1 本年6月17日,公職選挙法の一部が改正され,選挙権年齢が18歳に引き下げられた。同法の附則には,「選挙の公正その他の観点における年齢18歳以上20歳未満の者と年齢20歳以上の者との均衡等を勘案しつつ,民法,少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」との定めがあり,これを受けて,自由民主党は「成人年齢に関する特命委員会」を設置し,同委員会は少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満へ引き下げることを適当とする提言をした。
しかし,当連合会は,以下の理由から,少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる法改正に強く反対する。
2 選挙権年齢と少年法の適用年齢を連動させる必然性がないこと
法律の適用年齢は,それぞれの法律ごとに,その立法趣旨や立法目的を踏まえ,個別具体的に検討されなければならない。
この点,選挙権年齢の引き下げは,18歳,19歳の年長少年の意見を国政に反映させ,社会参加を積極的に促し,現在及び将来の国や社会をより豊かにするという民主主義の観点から検討される問題である。他方,少年法の適用年齢は,人格の形成途上にある若年犯罪者の再犯防止のために,国家がどのような処遇をすべきかという観点から検討されなければならない問題である。
このように,両者はまったく別の観点から検討される問題であり,選挙権年齢を18歳に引き下げたことに伴い,少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げるという必然性は全くない。
3 適用年齢の引下げは少年法の趣旨に反するものであること
少年法は,人格の形成途上にある若年犯罪者の再犯防止対策として,刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨に基づくものである。
こうした少年法の趣旨を受けて,20歳未満の少年に対する司法手続は,事件をすべて家庭裁判所へ送致することとし,裁判官,家庭裁判所調査官,少年鑑別所技官,付添人などが,少年の資質,性格,境遇,家庭環境,交友関係等を把握し,少年に対して教育的,保護的,福祉的措置を講ずることによって,少年の更生を促し,再犯を防止する仕組みとなっている。
ところが,仮に,少年法の適用年齢が18歳未満にまで引き下げられると,家庭裁判所が取り扱っていた18歳,19歳の非行事案が少年法の適用から除外され,家庭裁判所の手続に一切乗らないこととなる。統計上,18歳,19歳の非行事案は少年事件全体の約4割にのぼるとされているが,それらが少年法の手続から排除されることになれば,比較的軽微な犯罪行為を犯した18歳,19歳の年長少年は,起訴猶予処分となるであろうから,結局,何ら更生や再犯防止に向けられた教育的,保護的,福祉的措置を受けることができないまま,一般社会にもどされてしまい,かえって若年犯罪者の更生の機会を奪うことになりかねない。
また,1990年代に少年に対する厳罰化の法制が進められた米国の実証的研究によれば,少年に刑罰を科したとしても個別の矯正の効果はあがらず,むしろ暴力事犯では再犯率がかえって高くなることが指摘されている(家裁月報平成22年6月第62巻第6号35頁以下)。
したがって,少年法の適用年齢を18歳未満へ引き下げることは,人格の形成途上にある若年犯罪者の再犯を防止するとの少年法の趣旨に反するものであると言わざるを得ない。
4 適用年齢を引き下げるべき立法事実が存在しないこと
少年法の適用年齢を引き下げるべきであるとの意見の中には,少年による凶悪犯罪が近年増加していることを理由にあげているものも見受けられる。
しかし,刑法犯少年の検挙者数は,総数においても人口比でも明らかに減少傾向にある。また,殺人については昭和40年代と比較しても5分の1にまで減少しているのであり,家庭裁判所が審判で殺人既遂の事実を認定した少年は,年間平均15人程度(平成13年から25年まで)にとどまる。
さらに,平成16年から同25年までの少年院出院者再入率は15%前後で推移しているが,出所受刑者の再入率が約4割であることと比較すると,少年院による矯正効果には高いものがあると言える。
このように,少年による凶悪犯罪が増加しているとの統計データは存在せず,むしろわが国の少年法制は有効に機能していると言えるから,少年法の適用年齢を引き下げるべき立法事実は存在しない。
5 よって,当連合会は,少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる法改正に強く反対する。
2015年(平成27年)9月26日
東北弁護士会連合会
会長 宮本多可夫
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