今後は、犯罪加害者家族の自責の念を社会がどのように共有すべきかという視点を取り入れた自殺対策を検討すべきである。(3)再犯防止
 犯罪加害者家族支援に犯罪者の再犯防止という機能を持たせるには、事件によって傷ついた犯罪加害者家族のケアが前提である。
 そして、犯罪加害者家族がケアによって、犯罪者である家族を受け入れることができるまで回復してはじめて、家族が変化し、犯罪者の行動に影響を与えることで再犯の抑止として働くのである。
 犯罪加害者家族が、犯罪者である家族を受け入れることができない段階で、再犯防止と称して受け入れさせることが許されないことは、「第3、1」で述べたとおりである。
第7.あるべき犯罪加害者家族に対する支援
1.「被害者」としての犯罪加害者家族への支援
(1)前記(第3、1、?)のように、「被害者」としての側面をもつ犯罪加害者家族への支援を考えるために、我が国における「犯罪被害者に対する支援」の現状はどうなっているのかを考察することは有益である。
(2)諸澤英道氏は、その著作(「被害者学」成文堂)において、犯罪被害者について「被害から回復し元の生活に戻る上で最大の障害は、被害者に対する社会の偏見である。」とし、犯罪加害者家族への支援の障害となっている社会の謂れなき差別・偏見と同様の状況が、被害者にも存在することを説き、「国際犯罪防止会議が目指しているのは、社会の被害者に対する偏見を排除し、被害者が住みやすい、被害者にとってやさしい社会を作ることである。」と主張するとともに、被害者支援の国際的スタンダードを定めている「国連被害者人権宣言」をあげて、同宣言5条では、各国が被害者を被害から回復するシステムを作るための前提として、「迅速・公正で、費用がかからず、利用しやすい制度」であること、「被害者のプライバシーは守られなければならない。」とする。
(3)さらに、諸澤英道氏は同著で、被害者の支援のシステムは、支援型、援助型、擁護型があるが、被害者は自分だけで解決できないことが多いという認識に立ち、「被害者が抱える問題を被害者と共有し、一緒に解決していく擁護型」が妥当であるとし、被害者が求めているのは、単に理解してくれる人ではなく、「問題を一緒に変えていってくれる人」であるという。
 さらに、同氏は被害者の悩みの原因は、国の制度の問題であり、報道のあり方の問題であり、人々の考え方(特に偏見)の問題であることが多く、刑事司法機関や行政機関、社会に対し、被害者の気持ち(悩み)を訴え、解決していく行為こそ、被害者が最も求めている支援である、という。
(4)このように、我々が「あるべき犯罪加害者家族に対する支援」を考えるときは、迅速・公正で、費用がかからず、利用しやすい制度を創設し、しかも、犯罪加害者家族のプライバシーが守られ、その制度が、単に相談にのるだけでなく犯罪加害者家族と一緒になって、問題を解決する「擁護型」であるべきである。
2.我が国の「第4次犯罪被害者等基本計画」の検討
 このように「被害者性」を帯有する犯罪加害者家族に対する具体的支援を考えるには、国が制定した「犯罪被害者等基本法」に基づく施策をまとめた「犯罪被害者等基本計画」が参考になり、2021(令和3)年4月から「第4次犯罪被害者等基本計画」(以下「基本計画」という。)が実施に移されている。
 山形県弁護士会では、犯罪加害者家族が被る被害に対する施策として、基本計画が掲げる種々の方策を、「被害者性」を有する犯罪加害者家族に対する施策にも利用できるのではないかという視点から研究を行った。後述するように、国に対して犯罪加害者家族への支援を求めるに際し、この研究の成果に基づいて、国に対して求める具体的施策を提言する。
3.外国の犯罪加害者家族への支援
 山形県弁護士会では、このたび、外国の犯罪加害者家族支援についての文献調査を行った。
 調査対象は、豪州3団体、英国3団体、米国4団体である。
(1)外国の制度については、現代人文社刊「加害者家族支援の現状と実践」(阿部恭子編集、草場裕之監修)や幻冬舎新書「加害者家族」(鈴木伸元著)に詳しく紹介されているが、これらの団体は基本的には受刑者とその家族をつなぐものであり、その活動資金については、豪州では公的資金が支給されており、英国では寄付や慈善事業による収入によって運営され、米国の中で公開されている3団体の内2団体は公的資金が投入され、他1団体は寄付によって運営されている。
(2)一方、日本では、仙台市のWOHと、大阪市のNPO法人スキマサポートセンターが民間の犯罪加害者家族支援団体として活動していることが知られているが、残念ながら、活動資金についての公的支援はなされていない。
第8.山形県弁護士会の活動
1.犯罪加害者家族支援委員会及び犯罪加害者家族支援センターの設立
(1)2016(平成28)年7月1日、山形市で東北弁護士会連合会定期大会が開催された。
 この大会の午前中に、「犯罪加害者家族の支援について考える」をテーマにシンポジウムを開催し、その成果をもとに同日午後の大会において「犯罪加害者家族に対する支援を求める決議」を採択した。
 全国の弁護士会で、犯罪加害者家族を扱ったシンポジウムを行ったのは全国で初めてであった。
(2)その後、山形県弁護士会では、2018(平成30)年9月1日に「犯罪加害者家族支援委員会」と、実際に相談等の実務を行う「犯罪加害者家族支援センター」を創設し、同年11月1日から犯罪加害者家族支援センター(登録者数31名)の活動を開始した。
 なお、登録者は、研修を受講することを要件としている。
2.犯罪加害者家族支援センターの活動
(1)犯罪加害者家族支援センターは、当初31名で業務を開始したが、その主な業務は、相談への対応に止まっている。
(2)犯罪加害者家族支援センターへの相談は、業務を開始した2018(平成30)年11月1日から2022(令和4)年3月まで18件寄せられており、当初は北海道から中国地方まで山形県以外からも相談が寄せられていたが、近年は山形県内からの相談が大半である。
3.犯罪加害者家族支援センターが1か所しかないことの問題点
(1)現在、全国の弁護士会で、犯罪加害者家族の支援を弁護士会として実施しているのは山形県弁護士会のみである。相談は他県からも寄せられているが、相談を受けた者がその県への出張等の実働を伴う場合には費用が嵩んでしまうために、現実には十分な対応ができず、相談だけに止まっている状況である。
(2)そこで、山形県弁護士会では、全国の弁護士会に最低1か所の犯罪加害者家族支援の拠点を作ってもらうべく、機会あるごとにその必要性を訴えてきた。その一環として、2019(令和元)年11月1日に山形市で「広げよう全国に!犯罪加害者家族支援の輪を」をテーマに、犯罪加害者家族支援センター設立1周年記念シンポジウムを開催して全国の弁護士会にも案内したが、山形以外の弁護士会からの参加者は数名に止まった。
 ただ、最近、関東地方の弁護士会での講義やある地方の弁護士会連合会の夏期研修での講師派遣の依頼がみられ、これを契機に犯罪加害者家族支援への認識が広がることを期待している。
第9.国に対して求める犯罪加害者家族への支援
1.犯罪加害者家族が国に対して支援を求める権利があること
 犯罪加害者家族は、国民としての義務を果たしていることは言うまでもなく、憲法第13条の幸福追求権や第25条の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有していることは明らかである。一方、犯罪加害者家族は、社会的弱者として、人権侵害の危険に晒され、社会から置き去りにされているのが現状である。
 犯罪加害者家族が、謂れのない偏見・差別により精神的・経済的・社会的な面で危機的状況に陥った場合には、特に社会権である憲法25条に基づいて、実質的に憲法上保障された権利状態に戻れるように国に対して施策を要求する権利があるから、国は犯罪加害者家族の求めがあった場合はもちろん、その求めがなくても、犯罪加害者家族の実態を自ら把握して施策を講じる責務がある。
 このように、国民である犯罪加害者家族を社会から孤立させずに社会との共生を実現するとともに、犯罪加害者家族の権利が確立されて、個人の尊厳が保障され、プライバシーを保護するために、国に対し、以下に述べる各支援を実現するための十分な施策を講じることを求めるものである。
 言うまでもなく、犯罪被害者も、犯罪加害者家族と同様に、国に対して支援を求める権利を有しているのであり、ここでの各施策の検討が、基本計画に依っていることから、これから述べる様々な施策は、犯罪被害者のためにも実現されるべきである。
2.犯罪加害者家族への支援に当たっての留意点
 犯罪加害者家族が抱える問題は、多領域、多分野にまたがる複合的なものであるから、それぞれの専門分野を持つ専門家を交えた包括的・組織的支援が必要となる。そして、この組織的支援に携わる各種の専門家をつなぐためには、相談者の窓口となり自立できるまで寄り添い、日常的・継続的に関わっていくコーディネーターが必要である。
 複雑な問題を長期に抱えるおそれのある犯罪加害者家族への支援は、当事者の目線に立って、これらの家族が直面している現状に対し、いまどのような支援があれば当該家族の苦痛を緩和できるのかという問題を一緒になって解決する「擁護型」であるべきである(第7、1)。
3.犯罪加害者家族に属する子どもへの特別な配慮
(1)犯罪加害者家族に属する子どもが事件によって重大な影響を受けることは、前記(第5、2)のとおりであり、子どもを事件に巻き込まないためには、次のような特別な環境整備が必要である。
(2)まず、家族、特に他に子どもを養育する親がいない場合に、その親が被疑者・参考人として事情聴取されている間、子どもを託児所に預けるなど、子どもが精神的に平静さを保つことができるような方策を講じ、また、逮捕時や家宅捜索の場合には、子どもが育児施設や学校に行っている間に実施するなど、子どもに現場を見せないようにする等の特別な配慮が必要である。
 そして、公判段階では、裁判所内には報道関係者や被害者側の人もいるために犯罪加害者側にとっては緊張する時間であるから、裁判所内に別室を設けるなど、適切に子どもをその場から離れさせる環境が必要である。
 さらに、公判において、被告人の家庭環境が明らかにされる場合でも、子どもの年齢や性別等については公表する必要性が十分に検討されなければならず、不用意な対応により、通っている学校が特定されるおそれがあるから、子どものプライバシーへの配慮が特に必要になる。
(3)犯罪加害者家族は、これまで自責の念から人権侵害を受けても沈黙するほかなく、転居や転校を余儀なくされてきた。最近は、インターネットにより犯罪加害者の家族関係が暴露されるだけでなく虚偽の事実が拡散されることも多く、義務教育課程において、子どもが学校に行けなくなることがあっては、憲法26条の教育を受ける権利が侵されることになる。
 すなわち、最も重要なことは、犯罪加害者家族に属する子どもであるかどうかにかかわらず、子どもを個人として尊重し、その人権を保障するために、子どもが健やかに成長する環境が守られ、子どもの成長発達権が保障され、それが侵害されることがないような措置が講じられることである。
4.国に対して求める具体的な支援
(1)基本的な視点
 犯罪加害者家族を支援する際の基本的な視点は、以下のとおりである。
・犯罪加害者家族の人権に配慮したものであること
・犯罪加害者家族の個々の事情を考慮したものであること
・犯罪加害者家族が再び犯罪前の平穏な状況に戻れるようにするために、長期的かつ途切れることのない支援であること
 次に、以上の視点に立って、犯罪加害者家族にとって必要であり、国に対して求める犯罪加害者家族に対する支援について、具体的に検討する。
(2)情報の保護による安全の確保(インターネット上の誹謗中傷対策)
 インターネット上の誹謗中傷やマスコミへの対応等により、犯罪加害者家族に対する様々な攻撃から安全を確保する必要がある。
 ア.事件の直後から、インターネット上のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、掲示板サイト、動画配信サイト等において、犯罪加害者家族に対する暴露や誹謗中傷が始まり、この情報がまたたく間に拡散されて、追いつめられた家族が自殺する等の痛ましい事態が起こっている。ある被害者は、「言葉の刃で心が傷ついた。」と語っているとおり、「ネット中傷は、まさに言葉の刃」である。
 イ.インターネットによる誹謗中傷を受けた被害者の救済に向けて、匿名の投稿者を特定しやすくするための「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任制限法」という。)の改正法が、2021(令和3)年4月22日に国会で成立し、2022(令和4)年10月ころまでに施行される見通しである。
 現行法では、インターネット上の投稿により被害を受けた場合、発信者を特定するためには、SNS事業者等のサイト管理者に対する開示請求、接続事業者に対する開示請求と2回の裁判手続を経なければならないが、改正法では、非訟手続による被害者の申立てにより、1回の手続で匿名の投稿者を特定することができるようになる。
 しかし、上記改正法によっても、発信者情報開示のための要件が厳しすぎ、重大な被害が発生し開示が必要な場合であっても要件をみたさないという理由で泣き寝入りを強いられる結果となる。インターネット上の誹謗中傷は、公開のSNS等でなされるものに限られないから、開示の対象に電子メールや直接のメッセージも含めるべきである。また、(権利侵害が)「明らかであるとき」という要件を撤廃し、単に「権利侵害」があれば開示が可能とすべき等、更に要件を見直して円滑な救済が図られるようにすべきである(日弁連2020(令和2)年12月18日付「実効的な発信者情報開示請求のための法改正等を求める意見書」)。
 ウ.また、無罪推定の原則の趣旨に基づき、捜査機関においては、少なくとも1審判決までは加害者については匿名発表等により、少しでもインターネット上の誹謗中傷による被害の防止を図るべきである。
(3)経済的支援に係る制度の充実等
 犯罪加害者家族は、謂れなき誹謗中傷により、職場を追われ、その結果収入が途絶えて生活が困窮し、その地域に住むことができなくなって、住居を転々とするという事態に陥る。
 ア.生計の安定
 犯罪加害者家族の生活の困窮に対しては、セーフティーネットとしての生活保護制度を利用することが考えられるが、現在の生活保護制度が憲法25条で保障する権利の実現に資しているかは疑問である。
 生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を保障する憲法第25条を具体化した権利であるから、いわゆる「水際作戦」(福祉事務所が、保護の申請をさせずに追い返してしまう対応のこと)を不可能にするために、生活保護の申請権を明示する制度的保障を設けて、正当な保護利用要件のある人に対し、申請を断念させることがないようにしなければならず、また、生活保護法8条2項に定める保護基準の機能は、保障される生活水準の「下限」を画し、健康で文化的な最低限度の生活の需要を確実に満たすことを保障する点にあることは明らかである。したがって、同項の「これをこえないものでなければならない。」との文言は削除されなければならない。さらに、この保障の基準は、厚生労働大臣の判断によるのではなく、民主的コントロールが及ぶ国会が定めるべきである(日弁連2019(平成31)年2月14日付「生活保護法改正要綱案(改定版)」)。また、最近問題になったのが、「扶養照会」(実施機関から「民法上の扶養義務者」に対して行われる、扶養意志の有無の照会)であるが、この照会が行われるため、親族に迷惑をかけたくないと思い利用申請を断念する人がいる。この照会を省略して、本来生活保護を利用すべき人が利用できるようにすべきである。
 イ.住居の安定
 犯罪加害者家族に対するバッシングにより自宅に住めなくなった場合には、国は、公営住宅への優先入居が認められるように地方自治体に要請し、また、事件直後のバッシングにより一時的に住居を離れる場合には、国は無償で一時的に避難するための場所を確保すべきである。
 さらに、国は長期的に住居を離れる場合には、無償で転居先の住居の確保と、そこでの自立支援と定着支援を行うべきである。
 ウ.雇用の安定
 犯罪加害者家族が母子家庭や父子家庭になった場合には、国のトライアル雇用事業を適正に運用する必要があり、また、犯罪加害者家族が継続して勤務するために、国は、事業主等のそれに対する理解の促進を図ることと、退職せざるを得なくなった場合には公共職業安定所による就職支援を行う必要がある。
(4)精神的・身体的被害の回復・防止への取組
 犯罪加害者家族に対する過熱報道、バッシング等により精神的疾病を発症する事態への対応や、犯罪加害者家族に属する子ども被害に対応するための施策が必要になる。
 ア.保健医療サービス及び福祉サービスの提供
 犯罪加害者家族が精神的疾病を発症した場合に対応するために、国費によりカウンセリング等の心理療法の費用を支出し、さらに、国費により、カウンセラー等の心理職の充実、適切な医療機関の情報提供体制や医療現場における自立支援医療(精神通院医療)制度の周知徹底が求められる。
 イ.子どもの被害への対応
 国は、思春期精神保健や治療等の専門家の養成と、これらの体制整備と施策の充実を図るべきであり、また、学校へのスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置による教育相談体制の充実も図るべきである。
 さらに、家庭内において、他からのバッシング等を理由に精神的に追い込まれることにより、子どもに対する虐待が発生することがあるため、国はそれに対応するための児童相談所の夜間・休日対応の充実を図るべきである。
(5)支援等のための体制整備への取組
 犯罪加害者家族への支援のためには、国だけでは十分でないため、民間の支援団体と連携が重要であるが、そのためにそれに対する具体的な援助が重要になってくる。
 また、犯罪加害者家族が気軽に相談できる窓口の設置が必要である。
 ア.民間団体に対する援助
 国において、民間団体に対する財政的援助や、支援に携わる者への研修のための講師の手配・派遣等の支援をすべきであるとともに、様々な広告媒体を用いて、民間団体の活動や意義、犯罪加害者家族が置かれた状況や支援の重要性について広報を行うべきである。
 イ.相談及び情報提供等
 国は、全国各地に総合支援体制(弁護士、医師、ソーシャルワーカー等が1か所で支援を提供するワンストップ支援センター)を創設するとともに、そのための各機関との連携を構築し、さらに、このワンストップ支援センターを広報するために、警察や公共自治体の窓口にパンフレット等を配置するとともに、ウェブサイトやSNSで広報を充実させることも必要である。
(6)民事上の損害賠償請求等についての民事法律扶助制度の改善及び、刑事手続等に関する情報提供
 犯罪加害者家族に対する被害者等からの民事上の損害賠償等について、弁護士費用等の負担軽減を図ることが重要であり、また、刑事手続等についての情報提供を図ることが必要である。
 ア.民事法律扶助制度の改善
 被害者等からの損害賠償請求や、限度をこえた誹謗中傷に対する損害賠償の請求、その他の紛争に対応するために、犯罪加害者家族が民事法律扶助制度を利用しやすいように、資力要件を緩和するなどの制度の改善を図る必要がある。
 イ.刑事手続等に関する情報提供
 犯罪加害者家族は、家族の突然の逮捕等により、今後、手続がどのように進んでいくのか不安になる。
 そこで、捜査機関において、刑事手続等について分かりやすく解説したパンフレット等を備え置いたり、犯罪加害者家族と面談した場合にパンフレットを配付したりして、犯罪加害者家族への早期の情報提供を行い、不安の軽減に努めるべきである。
(7)調査研究の推進等
 犯罪加害者家族についての実態を把握して支援につなげることの必要性と、学校教員の理解の増進を図ることが必要である。
 ア.犯罪加害者家族に対する実態調査
 潜在化しやすい犯罪加害者家族が受けた被害と、その家族が置かれている状況を把握するための実態調査が必要であり、国費で実施すべきである。
 イ.教職員の理解の増進
 国費により、犯罪加害者家族となった児童生徒や保護者等に適切に対応できるような相談体制の確立と、それらの被害に関する研修等により、教職員等の理解を深め、指導力の向上を図ることが必要である。
(8)国民の理解の増進への取組
 国において、国民に対し犯罪加害者家族への理解の増進を図り、被害を被ったこれら家族からの相談体制を確立することが重要になる。
 即ち、国において、学校教育における人権教育等により、犯罪加害者家族に対する理解の増進を図ることが必要であり、また、国において、偏見による差別により被った被害等に関する相談に適切に対応できるように体制を確立すべきである。
 さらに、国において、SNSやウェブサイト等、広報や媒体の多様化を進め、犯罪加害者家族に対する支援情報を積極的に提供して、国民に犯罪加害者家族に対する関心をもってもらう方策を講じることが必要である。
第10.弁護士・弁護士会の今後の取り組み
1.平成28年弁連大会前に山形県弁護士会が実施したアンケートによると、弁護士・弁護人が必ずしも犯罪加害者家族のニーズに応えていないことが明らかとなった。
 これまで刑事事件を扱ってきた弁護士も、示談や情状証人として犯罪加害者家族と連絡を取ることはあっても、その家族がどのような状況にあるかということについては関心を払うことがほとんどなく、このことは、特に犯罪加害者家族の「被害者」という側面に対する認識が希薄であったことによると思われる。
2.そこで、今後は、全国の弁護士会において、犯罪加害者家族の問題を担当する部署を設けて、心理職その他専門家と連携して、各地に居住する犯罪加害者家族が気軽にアクセスできるワンストップの支援機関をつくるとともに、各人のニーズに居住地域において無償で応えることができる体勢を作ることが必要である。また、弁護士・弁護人に対し、犯罪加害者家族の実態とそのニーズに対する支援に関する研修を実施して、犯罪加害者家族というマイノリティーに対する社会的差別をなくし、これら家族の被る様々な被害の救済のための支援活動をなすべきである。このことは「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を使命とする我々弁護士の責務である。
第11.最後に犯罪加害者家族への支援が国レベルにおいて実現できるように、今後は、犯罪加害者家族支援のさらなる実践を通して、そのニーズに応えるべく、なお一層のより充実した犯罪加害者家族の支援活動をする決意である。


以 上