米国政府は、2026年8月18日、国際刑事裁判所(International Criminal Court:以下「ICC」)の所長で裁判官の赤根智子さんと、検察局の職員である上級法廷弁護士アブドゥライ・セエさんを、米国の大統領令14203号に基づく、米国への入国禁止処分や資産凍結等の制裁の対象者に加えました。以下に述べるとおり、当連合会は、このような措置に対して強く抗議するとともに、ICCの完全に独立かつ自由な活動が維持されることを求めます。
ICCは、1998年に採択された国際刑事裁判所に関するローマ規程(以下、「ICC規程」)に基づいて、集団殺害犯罪(ジェノサイド罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪という、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪を行った者が処罰を免れることを終わらせ、もってそのような犯罪を防止すること(ICC規程前文参照)を目的として設立されました。ICCは、それらの犯罪に責任のある個人の訴追・処罰を任務とする普遍的かつ恒久的な国際刑事法廷です。
ICC規程は2002年7月1日に発効し、2026年現在、その締約国・地域は125に及んでいます。日本の法曹(検察官)出身者である赤根さんは、2018年3月にICCの裁判官に就任し、2024年3月からはICCの所長も務めています。
ICCは、2023年3月にロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関連して、プーチン大統領らに戦争犯罪の疑いで逮捕状を発付したところ、2025年12月、ロシアの国内裁判所において、赤根さんを含むICCの裁判官・検察官等の職員9名に対して、呼び出し状なども送られないまま欠席裁判により、3年半〜15年の拘禁刑とする有罪判決が出されたことが発表されています。
また、ICCが、2024年11月にガザにおけるイスラエルとハマスとの間の武力紛争に関連して、イスラエルのネタニヤフ首相らに戦争犯罪などの疑いで逮捕状を発付したところ、米国のトランプ大統領は、2025年2月6日、ICCの職員などに対する米国への入国禁止処分や資産凍結等の制裁を科す大統領令14203号に署名しました。同大統領令に基づいて当時のICCの主任検察官に対して制裁が科され、その後もICCの裁判官や検察官らへと制裁の範囲が拡大されました。
これらに関して、当連合会は、2025年6月25日に「国際刑事裁判所の活動を支持し、法の支配の更なる強化を求める会長声明」を発出し、ロシアや米国の措置を非難するとともに、日本政府に、それらに反対する意思を宣明することや、それらを撤回させるような外交努力、継続的な人的・財政的支援を行うことを求めました。
しかしながら、2026年8月18日、米国政府は、赤根さんとアブドゥライ・セエさんを上記の米国大統領令の制裁対象リストに追加しました。これにより、ICCの裁判官18名のうち半数が制裁を科されることになり、また、検察官や職員も、その制裁の対象となっています。その他、米国政府は、ICC加盟国に対して、ICCから脱退するよう呼びかけており、また、ICC自体への制裁も検討していると報道されています。
今般の米国政府の制裁対象を追加する措置を受けて、既に国連事務総長、EU(ヨーロッパ連合)、各国の政府、NGO、法律家団体などから、米国政府を非難し、ICCを支援する旨の声明、意見等が多数表明されています。
赤根さんは、自身が米国政府の制裁の対象に追加されたことに関して、2026年8月26日に日本記者クラブでオンラインの会見を開き、従前から、移動する際に厳重な警護が必要となっておりICCに多大な人的・経済的負担が発生していることや、今般の米国政府の措置を受けて、すでに米国企業が関連する取引ができなくなるなど、日常生活にも支障が生じていることを説明した上で、「ICCは決して負けない」「正義は、常にこれと対極にあるものに優越するし、優越しなければならない(Justice will and should prevail)」「その信念を貫く」と述べました。
当連合会は、日本の法律家団体として、赤根さんの信念を支持します。これらのICCに対する不当な圧力や、その機能を減退させるような動きは、二度にわたる世界規模の戦争の惨禍を踏まえて国際社会がたどり着いた、「力の正義・力の支配」ではなく、「法の支配」による国際秩序の維持という理念を根本から覆そうとする試みであると考えています。
また、当連合会は、「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪を行った者が処罰を免れることを終わらせ、もってそのような犯罪を防止する」というICCの理念に賛同します。その理念を実現するためには、ICCの完全に独立かつ自由な活動を維持する必要があると考えています。
そのため、当連合会は、
2 ICCに対する不当な干渉や妨害を行っている国に対して、そのような行為の即時撤回及び、将来にわたって、そのような行為をしないことを求めます。
3 「法の支配の旗手」と評価される日本政府に対して、ICCに対する不当な干渉や妨害が即時に撤回されるよう最大限の外交的努力を行うこと及び、ICCや赤根智子さんへの継続的かつ実効的な支援及び情報提供を行うことを強く求めます。
以上に加え、当連合会は、今後も、ICCに関連する問題を注視するとともに、当連合会及び当連合会を構成する弁護士会において、取りうる最大限の支援を行っていくことを宣明します。
2026年9月12日
東北弁護士会連合会
会長 小野寺 友宏
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