2010年(平成22年)8月末現在,日本全国で裁判官の常駐していない地方・家庭裁判所支部(以下,「非常駐裁判所」という)は46ヶ所,検事の常駐していない地方検察庁支部(以下,「非常駐検察庁」という)は128ヶ所も存在している。東北地方でも,非常駐裁判所は8ヶ所,非常駐検察庁は18ヶ所にも及んでいる。このように非常駐裁判所・検察庁が多数存在することにより,司法を利用する市民の時間的・経済的負担が増大するなど,その弊害は看過できない状況となっている。

具体的には,迅速な審理を必要とする民事保全事件について,裁判官の非てん補日には保全命令発令まで時間を要するなど,申立ての目的を十分に達成できない状況にある。また,数少ないてん補日に民事・破産・家事・刑事等様々な事件を集中的に取り扱う関係で,1回のてん補で処理できる事件数にも自ずと限界があるため,期日がなかなか入りにくくなって審理が徒に遅延するという深刻な問題が生じている。

刑事事件においては,迅速な判断が必要な保釈請求事件について民事保全事件と同様の問題が指摘されており,また,被告人が勾留されている事件について,最寄りの非常駐裁判所ではなく地裁本庁に起訴がなされ,支部管内の弁護人が地検本庁まで記録閲覧等のために往復しなければならない等の支障が生じている。

当連合会は,このような裁判所・検察庁支部の状況を改善するために,2005年(平成17年)7月の定期大会において,「裁判を受ける権利の保障を実質化するためにすべての裁判所及び検察庁に裁判官及び検察官を常駐させることを求める決議」を採択した。また,東北の弁護士過疎偏在の解消を図るために,やまびこ基金を設置し,弁護士過疎地域に事務所を開設する弁護士に開業資金を支給するとともに,同基金に基づいて設立されたやまびこ基金法律事務所の開設・運営を支援する等の過疎偏在解消のための取り組みを実施してきた。やまびこ基金法律事務所がこれまでに養成した6名の弁護士は,当連合会管内のいわゆる弁護士過疎地域で独立開業しており,また近時,各地の裁判所支部管内に事務所を設置する弁護士数も増加していることから,弁護士過疎偏在の解消には大きな前進が認められる。

しかし,前述した決議が採択された後も非常駐裁判所・検察庁の問題は一向に解消しないばかりか,不動産競売・債権執行事件等を本庁に集約する地裁が大多数を占めるようになっている。また,前述した決議が採択された後に創設された労働審判及び裁判員裁判は,一部の例外を除いて本庁のみで実施されており,裁判所の支部機能の低下傾向はより一層強まっている。さらに,これと歩調を合わせるように検察庁も本庁に機能が集中するようになっている。

さらに,こうした支部機能の低下傾向は非常駐裁判所・検察庁の問題のみにとどまらず,執行官や公証人役場の偏在問題や,法務局出張所,検察審査会の統廃合の進行などにより,支部管内における司法サービスの全般的な機能低下が進んでいる。そのため,支部管内に居住する住民の多くは,利用できる司法機関が身近に存在しないか,あるいは身近に存在する司法機関の利用が制限され,司法サービスを受ける機会が著しく制約されている状況にある。

特に,東日本大震災で多大な被害を被った東北地方の太平洋沿岸地域は,その多くが支部管轄区域に属しているが,震災の影響で未成年後見開始審判申立てや遺産分割事件等が増加傾向にあることから,家裁支部に重点的に人員を配置する必要性は大きく,また,沿岸部の交通事情が悪化したことを考えると,前述した各種事件が本庁のみで実施されたり,本庁に集約化される傾向にあることは,由々しき問題である。

以上のような現状を改善するために,当連合会は,すべての国民がその居住する地域にかかわらず容易に司法にアクセスできるようにし,国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するため,支部管内における司法機能を充実させるべく,国に対して,以下の事項を要請する。

1 すべての地方・家庭裁判所及び地方検察庁において裁判官・検事を速やかに常駐させ,裁判所支部・検察庁支部の人的・物的基盤を整備すること

2 地裁本庁に集約されている労働審判・不動産競売・債権執行事件等を含め支部管内の事件は可能な限り当該支部において取り扱うようにすること

3 執行官,公証人役場,法務局出張所,検察審査会等の司法関係機関の配置を見直し,これらが不足している地域に当該機関を設置すること

以上のとおり決議する。

2012年(平成24年)7月6日

東北弁護士会連合会

 

 

提 案 理 由

 

1 非常駐裁判所・検察庁の存在と当連合会の取り組み

全国には裁判官の常駐していない地家裁支部(以下,「非常駐裁判所」という),検事が常駐していない地検支部(以下,「非常駐検察庁」という)が多数存在しており,仙台高裁管内においても非常駐裁判所の支部数は8ヶ所,非常駐検察庁の支部数は18ヶ所にも及んでいる。

非常駐裁判所・検察庁が存在することにより,訴訟等の審理期日が先延ばしにされたり,迅速な審理が必要な民事保全申立事件や保釈請求事件などで結論が出るまでに時間がかかったりする等,その弊害は看過できない状況にある。そこで,当連合会は,2005年(平成17年)7月の定期大会において,「裁判を受ける権利の保障を実質化するためにすべての裁判所及び検察庁に裁判官及び検察官を常駐させることを求める決議」を採択した。

その後,当連合会は,2009年(平成21年)10月には支部問題協議会を開催し,仙台高裁管内の裁判所支部及び検察庁支部の実情について各地の報告を受け,非常駐裁判所・検察庁が解消されていないこと,労働審判・不動産競売・債権執行事件が本庁に集約され,各支部における取扱事件が大幅に縮小される傾向にあることを確認した。

そこで,当連合会は,支部問題についての継続的な調査・検討が必要であると判断し,2010年(平成22年)に支部問題連絡協議会を設置し,同連絡協議会が中心となって同年12月及び2012年(平成24年)2月に支部問題協議会を開催した。これらの協議会においては,非常駐裁判所・検察庁がその後も解消されていないこと,不動産競売・債権執行事件等が本庁に集約され各支部における取扱事件が更に縮小される傾向にあることに加え,執行官・公証人役場の偏在,法務局出張所,検察審査会の統廃合が進行するなど,支部管内における司法サービスの全般的な機能低下が一層進んでいるとの現状が報告された。

 

2 支部管内における司法機能低下による弊害

以上のような非常駐裁判所及び非常駐検察庁が存在することにより,各地で様々な弊害が生じている。当連合会が過去3回実施した支部問題協議会に際して実施したアンケート調査や協議会における報告では,非常駐裁判所・検察庁の具体的な弊害及び支部における司法機能の低下について,以下のような報告や確認がなされている。

まず,非常駐裁判所の多くでは,民事保全事件について裁判官の非てん補日には裁判官常駐庁に記録使送をするなどの事務対応が必要となるため,発令まで時間を要することになってしまい,迅速な審理を旨とする民事保全の目的を達成できない状況が認められた。

また,非常駐裁判所では,ただでさえ数少ないてん補日に民事・破産・家事・刑事等様々な事件を集中的に取り扱うことになり,例えば調停成立に立ち会うべき家事審判官が別事件への対応のためになかなか調停室に来ることができず,当事者が長時間にわたって待たされるといった弊害や,1回のてん補で処理できる事件数にも自ずと限界があることから,期日がなかなか入りにくくなり,期日の間隔が通常よりもかなり長く空いてしまい,審理が徒に遅延しているという深刻な状況が多くの会員から報告されている。

さらに,2006年(平成18年)に導入された労働審判については,仙台高裁管内では全て裁判所本庁のみが取り扱っているとの報告がなされているが,少額事件が大多数を占める労働審判事件の性質上,本庁までの交通費を負担してまで申立てをするケースは必ずしも多くなく,支部管内に居住する住民は事実上この手続の利用を断念せざるを得ない状況となっていることが推察される。

刑事事件においては,迅速な判断が必要な保釈請求事件について,民事保全事件と同様の問題が生じており,また,被告人が勾留されている事件について,最寄りの非常駐裁判所ではなく地裁本庁に起訴がなされ,支部管内の弁護人が地検本庁まで記録閲覧のために往復しなければならない事態が生じている。

さらに,2009年(平成21年)に導入された裁判員裁判についても,実施されている支部はごく少数であり,支部管内の弁護人が公判前整理手続の度に本庁に出頭することの負担や,共同弁護人との打ち合わせが不便であるという問題に加え,裁判員として選任される住民にとっても,支部管内の地域から本庁まで出頭を強いられており,多大な負担を感じていると考えられる。

 

3 弁護士過疎解消の前進と地域の司法基盤の充実の遅れ

当連合会は,裁判所・検察庁の支部問題とともに司法過疎問題として指摘されていた弁護士過疎偏在の解消を図るために,2007年(平成19年)にやまびこ基金を設置した。同基金からは,東北の弁護士過疎地域に事務所を開設する弁護士に開業資金が支給されるとともに,同基金に基づいて設立されたやまびこ基金法律事務所に対し運営費を支給する等の過疎偏在解消のための取り組みが実施されている。やまびこ基金法律事務所でこれまでに養成された6名の弁護士は,当連合会管内の弁護士過疎地域で独立開業しているが,その多くが地域に定着して地域の司法を支えている。また近時,各地の裁判所支部管内に事務所を設置する弁護士数も増加していることも相俟って,各地の弁護士過疎偏在の解消は大幅に進んでいる。

このように,当連合会をはじめとする弁護士会側の弁護士過疎解消に向けた取り組みが成果を上げているにもかかわらず,前述した決議が採択された後も非常駐裁判所・検察庁の問題は一向に解消していない。そればかりか,不動産競売・債権執行事件等を本庁に集約する地裁が大多数を占めるようになっており,むしろ裁判所の支部機能の低下傾向はより一層強まっている。また,これと歩調を合わせるように検察庁も本庁に機能が集中するようになっている。

さらに,こうした支部機能の低下傾向は非常駐裁判所・検察庁の問題のみにとどまらず,執行官や公証人役場の偏在問題や,法務局出張所,検察審査会の統廃合の進行など,支部管内における司法サービスの全般的な機能低下が進んでいるとの指摘もある。

以上のような状況により,支部管内に居住する住民の多くは,利用できる司法機関が身近に存在しないか,あるいは身近に存在する司法機関の利用が限定され,司法サービスを受ける機会が著しく制約されている。このような支部地域の現状は,市民の身近にあって利用しやすい司法を目指すという理想に,明らかに逆行するものである。

特に,東日本大震災で多大な被害を被った東北の太平洋沿岸地域は,その多くが支部管轄区域に属しているが,震災の影響で未成年後見開始審判申立てや遺産分割事件等は増加傾向にあるとされており,被災地域の家裁支部に重点的に人員を配置したり,法廷の増設や待合室の拡大等による物的基盤を整備する必要性が大きいと考えられる。また,沿岸部の交通事情が悪化したことを考えると,各種事件が本庁のみで実施されたり,本庁に集約化される傾向にあることは,司法を利用しようとする市民の利便性を阻害するものであり,震災復興という観点から見ても,由々しき問題である。

4 むすび

以上のように,司法サービスの機能が地裁本庁のある地域に集中している現状のもとでは,支部地域に在住する住民は,法的手続を利用するために原則として地裁本庁のある地域に出向かなければならないなど,司法サービスを受ける機会が著しく制約されている。

そもそも,各地の司法機能の充実は,弁護士過疎偏在の解消と不可分の関係にあり,両者が相俟って初めて当該地域の住民に十分な法的サービスを提供できるのである。しかし,これまで述べたような支部地域の司法機能が縮小されている現状では,いくら各地に弁護士事務所が増えたとしても,地域の弁護士の職務が制約され,その地域の住民に対し十分な法的サービスの提供が阻害されることになりかねない。

したがって,すべての国民がその居住する地域にかかわらず容易に司法にアクセスできるようにし,国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するとの観点から,支部管内における司法機能を充実させることが不可欠である。

そこで,当連合会は,国に対し,本決議本文に掲げた司法の支部機能充実を図る方策を早急に実施することを求め,本決議に及ぶものである。

以上

 

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